<劣化>:新たなイメージの創出 /"Print Generation"(J.J.マーフィー)
J.J.マーフィー(Murphy)の"Print Generation"を見た。
実験映画作家J.J.マーフィーの代表作の一つとして上げられる"Print Generation"は「構造映画」とも知られている。
本作は、映像フッテージをネガ→ポジへと現像処理をする、フィルムが<映画>になるその過程を25回繰り返し重ね焼きをした実験作品である。
本来は一回でよい現像処理の反復過程のなかで、当然「劣化」が生じるわけだが、この作品は「劣化」の新たなイメージの一側面をあらわにする。
全体は50分の作品で、25回重ね焼きをした後の何が映っているか分からないくらいの抽象的な画から始まり、だんだんともともとのクリアなはっきりとした具象的な画に移り、また再び抽象の方へ戻っていく。
抽象 → 具象 → 抽象
一方で、音についても同様に25回同じテープを録音するというプロセスが踏まれており、ここにも「劣化」があるが、映像とは逆順に並べられる。
具象 → 抽象 → 具象
つまり、映像が何が映っているか分からない純粋な色・形のときはクリアな音声(おそらく風の音)が流れ、映像がクリアにはっきりしてくるときには音声はもとが分からないくらいに劣化したノイズになる。
さまざまなフッテージが1セット(1分)として、25回×2が繰り返される。
映像が時間をかけてじわりじわりと変わっていく様を見つめると、次第にその変わりよう(予想外な変わり方)に驚く。
その感覚を簡単に図にするとこんな感じだ。
注目してほしいのは、具象から抽象へと至るグラデーションのわずかな部分に、一瞬きらめく「美しい星」がいるのだ。
これを映像として発見してしまったとき、すごく感動した。
具象に行き過ぎてもつまらないし、抽象的に行き過ぎても闇だ。この移行の中でこそ発見される、映像の星々をJ.J.マーフィーは見せてくれる。
実際に一つとりあげてみよう。
ここでは、わかりやすく具象からの移行を始めてみる。
ポスタリゼーションを感じる(…階調の縮減)
赤み、および白みを感じる
この赤みはなんだろうか、現像過程で現れるものなのだろうか?
どこか世界地図の拡大のように見えてくる…大陸と島国がある
14枚目で突如として美しい星々が現れる!これはどういうことなのだろうか?
静止画では分からないが、この星々は点滅し、より一層美しさを感じるようになる。
劣化の神秘的なイメージ…あの具象の草っぱの映像からは想像できない、新たなイメージが現れる…これが劣化なのか…
さっきまで燦燦と輝いていた星たちが、だんだんとどんよりとした曇天に覆われていく
闇の中へ…
…というような感じである。
もちろん、この一例以外のショットでも様々な変化のバリエーションがある。それはぜひとも、この”Print Generation"を見て確認してほしい。
(URLは載せないが、インターネットで調べれば見られる)
この「劣化」の新たなイメージ、美しさには度肝を抜かれ、疲れた身体もどこへ行ってしまったのだ、この文章を水曜日の27時に記し、今日も床に就くことにしよう。
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