語彙力向上のための第一歩——言葉を「理解」するということ
「趣深い」にまつわる思い出
中学生の頃、学校だか塾だかの国語の授業で『枕草子』が扱われた際、「をかし」という語に引っかかりを覚えた記憶があります。
「〝をかし〟というのは〝趣深い〟って意味だから、今とは違うんだよねー」
みたいな説明を受け、「そうなんだー」と思っていた……かどうかは定かではありませんが、
「〝趣深い〟って…どういうことだろう」
と思ったことだけははっきりと記憶しています。
「をかし」の訳語として挙げられた、当時の僕にとっては日常的に用いはしなかった「趣深い」という語。
訳せることと意味が掴めることは別なのだと、人生で初めて感じた瞬間でした。
言葉を「理解」するのは案外難しい
大学入試の現代文では、語彙の説明を求める問題に出会う機会が多くあります。
中でも、千葉大教育学部の出題が個人的に好きな問題です。
たとえば、本文中に登場する「すぐれて」「ありありと」という語に傍線が引かれ、その意味を答えさせる、平成29年度の問題。
どちらも何となくわかるような気がするものの、説明しろと言われると案外難しいものなのではないかと思います。
日ごろあやふやな理解のままでも気にせずにいるなら、これらの語を説明することはできないでしょう。
きちんと自分の言葉で説明できる状態を目指していきたいものです。
複数の辞書を引くこともあり得る
「をかし」を「趣深い」と訳すのだと確認するだけで終えるのと同様、辞書を引いてもそこに掲載されている説明を確認して終わりにしてしまう人は多いのではないかと思います。
でも、その説明を読んでも「理解」できていないとしたら…?
それは非常にもったいない話。
せっかく辞書を引くのであればその言葉を理解していきたいものです。
ではどうすれば良いのでしょう。
その助けとなる一つは、辞書の「ある特徴」を活かしてみることです。
同じ語でも辞書によって説明のされ方は異なるもの。それをうまく活用してみるんですね。
ある辞書の解説ではピンとこなかったら別の辞書を引いてみる。
それでも理解できなかったらまた別の辞書を引いてみる。
その作業の積み重ねを通して,一語一語に対する理解を深めていくことを心がけてみましょう。
もちろん、説明の中に出てくる単語の意味がわからなければその単語も調べるというのはいうまでもありません。例文の確認も忘れずに。
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知らない言葉に出会ったときに辞書を引く
さて、いつ辞書を引くのが良いのでしょう。
まずは「知らない言葉に出会ったとき」です。
「この言葉ってどういう意味だ?」と思った時に辞書を引く。
もちろんわからない言葉を前後の流れから「推測」することが必要だというのももっともなのですが、そもそも辞書を引かなくても良い状態を目指していきたいものですし、辞書を引いて言葉の意味を知るうちに推測する力もついてくるものです。
というわけで、知らない言葉に出会ったときはぜひ迷うことなく辞書を引いてみてもらいたいと個人的にはいつも思っています。
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わからない言葉に出会ったとき辞書を引く
「わからない言葉」とは「見たことはあるけれど意味を説明しろといわれると難しい」というような言葉のこととします。
そう、先ほどの千葉大の問題のようなもの。
こういう「見たことはあるし知っているけれど,意味はあやふや」という語も辞書で確認してみることをおすすめします。
最初はスルーしてしまいがちかもしれませんが、「辞書を引く」ということを意識して丁寧に文章を読んでいくうちに、自然と注目していくことができるようになります。
「意識する」ということはとても大切です。
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ふと辞書を開いてみることのすゝめ
辞書は「わからない語/知らない語」があったとき〝だけ〟引くものというわけではなく,いつ引いたって良いもの。要は,特に調べたい語がない場合でも辞書を開いてみるのだって大いにアリなんです。
私自身,家でふとした瞬間に辞書の中の適当なページを開いてみて,そこに載っている項目を眺めるということが今でもよくあります。そしてそのページに「初めて出会う語」が載っているという経験を幾度もしてきました。「こんな風に出会わなければ一生出会うことはなかったのかもしれないなぁ」と思った経験も一度や二度ではありません。
というわけで,電子辞書だとなかなか難しいかもしれませんが,紙の辞書が自宅にあるという人はぜひ「ふと辞書を開いてみる」のもおすすめです。
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「たほいや」
最後に,ちょっと変わり種をご紹介します。日本では「たほいや」と呼ばれる遊びです。本当はチップを使って遊ぶようですが,チップはなくても楽しめる遊びです。
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[遊び方]
①親(=出題者)を決める
じゃんけんでOKです。出題者になる親を決め、それ以外の人は回答者です。
②お題を決める
親は辞書の中から適当な言葉を選び、選んだ言葉だけを全員に伝えます。
③回答者が解説文を書く
②で伝えられたお題の「辞書みたいな解説」を回答者が考えて書き、親は辞書に載っている解答を書いておきます。
④集まった解答と辞書に載っている解答を読み上げる
回答を集め、親が全員分(正解も含め)の回答を(誰が書いたかわからないように)読み上げます。
⑤回答者が「どれが辞書の解説か」予想する
正解者とらそれらしい解説を書いて他の人をひっかけることに成功した人が勝ち。
3人いれば遊べますが,できれば4人以上で遊ぶとなかなか盛り上がります。
おわりに——辞書の収録語数から見えるもの
『新明解国語辞典 第七版』に収録されている項目の数は77,500,ページ数は1651(字義解説部分のみ)。これらの全ての語を知っているという人はそう多くないでしょう。
ということは,辞書の中には「まだ出会ったことのない言葉たち」がたくさん存在しているということなのです。言葉を知るということは「現代文」の学習の基礎であることはもちろん,それ以上に私たちのコミュニケーションを豊かにし,大げさではなく世界を豊かにしてくれるものです。
そうであるなら、辞書にある「まだ見ぬ言葉たち」は魅力的な存在だと言えるでしょう。
自宅にいることの多い今、ふとしたときに辞書を手にとり、いろいろな言葉に触れてみるのはいかがでしょうか。
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