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結局自分が一番嫌い

 後悔は何百回もしてきた。もちろん嬉しいこともあった。でもやっぱり、良い思い出よりも、悪い思い出の方が頭には残りやすい。もう戻れないこの苦痛は一生ついてくる。たくさんの重りをズルズルと引きずっている気分だ。とても重い。
 怒られることは嫌いだ。マイナスな気分が一気に押し寄せてくる。だから、どんなに自分のやりたいことがあっても、途中で親とかに指示されたらそれに従った。怒られるのは嫌だからね。もちろん、そんなことを続けていたら自分の心は持たない。でも、これをしたのは自分だ。自業自得。もうこの気持ちから逃げることは出来ない。自分の欲望に逆らうってこんなに苦痛なんだ。そう実感した。こんなことしなきゃ良かったと思う。自分はなんて馬鹿なのだろう。
 これは自分の罪だと考えた。この苦痛は罪悪感なのではと考えた。
 無意識に身体に傷をつけていた。自分が罪を犯した印だ。こんなことをしても苦痛は消えないことはわかっている。でも、少しでも消えてくれるなら僕は満足なんだ。
 どんどん、どんどん嫌になって、辛くなって、苦しくなった。只々苦しみに浸っていた。一回でも欲望に従ってもいいと思った。だから、僕は両親を殺した。
 両親を殺した理由は、憎かったからだ。僕がいい事をしても両親は褒めもしなかった。毎日怒るばかり。大嫌いだった。
 家で過ごしていて突然、誰かと話をしたい気分になった。孤児院にでも行って子供を引き取ろう。
 僕が行った孤児院には、偶然弟がいた。テトラという名前だ。久しぶりに会えてすごく嬉しかった。この気持ちも久しぶりだ。
 僕はテトラとの思い出を後で振り返られるように、家の中に防犯カメラを設置した。テトラと話しているとすごく落ち着く。辛かった気持ちも自然に忘れていった。
 テトラは僕の居ない時に日記のようなものを書いていたようだ。隙を見て日記を読んでみると、驚いた。テトラは僕のことをヒーローと書いていた。読み進めていく度に、感動とともに涙が出てきた。雫が日記に落ちないように、そっと日記を閉じ、自分の部屋に戻り泣いた。そして、いつの間にか眠っていた。
 テトラと過ごして六ヶ月ほど経った日の朝、起きたらテトラはいなかった。すぐさま防犯カメラを確認し、僕は全てを悟った。僕は誰とも会話なんてしていないし、家には僕しかいなかった。そもそも、施設へなんて行っていない。日記も自分で書いていただけ。両親も殺していない。眠っていた隙に脱走しただけ。
 全部思い出した。
 僕に弟なんていなかった。テトラという人間は、最初から存在していなかったんだ。

〈あとがき〉
『幸福だけど不幸だった、不幸だけど幸福だった』のヘプタさん目線の話です。良かったらそちらも読んでみてください🙇‍♀️
 ちなみに、ヘプタさんは25歳くらいだと考えて書いています。テトラ君が存在していたとしたら18歳差ですかね!幸福不幸を書いている途中は、テトラ君は存在しているつもりだったのですが、いつの間にか存在していないことになっていました。
 最後まで読んでいただき感謝します。ありがとうございました。
 


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