東日本大震災から11年、次世代基盤政策に何が求められているのか
1.はじめに
こんにちはNFI理事の加藤です。
今日、3月11日は東日本大震災から11年目の日となります。まず、この震災で亡くなられた沢山の方々のご冥福をお祈りします。また、この2年間は新型コロナウイルスの感染拡大による大変な状況が続いています。
こういった中で、例えば被災地に支援を届けるために、感染拡大を防止するために、データの果たす役割も益々重要になっています。そのデータを社会で活用するためには、データを活かす政策が必要になってきます。まさに次世代基盤政策が求められています。
NFIでは、2021年3月11日に、「災害時情報共有に向けたNFIからの5つの提言(案)」を公開しました。ここでは、マイナンバーを法的に利用できるようにすることや、電子的に情報をやり取りすること=データの活用、を提言しています。提言から1年がたって振り返ってみますと、これらの提言の重要性は変わらぬ一方で、未だ、必要な制度の整備の目途はたっておりません。
一方で、災害時の情報共有を取り巻く社会的な環境は変わりつつあります。今日はその変化について、少しご紹介を出来ればと考えています。それぞれの詳細については、このnoteでも引き続き紹介をしたいと考えていますので、今日はほんの入り口になりますが、ご覧いただければ幸いです。
2.日本国内の動き
2022年3月8日、内閣府の防災分野における個人情報の取扱いに関する検討会の第1回検討会が開催されました。この検討会の趣旨については以下のように説明がされています。
災害時情報共有については、大変重要な論点ですので、このような検討会で個人情報保護の問題が正面から議論されることを大変うれしく思います。一方で、公開されている資料などを拝見しますと、以下のような疑問も生じました。
「個人情報の取扱を明確化する指針を策定する」ことが目的とされているが、「指針」で十分なのか?
「要支援者名簿」と「被災者台帳」が取り上げられているが、「避難所名簿」が含まれないのはどうしてか?
NFIは、これまでの活動及び提言を通じて、災害時の個人情報の取扱を適正に行うことが出来るような立法も視野に入れた制度整備を訴えてきました。これは既存の法制度の解釈では、どうしても限界があるということを、過去の事例の分析を通じて理解したからです。果たして、「指針」の作成で十分な手当が出来るのかは疑問です。
また、「避難所名簿」が取り上げられないことは、被災者への有効な支援を実現できないのではないかと憂慮します。「要支援者名簿」は発災前に作成されるものですし、「被災者台帳」の作成には発災から時間がかかる上に世帯単位での把握が多いという理解です。発災直後の被災状況が直ちに反映されるのは「避難所名簿※」であり、これを見ずして被災者への有効な支援は行えないのではないかと主ます。
※なお、「避難所名簿」に記載されない、避難所に避難しない被災者もいることから、NFIではマイナンバー等を利用した悉皆的な被害把握を提言しています。
以上のように、現在のところ疑問点はありますが、このような議論がキックオフされたことは歓迎すべきことです。今後の議論の推移を注視していきたいと思います。
3.欧州の動き
GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)の存在がデータ保護政策の議論にあたっては有名な欧州ですが、実はこのGDPRは欧州が2019年までに進めてきた「デジタル単一市場戦略(Digital Single Market Strategy、DSM戦略)」の重要な施策の一部と位置づけられています。
2019年12月にUrsula Gertrud von der Leyen氏が新しい欧州委員会委員長に就任すると、DSM戦略を一歩前に進めた「デジタル戦略(Digital Strategy)」を公表しました。現在、このデジタル戦略に基づいて、様々な施策が検討されています。
災害時情報共有の視点で考えると、現在、特に注目すべき2つの法律案が欧州委員会から提案されています。1つは「データガバナンス法(Data Governance Act)案」、もう一つは「データ法(Data Act)案」です。
データガバナンス法案では、「データ利他主義※(Aata Altruism)」と呼ばれる考え方導入され、利他主義的なデータ利用のための道筋が示されています。また、データ法案では、第5章で以下のような内容が示されています。
いずれの法案も災害のような社会的な事象において、どのようにデータを利用していくかを考える端緒になっています。いずれも法案の段階ではありますが、今後、議論も活発化することが予想されます。NFIでも、これらの動きを注視していきたいと考えています。
※データ利他主義については、NFIの関係者を中心に、以下に内容をまとめていますので、よろしければ併せてご覧ください。
「欧州におけるデータ利他主義の展開に関する一考察~データガバナンス法及び欧州におけるヘルスケアデータ活用を端緒として~」
4.NFIからの医療情報利活用制度の提言
最後にもう一つ、NFIからのお知らせがあります。NFIは3月17日(木)に以下にようなシンポジウムを開催します。ここでは、医療情報の利活用をどのように進めていくかを議論します。当日はNFIからの「医療情報利活用制度の提言」を公表する予定です。
災害時の情報共有と医療情報は切っても切り離せない関係にあります。被災者への支援を考えるとき、第一に必要な医療支援を検討する必要がありますし、超急性期や急性期だけでなく、それ以降の長期的なケアの必要性もあり、継続的にデータを利用する必要があります。また、生命身体財産保護の必要性や、データ利用目的の公益性等、データ利用の適正性を考える上でも似たような性質を有していると考えています。
是非、こちらの議論もご覧いただき、災害時情報共有の視点も踏まえたさらに広い議論が出来ると良いなと思っています。
NFIシンポジウム:医療情報をもっと活用しよう! 〜利活用を可能にする個人情報保護のあり方をめざして〜
【開催要項】
日 時 2022年3月17日(木)15:00〜18:30
会 場 オンライン開催(WebEX)
主 催 一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)
後 援 一般財団法人 情報法制研究所(JILIS)参加費 NFI会員・後援団体:無料、一般:1,000円、メディア:無料
(要事前登録・無料参加にはクーポンコードが必要です。)その他 登録は「こくちーず」より
メディア参加をご希望の方はNFI事務局(contact@nfi-japan.org)までご連絡ください。折り返し、クーポンコードをお知らせします。
【開催趣旨】
メインテーマ:医療情報をもっと活用しよう! 〜利活用を可能にする個人情報保護のあり方をめざして〜
コロナ禍を経験して、われわれは医療情報の重要性を改めて認識しました。感染のリスクにせよ、重症化の可能性にせよ、またワクチンの有効性や副反応にしても、幅広く正確な情報を収集し、その解析結果を早く知らせることが重要です。
わが国では、これまでも医療分野におけるデジタル化が推進されてきましたが、まだ先進諸国に比べると遅れています。その原因は、データを収集し、利活用するためのシステム、とくにその標準化が遅れていることと、個人情報保護の制度とその運用が、効果的な利活用の制約となっていることです。
個人のプライバシーを保護しつつ、国の貴重な情報資源である医療情報を利活用し、治療現場における医療の質を高め、医薬品や医療機器の開発を推進するためには、医療情報の性質に即したデータの収集、管理の仕組みを作ることが急務です。とくに、コロナ治療薬等において、新薬の迅速な開発が世界的な課題となっているおり、それに資するようなデータ利活用のための制度を設ける必要があるといえるでしょう。
このシンポジウムでは、このような課題について、今回はとくに新薬開発のために必要な医療データ利活用の制度とはどのようなものか、それにはどのような課題を解決しなければならないか、個人情報保護の問題に焦点を当てつつ、議論したいと考えております。
5.おわりに
以上のように、災害時情報共有を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。そのなかで、NFIも何か役割を果たせるかもしれないと考えています。提言を出発点として、引き続き研究活動を継続してきたいと考えています。