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パラサイト

『パラサイト 半地下の家族』というタイトルの響きと、ポスターが醸し出す不穏なイメージから、暗くて残酷なだけの映画かと思っていた。この頃は社会に希望を持てないからか、そういった類いの映画やドラマを毛嫌いしていて、あまりこの映画を観に行く気にはならなかった。「悲しいのは、現実で十分」とよく話している。しかし、この映画を観た友人に感想を聞いてみると、みな口を揃えて絶賛するし、暗いだけじゃなくてストーリーが面白い、とのことだったので仕事終わりに観に行ってみることにした。

確かにユーモア要素も多くて、思いもしない展開に惹き込まれる2時間だった。見応えがある、という言葉がぴったりだ。一緒に観に行った友人は横でずっとペットボトルを握ったままで、手に汗を握るとはこのことを言うんだろう。

恥ずかしながら、ソウルの低所得層が半地下に暮らすことをこの映画を観るまでよく知らなかった。貧困に苦しむ「半地下の家族」は「丘の上の家族」に“寄生”していくわけだが、彼らが決して極悪人ではないところがこの映画のポイントだ。andymoriの楽曲“teen's”にある『金がもしもないなら その手は人も殺すだろう』という歌詞が頭に浮かんだ。この歌詞に妙に納得してしまうように、この家族のこともなんだか他人事には思えないのである。父は温和で母は元メダリスト、兄は頭がいいし、妹には美術の才能がある。家族はお互いを思いやる優しさで繋がっていて、貧乏であることを除けばいい家族にも見えるだろう。

人間の弱さなのか、はたまた強さなのか。極限の状態に追いこまれたときに何をしでかすか分からない恐怖は、誰にでも潜んでいると思う。それは時には必要な生命力であり、一歩間違えばこの家族のように度を越してしまうのかもしれない。

「丘の上の家族」の奥さんを皮肉にも“シンプル”と表現していたのも、個人的には印象に残った。家族を守ろうとドタバタするが、どこかピントがずれていて、自分ではどうすることもできず、お金に頼る以外の考えがない。だから簡単に騙されてしまう。何か適当な理由をつければ簡単よ、と家政婦を解雇したシーンは恐ろしかったし、裕福な暮らしを送る彼女も全く幸せではないのが、この映画の恐ろしいところだ。ただ格差社会を嘆いているわけではなく、登場人物ひとりひとりがあまりにも“人間”なのである。

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