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四季を選ばない「卒業」

その日、早めに家を出てロックフェラーセンターの前を通って、卒業式の会場になっている、ラジオシティに行くと決めていた。

初夏の風が気持ちよかった。当時住んでいた、8番街の近くにある女子寮を出て、6番街まで歩いた。ちょっと歩くと、ポリエステル100%の黒のガウンに、陽射しが溶け込んでくる様で、暑くなった。

式の前のプロローグ
23丁目の駅から、オレンジの地下鉄、Fラインに乗って、ロックフェラーセンター駅で下車。

地上に上がると、冬にお馴染みのアイススケートリンクと、向かい合わせにそびえる、ロックフェラーセンターまでは徒歩3分。

そこの広場で、毎朝NBCテレビ局の"TODAY SHOW"の中継をやっている。ニューヨークに住む様になってから、いつの間にか朝は、この番組を見て天気予報をチェックしたり、主要なニュースを見たりする様になった。

番組のアナウンサー達が、全部で4〜5人いて、時間帯で人が入れ代わる。主要キャスターは3人。その中の一人が、日系アメリカ人のハーフで、私はいつも憧れて見ていた。

確かにどうでもいい事だけれど、いつかこの人を実物で見たい、と思う様になっていた。学生生活の間、行こうと思えば行けただろうに、とも思うけれど、結構過酷に忙しかった。とにかくファッション・デザイン課程は、提出物がいつも鬼の様にあった。

時間が早いせいか、いつもテレビで見る様な、人だかりにはなってなかった。「まだかなー」キョロキョロ見渡しては、何となく自分の行動を持て余していた。

急に歓声が上がった。アナウンサー達が外に出てきたんだ。「いたいた!」遠目からだけど、凝視してしまった。「綺麗だなあ。。。」笑顔が華やかで、この人に自分と同じ、日本人の血が流れているのかと、今更ながら思い、独り密かに感動していた。

自分にとっての、今日のもっと大切な行事、卒業式はこれからなのに、何だかもう、一つ大仕事を成し遂げた気分になっていた。


卒業式が始まる。。。
ラジオシティに着いた。着く前から、もう同じ大学の卒業生達が、通りに沢山見えていた。建物に入って、クラスメート達を見つけては、写真を撮りあって、結構自分ながらはしゃいでいた。

動く度に、卒業キャップが移動する。いちいち直す。「とうとう卒業するんだな。」

着席すると、さすが、ファッション大学の卒業式だけあって、卒業キャップに色々デコレーションしてあるのが、たくさん目に着いた。
卒業式が始まる。。。


卒業式が終わる。。。
「norico, 卒業したんだから、タッセルは左に移さなきゃ。」そう言って、隣に座ってたクラスメートが、私の帽子のふさを移動してくれた。
卒業式が終わる。。。


2000年、6月の事
この卒業式は、20年前の話。

離婚後、自立を目指して、97年にニューヨークへ来た。着いた日、エンパイア・ステートビルディングに一人登って、「卒業するまで、絶対帰らない。」気分に浸りまくって、ニューヨークの夜空を見上げた。(夏休みの度に実は帰っていた。)


3月=卒業=日本人
自分の学生最後の卒業式が6月でも、日本を離れて、アメリカで永住する事となった今でも、3月になると、「ああ、卒業式の季節だな」と、思う。

愛くるしい幼稚園生、緊張する小学生、そこからどんどん大人に近づいていく中学生や高校生を想像する。もうその後は、大学生も、大学院生も、みんなそれぞれ達成感だったり、将来への希望や不安を感じて、卒業の日を迎えるんだろうな、と思ったりしてる。



人生の『卒業』ってあるの?
自分は、人生のやり直しで、40歳を目前に大学を卒業した。年齢だけで語って仕舞えば、上には上がある。50歳を過ぎて、大学へ戻り、又勉強をする人もいる。もちろん、学校だけが「学びの場」では無いし。

人生、一生が勉強。と、よく耳にする。「卒業」すると、そこから又、何かが始まる。あの、2000年、6月の卒業式。私の心に一番グッと来ていた感情は、「達成感」だった。

その後、ファッション業界で就職をし、幾度となく、レイオフと再就職を繰り返し、今、このパンデミックで去年の3月末に、7回目のレイオフ。ファッション業界の打撃はアメリカでも大きい。

レイオフに会う度に、確かに新しい道を、又切り開いて来た、という自信はある。アメリカでは、履歴書に年齢を書く必要もなく、面接で年齢を問う事は、法律に反する。でも、20年の経験は隠せないし、自信をもって提示したい。ここは、忍耐と柔軟性を持って、乗り切らなければ!

人生の卒業は、まだまだ遠い先の事。きっと四季を問わずに、思わずふと、思う日が来るのかな。。。

卒業を迎える全ての学生の方がたへ、海を超えて、そして心を込めて、『ご卒業、おめでとう。』

追記:ホントにちっちゃいけれど、フリーランスのお仕事来ました。

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