24時間都市のためのイノベーション ──「GLOBAL NIGHTTIME RECOVERY PLAN」を読み解く
Covid-19により2021年現在の私たちの生活は一変しました。「ナイトタイム」への制限が顕著になっている中、私たちが暮らす都市の「夜の時間」が活気を取り戻すためには、どのような施策が必要なのでしょうか?
ナイトデザイン領域で事業を展開しているNEWSKOOLは、ナイトタイムエコノミー推進協議会(JNEA)が日本語翻訳版を公開している「GLOBAL NIGHTTIME RECOVERY PLAN(以下、GNRP)」の翻訳に携わっています。「GNRP」は、Covid-19の猛威下でのロックダウンや地域における規制のなかで、ナイトタイムやそれを支える都市全体が再興するための有効なアプローチをまとめた調査レポートです。
第1章では「屋外空間とナイトライフとCOVID-19」の読み解きを行いました。屋外空間の活用をより柔軟にしていくためには事業者と住民、行政の一層の連帯が必要であることを調査しました。
第一章の詳細はこちらから。
前回の記事ではGNRPの2章「ダンスフロアの未来」の読み解きを行い、ダンスフロアの未来を築くために今すべきことは何か、そのヒントを探りました。
第二章の詳細はこちらから。
今回の第三章においては「夜の都市に人々を呼び戻す」ことを目的とした3つのアプローチをご紹介します。
①夜間帯におけるストリートとスペースの活性化
②(過小評価されているが重要な)イルミネーション(明かり)の持つ役割の顕在化
③都市の夜間帯における「移動」に対する包括的なアプローチの開発
Covid-19時代において安全で魅力的な都市の「夜」を創造するために直面する問題、特に「感染再拡大」によるさらなるロックダウンや地域における規制の問題を取り上げ、解決策を検討をしていきます。
1:24時間都市のためのイノベーション
都市開発のスペシャリストであり「THE URBAN VISION」のCEOであるPRATHIMA MANOHARは以下の言葉を残しています。
「ポスト・Covid-19の都市は、生活文化の創造とより良い都市主義のために、ナイトタイムエコノミーを取り入れなければならない。活気あるナイトライフとナイトマーケットを備えた 24時間営業の都市は、クリエイティブシティの重要な要素だ。夜間に活気のある都市は、多くの人の目の監視により安全な都市であることも多い」
Covid-19以前と比較して、世界中の多くの都市では外出する人の数が70%も減少し、特に都市の中心部、文化産業やナイトライフの舞台となるような繁華街ではその傾向が顕著です。もちろん、日本も例外ではありません。
一方で都市の「ナイトタイム」は、経済的、社会的、文化的な幸福・利益に貢献しています。都市の経済機能の回復には、Covid-19の時代におけるナイトタイムの創造が求められ、特に大きなスケールでの革新的な都市の活性化戦略が重要です。
社会の復興/活性化戦略において、昼夜問わず「安全」を都市に戻すことは不可欠です。
社会の活性化のための手段として以下の3つの方法をご紹介します。
①都市の夜を魅力的にする
行政や企業、芸術、地域コミュニティなど、多様な人々を巻き込み、その場所に根ざした復興戦略を立てる。
②夜を促進するための規制の柔軟化
人々が安全に楽しみ、再び自分たちの都市を移動できるように働きかける。
③市民との適切なコミュニケーション方法の構築
自分たちに何が提供されているのか、安全のために何が行われているのか、どうやって移動するのかを市民の誰もが知ることができるようにする。
上記の方法を実践した例として今回はシドニーの例をご紹介します。
シドニーは24時間都市のビジョン策定、計画、データ収集、効果測定の最前線に立っており、24時間都市を志す他の世界的な都市にとってのモデルケースとなっています。
シドニーでは、ナイトライフに関する課題として、州が定めた「ロックアウト法(アルコールによる暴力を減らす目的で導入された規制)などが存在しました。
ロックアウト法により市内のナイトクラブ、バーは午前1時30分以降の客の来店を拒否し、午前3時にはアルコール提供の停止を余儀なくされていました。
しかし、2019年6月に市議会は夜の街の営業時間延長、革新と拡大を促進するための政策を発表しました。この政策では夜間労働者のための交通機関、ショッピング、ヘルスケア、公共サービスを提供することの重要性が強調されてます(詳細はこちら)。
シドニーの事例では先に挙げた3つの手段、「都市の夜を魅力的にする」「夜を促進するための規制の柔軟化」「市民との適切なコミュニケーション方法の構築」が実践されています。
上記の3つの手段は夜の回復を目指す戦略的な手段であり、24時間都市は「ナイトタイムエコノミー」に関わる人々だけでなく、市民であるすべての人々によって構成されているという戦略的認識を構築することが重要なのです。
2:ILLUMINATION:明かりを照らし続ける。
人々がそれぞれの目的地へ安全に移動するためには、視認性の確保・向上が必要です。適切に設計された照明(ILLUMINAITON)は安全で魅力的なナイトタイムを実現するうえで非常に重要です。とりわけ「24時間都市」を目指す都市にとって、店舗の営業時間や昼間の活動を夜間まで延長するためは、照明は不可欠な要素となります。
都市の活性化のための方向性として以下の方法が挙げられます。
①光の力で都市へ訪れる人々を歓迎する
公共スペースとプライベートスペースを光で区切る、人々を誘導することにより、Covid の感染防止にも役立てられる。
②暗闇の中でも来る人の安心感を高めるための光を展開する
明るく照らされたシェルター、公共空間での休憩場所の設置、安全な照明付きのスペースの提供など。
この内容の詳細はこちら。
ここでは照明を用いた解決策の例を紹介します。
3:MOVEMENT:都市への夜間アクセス支援
GNRPでは、都市における移動手段に関するこれまでの成功事例と新たな取組について検討し、今後数ヵ月で迅速に各国の都市に導入可能で、かつその後も長期的に維持継続できる安全な都市移動について調査をしています。
Covid-19による危機的状況は、単にナイトライフを楽しむ人たちだけではなく、夜間における仕事に従事する人たちにとってより安全で効率的な移動手段を提供するための体制構築のきっかけにもなり得ます。
夜間の移動においては特に「安全性」が重要となりますが、Covid-19以前でさえ、夜間移動がきちんと整備されている都市はほとんどありませんでした。交通機関には、安全性、適正価格、効率性、信頼性、これらの要素が担保されてなければなりません。
以上の要素が担保された夜間移動のあり方を考えるべく、3つのアプローチを以下にご紹介します。
①ナイトプルーフィング(夜間における移動戦略が機能する方法)
夜間経済の優先順位を高めるための安全で照明設備の整ったインフラの整備、交通機関の適正な価格設定など。
②マルチモダリティ(人々の暗くなってからの選択肢とアクセスを最大限に増やす方法)
歩行者の増加に対応する歩道や、充分な座る場所の確保、照明の整備、自転車置き場の確保。また道路閉鎖、交通量の少ない地域(LTN)への対策、公園や公共スペースの再配置など。
③コミュニケーション(安全のための情報をオープンにすることで人々を歓迎する方法)
市当局と交通機関の運営会社による住民、訪問者、労働者への交通機関の安全性とリスクを軽減するたの行動規律を伝達など。
この内容の詳細はこちら。
上記の手法を実践した例としてインド・ムンバイにて行われた、女性にとっても、すべての人にとってもより安全な夜間都市の実現を目的とした「セーフシティー」というプロジェクトがあります。
各都市は多様な人々にとって街の安全性の確保を目指し、また夜間においても安心して過ごせる街を構築するという課題を持っています。
ムンバイのセーフシティ・チームはユーザー体験調査、都市デザイン監査、アプリを活用したレポート等、さまざまな取組によって、企画者、交通機関、土地所有者、支援団体といった関係者が、どこで、いつ、なぜ女性が安全だと感じないのかについて、正確な情報を得ることができ、危険地域の特定を可能にしました。
その後、犯罪等が日常的に発生するような女性の安全を脅かす場所において、夜間におけるより安全な都市の実現とモビリティー体験の提供を実践した結果、もともとは女性のためのプロジェクトでありながらすべての人にとってより安全な都市体験を提供することに成功。安全な居住区のためのセーフシティ・キャンペーンに参加した女性の80%が、夜の7時以降の公共空間をより自信を持って通行できるようになったと答えました。
以上から、上記に挙げた3つの方針、「ナイトプルーフィング」「マルチモダリティ」「コミュニケーション」は夜だけでなく、都市全体の社会的・経済的活気を取り戻すために重要な方針であることが分かりました。
Summary:想像力と勇気と強固な連携
今回は24時間都市に移行するためのイノベーションをテーマとした章でした。GNRPでは都市回復のために私たちがするべきことを紹介し、その根底に「街の根本的な変革への着手」を挙げています。ナイトライフは都市の競争力であり特徴であり、その街の文化でもあります。
現在も感染症の拡大は、文化、社会、経済、そして私たち一人ひとりに大きな影響と難しい課題を与えていますが、一方でこの状況はより良い「ナイトタイム」の再構築、さらには「都市機能の改善」をも構築できるチャンスだと言えます。GNRPでは現在の条件下でアドバイスとなりうる情報を提供するとともに、夜間事業が恐るべきものではないことに気付き始めている多くの都市との情報共有を行い、少しでも早い安全な都市の回復を目指しています。
弊社NEWSKOOLはこうした「ナイトタイム」の隆盛に従事し、様々なプロジェクトから得た経験と専門家としての知見を活用し、企業・行政・クリエイティブ人材・消費者を巻き込むNIGHT DESIGNを推進していきます。
詳しくは弊社のHPをご覧ください。
『Night Design Lab』とは?
新たなる「夜の価値」を探す研究機関です。国内外のナイトタイムエコノミー事例やナイトカルチャーに関わるキーパーソンへの取材、ナイトタイムの課題や新しい楽しみ方の提案、インサイトの発信を行います。
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