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東日本大震災から10年。特集ページ「知るは、チカラになる。」にYahoo!ニュースが込める思い

東日本大震災から10年。Yahoo!ニュースでは3.11に合わせて、東日本大震災特設サイト内に「知るは、チカラになる。」という特集をオープンしました。

さまざまなパートナーから配信される3.11関連記事がまとめて読めるほか、今年はツイッターのハッシュタグを利用したユーザー参加型企画や、Yahoo!ニュースのコメント機能から読者の思いを共有できるコンテンツなど、新たな取り組みが随所に見られます。

また、2021年3月1日に経営統合したLINEとの連携を含め、特設サイトの制作に尽力した、企画担当の押尾さおりさんと、編集担当の中上芳子さんにその舞台裏を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

3.11の記憶を自分事として語ってもらう工夫

「Yahoo!ニュースではこれまでも東日本大震災に合わせて様々な取り組みを行ってきました。しかし、災害に関する記事は時が経つに連れ、次第に読まれにくくなっている傾向があるのも事実です。一方でYahoo!ニュース トピックスの編集を手掛けてきた経験上、ユーザーに届きやすいのは当事者の言葉であることもわかっていました。そこで、今回の特集においても、当事者でなければ語れない体験、当事者でなければ口にできない言葉を重視した構成を考えました」

そう語るのは、Yahoo!ニュース編集部の中上芳子さん。ただし、当事者だけのものにするのでは意味がありません。そこでカギとなるのは、10年を経た東日本大震災をいかにして“自分事”として捉えてもらうか、でした。

「今回の特集に向け、『#あれから私は』と『#これから私は』という2つのハッシュタグを設定しました。毎年この時期、SNS上では震災に関するコメントがたくさん投稿されているにもかかわらず、関連する記事はあまり読まれない場合も多く、ギャップが生じています。そこで、直接被災していない人たちにも、自身が東日本大震災で感じたことや被災地への思いを積極的に共有してもらうことで、そのギャップを埋めようと試みました」(中上さん)

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ハッシュタグ付きの投稿はYahoo!ニュースの記事内で募集を行った

関西や九州、あるいは海外など、被災地から遠く離れた地域で暮らしている人にも、未曾有の被害をもたらした東日本大震災は大きな衝撃を与えたはず。そのニュースをいつどこで、どんな立場で聞いていたか、10年経った今、当事者ならずとも思うことはたくさんあるでしょう。

そこで「知るは、チカラになる。」では、著名人が当時を振り返る「あの人の10年」、そして「#あれから私は」のハッシュタグが添えられたユーザーたちのツイートをまとめています。

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「ただし、『#あれから私は』というフレーズは、震災を自分事として語りたくなるハッシュタグとして機能はするものの、3.11当日だけのイベントで終わってしまってしまう懸念もありました。そこで3月12日以降も、復興へ向けた取り組み、防災への意識を継続できるように、『#これから私は』というもう一つのハッシュタグを加え、未来に目を向けていただく工夫をしています」

つまり、3月11日までは「#あれから私は」のハッシュタグを。そして12日以降は「#これから私は」のハッシュタグをと使い分けることで、この10年の振り返りと同時に、この記憶を糧に今後、自分がどうしていきたいかを考える場にしてほしいと話します。

そんな編集部の願い通り、「#これから私は」というハッシュタグのついた記事やSNSへの投稿を12日以降も見ることができます。

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特設サイトの周知にLINEとも連携

今回の特設サイトの制作にあたり、メディアとしてのYahoo!ニュースが備える機能を有効活用してできることを模索し、社内外の調整に奔走したのは、Yahoo!ニュースの企画担当・押尾さおりさんです。

「前任者から引き継ぐ形で私がプロジェクトに加わったのは、昨年10月からです。コンセプトを整え、Yahoo!ニュース、そしてヤフー全体が持っている機能で何ができるかを考え、議論を重ねました。そうして生まれたのが『#あれから私は』と『#これから私は』という2つのハッシュタグ。これをヤフー単体で周知するのではなく、TwitterなどのSNSはもちろん、経営統合したLINEからもこの企画に関心をもってもらう機会を作りたいと考えました 」(押尾さん)

2021年3月に実施されたヤフーとLINEの経営統合はメディア業界のビッグニュースになりましたが、今回の特集制作にも様々な影響を与えたと押尾さんは言います。

「たとえば、LINE NEWSのアカウントをYahoo!ニュース上に作成し、配信媒体の一つとして記事を提供してもらいました。また、Yahoo!ニュースもLINE公式アカウントを開設し、相互にコンテンツを共有しています。これは今年ならではの新しい試みですね」(押尾さん)

複数の媒体にまたがる全社的な調整は、やはり一筋縄では行かなかったと振り返る押尾さん。そんな苦労の甲斐あり、さまざまなメディアが連携することで、読者に対しても新たなフェーズを印象付けました。

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「また、今回から新たな取り組みとして、東日本大震災というワードを含むすべての記事に、『知るは、チカラになる。』へのリンクバナーが表示されるようになっています」(押尾さん)

SNSの進化がさらに新たなコンテンツに

「この10年間で、SNSは著しく進化し、多くのユーザーに浸透しました。そのおかげで取材を通さず、さらに被害の大きさにかかわらず当事者がどんどん声をあげられるようになりました。大きな変化だと感じます」

10年目の特設サイト制作に携わった所感を、そう語る中上さんの前職は通信社記者。10年前は茨城県に駐在し、3.11取材に奔走した経験を持っています。

「当時、茨城県内でも深刻な被害が出ていたにもかかわらず、報道はどうしても東北エリアが中心になり、支援の手が届きづらいという悩みがありました。私自身、取材して記事を書いても、その被災の事実がなかなか全国に行き渡らないと感じていたので、こうして当事者の声が届きやすくなったのは有意義だと感じます。だからこそ、10年前にいた場所や被災の大きさ、有無にかかわらず、いろいろな人に『あの時』を語ってほしい、そうした声を受け取ってほしいなと思いました」(中上さん)

そうしたテクノロジーの恩恵をフル活用するために、Yahoo!ニュースでは2020年から、コメント機能をそのままコンテンツ化する試みも行なわれています。

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「Yahoo!ニュースのコメント機能から、ユーザーの皆さんがこの10年で学んだことや今感じることなどを投稿していただいています。発端は2020年3月、新型コロナウイルスの感染拡大により、3.11追悼式典などが軒並み中止に追い込まれたこと。それぞれが思いを語る場を設けたいという意見が寄せられ、コメント記事という形で実現しました。今年も当事者の方からもそうでない方からも、多くのコメントをいただいています」(押尾さん)

この10年の間に、物理的な復興は着実に進んでいるものの、故郷や家族を失った人は少なくなく、いまだ仮設住宅暮らしを強いられている被災者もいます。

「直接被災した人だけが当事者ではありません。被害のない地域の人々や、ボランティアを経験していない人であっても、当時の空気は必ず覚えているはず。この『知るは、チカラになる。』では、そうした人たちも積極的に巻き込んでいきたいですね」(中上さん)

本当の意味での復興に向けて、そして新たな災害への備えをするために、一人ひとりが東日本大震災を記憶し、意識を向け続けてほしい。そんな願いが、このサイトには込められています。

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