世界の映画に何が?ケン・ローチ監督が語る”貧困と格差”
ここに3つの映画のポスターがあります。
今年公開されたアメリカ映画「ジョーカー」
来年公開される映画、
「パラサイト~半地下の家族~」
そして、イギリス映画
「わたしはダニエル・ブレイク」
この3つの映画には、
ある共通点があります。
それは「格差」「貧困」といった
現代社会がかかえる社会問題を背景に
えがいています。
なぜこうした映画が支持を集めているのか
今回、家族を幸せにする仕事テーマに
撮影をした
「わたしはダニエル・ブレイク」の
巨匠ケン・ローチ監督に話を聞きました。
(2019年12月18日放送)
“バットマン”の悪役が、
なぜ誕生したのかを描いた『ジョーカー』。
貧困、格差、差別などに苦しむ男が
復讐を誓うストーリーは、
ベネチア国際映画祭で
最高賞の金獅子賞を受賞しました。
カンヌ国際映画祭で、
最高賞パルムドールに輝いた
韓国映画『パラサイト 半地下の家族』。
半地下で暮らす失業中の貧しい一家が
就職先にした高台の豪邸には、
ある秘密があったというストーリーです。
2016年、パルムドールを受賞した
『わたしは、ダニエル・ブレイク』。
貧困に苦しむ社会的弱者が、
複雑な社会制度に翻弄され、
人としての尊厳を奪われていく姿を描きました。
この作品を手がけたのが、
巨匠、ケン・ローチ監督です。
世界中の映画が“貧困”“差別”を描く中、
ケン・ローチ監督は今回、
“現代社会の格差”をテーマにした
作品を発表しました。
●ケン・ローチ監督(83)
「今の社会の不平等な状況を反映しています。
何百万人の人たちが、
生活を何とか耐えられるものにしようと
頑張っている一方で、ごく一握りの人間が
莫大なお金を持っています。」
新作『家族を想うとき』。
この映画で描かれているのは、
最低労働時間を保証しない
“ゼロアワー契約”と呼ばれる雇用体系です。
主人公は宅配ドライバーの職に就いたものの、
社員ではなく“個人事業主”として契約。
最先端の管理システムで
1日14時間、週6日の労働を強いられます。
●ケン・ローチ監督(83)
「先端技術は我々の生活を良くするためでは
なく、数少ない人たちの利益のために
開発されていきました。
労働者にとっては最悪ですが、
雇用者にとっては素晴らしい条件となります。」
家族を幸せにするために選んだ仕事のはずが、
逆に家族の歯車を狂わせていきます。
映画をみた人の感想は・・・。
映画で描かれるテーマは、
日本でも置き換えられます。
橋本博史さんは、
下請けで内装工事の仕事をしています。
仕事は単発。
元請け業者から1週間ほど前に
発注を受けることが多いと言います。
●橋本博史さん(39)
「結構近々なんですよ。
昨日LINEで(発注が)来たのを
昨日のうちに(担当先に)アポイントとって
『明日来て下さい』っていうのもあるんで。」
1日の労働時間は平均12時間。
休みは月に1日程度しかありません。
以前は内装業者に雇われていましたが
およそ10年前に
「個人事業主」に(2年前に法人化)。
前の職場の賃金不払いがきっかけでした。
妻は3歳の子どもを育てながら、
夫が抱える事務仕事などを手伝っています。
「個人事業主」や「フリーランス」。
推計230万人の人たちが
こうした働き方を選択しています。
こうした中、宅配代行サービスの配達員たちが、
報酬の引き下げの改善を求めることも。
労働時間の上限はなく、最低賃金もない。
ケガや病気のときに労災保険も適用されない。
不安定な働き方が浮き彫りになりました。
●橋本博史さん(39)
「もう本当にしんどいときって
子どもの顔しか浮かばない。
『何のために働いてるのか』って
思うときの方が多いですよね。」
システムで管理される労働者は、今、
どのような局面に置かれているのでしょうか。
●ケン・ローチ監督(83)
「(映画に)描かれた家族は
なんとか頑張って生活しようと
苦しんでいる人たちです。
一つでもネジが狂えば転落してしまう。
基本的な概念はどの国も同じです。
労働者には権利がほぼ与えられず、
これまで与えられてきた権利が全くない。
基本的な権利を失ったのです。」
現代社会が抱える問題は、
ある分岐点にきていると
ケン・ローチ監督は指摘します。
●ケン・ローチ監督(83)
「単純な選択です。
協力か、競争か。
協力すれば、平和が訪れ調和の中で生活ができる。
競争を続けるなら、互いを滅ぼしていくでしょう。」
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小川)
一つでもねじが狂えば転落してしまう、
そのように映画で描いた家族について
ローチ監督は語っていましたが、
この先どうなるんだろうかとか
この仕事はこのまま続けられるんだろうかとか
こうした不安というのは
広く共有されているのかなと
だからこそこうした映画が
今広く支持を集めるのかなとか
多くの方の心に刺さるのかなというふうに
感じます。
映画が警鐘を鳴らす
この問題の処方箋をどう見つけるのか
問われています。
動画はこちらのURLからご覧いただけます。https://www.youtube.com/watch?v=eU6pPZrZcJ4