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積木鏡介 著『芙路魅 Fujimi』 復刊希望!ノベルス作品レビュー no.13

 書店から次々と姿を消しつつある新書判の小説「ノベルス」。全盛期には各社から様々なジャンル、多彩な作品が刊行され、中にはノベルスでしか読めない傑作もある。今、改めて読み直したい。そんなノベルス作品を追いかけて、リレー形式でノベルスの傑作群を紹介していきます。毎週金曜更新予定。

 今回は講談社ノベルスのニ十周年を記念して行われた企画「密室本」のうちの一冊を取り扱っていきたい。密室本というのは、その名の通り密室を題材に扱うのはもちろんのこと、物理的に「中身がすべて袋とじされた本」というなかなかに攻めた企画で、まさに私たちのような、講談社ノベルスフリーク向けに発信されたものであった。とはいえ密室本に名を連ねた作家たちは錚々たる顔ぶれであり、例えば森博嗣や舞城王太郎、西尾維新にこの連載でも取り扱った殊能将之や佐藤友哉までもが密室本のために新作を書き下ろしている。そんな豪華な企画から、今回は積木鏡介先生による『芙路魅 Fujimi』について書いていく。

 著者の積木鏡介氏は第六回メフィスト賞を『歪んだ創世記』で受賞しその後講談社ノベルスからデビューを果たした。今は同じくメフィスト賞作家である清涼院流水氏が立ち上げた「The BBB」という企画に参加し、「都市伝説刑事」シリーズの連載を手がけている。

 さて、そんな著者が今のところ最後に講談社ノベルスから放った『芙路魅 Fujimi』の魅力を紹介していきたい。あらすじは次のようである。3人の幼児の腹を切り裂いた怪物が19年後に蘇った。いわくつきの屋敷の地下室には臓腑をさらした幾多の死体。警察が包囲する中、犯人はどこに消えたのか。謎の中心には不幸に取り憑かれた芙路魅という少女が。芙路魅とはいったい何なのか、衆人環視の密室をかいくぐったその方法とは?

 いきなり冒頭から衆人環視の密室を読者に向かって投げつけることで始まるこの小説の一番の魅力は、作品全体にに纏わりつかせた異形な雰囲気であろう。19年前と現在をいったりきたりしながら語られる、あまりに異様なストーリーと、たびたび出てくる芙路魅といった得体の知れない少女に対する、良い意味での気持ち悪さは間違いなくこの作品、作家特有のものだ。

 そして、最後に明かされる真実も我々の想像を一つ二つ超えていく。「腹を切り裂く」といったように基本的にスプラッターホラーテイストで語られるため、正直途中までミステリとしてのオチはあまり期待していなかった。人智を超えた存在によって引き起こされた不可解な事件に迫っていく話だと思っていたので、最後にこれはこういうことだったんだと現実的な解を突き付けられたときには、なるほどと唸ってしまったほどである。

 こういう言い方は説明になってないかもしれないが、メフィスト賞作家によるひどく講談社ノベルスらしい問題作で、それでいて素晴らしい作品だと思う。古典的な本格ミステリのコードからは漏れるかもしれないが、いつだって我々の想像の先を行ってくれているノベルスの作品として、私はこの『芙路魅 Fujimi』を強く推していきたい。(月見怜)


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