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【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法』 雲雀湯 著(角川スニーカー文庫)

新月お茶の会の自称ラノベ担当・はじめまことが、今年1年のラノベ界隈を振り返る。週にひと月を取り扱い、12週間で1年を振り返ることを目的とする。蒸発した場合も『月猫通り2183号』に掲載予定なのでご心配なく。毎週土曜更新予定。

【あらすじ】
 離婚していた両親の復縁で7年ぶりに再会した義理の妹の英梨花。
 気の置けない男友達みたいな幼馴染の美桜。
 葛城翔太はそんな2人と一緒に、一つ屋根の下で暮らすことになった。
「……兄妹ってこんな感じなのかな」
「兄妹なら、そうする?」
 かつて家族のことで寂しい思いをした者同士の3人暮らしは、他人のはずなのに家族以上に心地よい。
 しかし共に進学した高校での恋愛トラブルを避けるため、美桜と翔太が偽のカップルを演じることになったことから、お互いが不意に“異性”を意識してしまい――!?
 血の繋がらない3人の男女が家族になる方法を模索して、家族以上の気持ちに揺れ動く同居ラブコメディ。

 『転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子だと思って一緒に遊んだ幼馴染だった件』で有名な雲雀湯先生の新作は、最近増えてる気がする幼馴染と義妹のダブルヒロイン。特徴として、どちらのヒロインも昔馴染み(幼馴染に対してうるさい私が勝手に使ってる「昔仲良かったが途中で引っ越して行き、最近再会したヒロイン」を指す言葉)の文脈が挙げられる。

 義妹の方は実妹だと思って別れ、再会してすぐに義妹バレという流れ。両親がヨリを戻すのはそれなりに珍しいが、こうすることで妹に昔馴染み属性を入れるができる。幼馴染の方は昔から隣に住んでいたが、幼馴染のイメチェン、同居、偽装カップルとイベントが連続する。基本的には幼馴染の文脈だが、イメチェンが入っていることで「変わらないところと変わるところのギャップ」という昔馴染みヒロインの文脈を加えることができる。こうして、先天性の義妹(+義妹バレ)と幼馴染という二つの属性を作者が得意な昔馴染みヒロインの文脈をフルに活かしながら描けるという理屈である。上手すぎて慄きますね。

 それでいて、メインとなるのは恋愛よりも家族なのがまた良い。というより、彼ら彼女らにとって真に必要なのは関係の名前ではなく強さと距離なのだろう。ただ単に彼女たちは、自分より「家族」である人がいるのが許せないだけなのである。妹は幼馴染に「妹」を見出し、義理であることと離れていたコンプレックスから、より近い「妹」であろうとする。幼馴染は幼馴染で、一度近づくことを知ってしまうと今更離れることができない。どちらにせよ、彼女らに必要なのはその感情の名前ではないのだろう。

 特に終盤の加速度が凄い。序盤は新雪のような静かな三人だけの空気だったのが、偽装カップルが始まることで幼馴染がヒロインとして起動し、急速に三人の関係が進んでいく。糖度が上がり、尊さが増し、その密度が上昇していく。8話終わり、9話終わりと上昇していき、エピローグで爆発して1巻は終了する。

 最後に一言。幼馴染はお互いの黒歴史デッキで殴り合っているのが最も可愛い。

(はじめまこと)

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