【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『血の繋がらない私たちが家族になるたった一つの方法』 雲雀湯 著(角川スニーカー文庫)
『転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子だと思って一緒に遊んだ幼馴染だった件』で有名な雲雀湯先生の新作は、最近増えてる気がする幼馴染と義妹のダブルヒロイン。特徴として、どちらのヒロインも昔馴染み(幼馴染に対してうるさい私が勝手に使ってる「昔仲良かったが途中で引っ越して行き、最近再会したヒロイン」を指す言葉)の文脈が挙げられる。
義妹の方は実妹だと思って別れ、再会してすぐに義妹バレという流れ。両親がヨリを戻すのはそれなりに珍しいが、こうすることで妹に昔馴染み属性を入れるができる。幼馴染の方は昔から隣に住んでいたが、幼馴染のイメチェン、同居、偽装カップルとイベントが連続する。基本的には幼馴染の文脈だが、イメチェンが入っていることで「変わらないところと変わるところのギャップ」という昔馴染みヒロインの文脈を加えることができる。こうして、先天性の義妹(+義妹バレ)と幼馴染という二つの属性を作者が得意な昔馴染みヒロインの文脈をフルに活かしながら描けるという理屈である。上手すぎて慄きますね。
それでいて、メインとなるのは恋愛よりも家族なのがまた良い。というより、彼ら彼女らにとって真に必要なのは関係の名前ではなく強さと距離なのだろう。ただ単に彼女たちは、自分より「家族」である人がいるのが許せないだけなのである。妹は幼馴染に「妹」を見出し、義理であることと離れていたコンプレックスから、より近い「妹」であろうとする。幼馴染は幼馴染で、一度近づくことを知ってしまうと今更離れることができない。どちらにせよ、彼女らに必要なのはその感情の名前ではないのだろう。
特に終盤の加速度が凄い。序盤は新雪のような静かな三人だけの空気だったのが、偽装カップルが始まることで幼馴染がヒロインとして起動し、急速に三人の関係が進んでいく。糖度が上がり、尊さが増し、その密度が上昇していく。8話終わり、9話終わりと上昇していき、エピローグで爆発して1巻は終了する。
最後に一言。幼馴染はお互いの黒歴史デッキで殴り合っているのが最も可愛い。
(はじめまこと)
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