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『超世界転生エグゾドライブ01-激闘! 異世界全日本大会編-〈上〉』珪素 著(KADOKAWA)

毎月更新 / BLACK HOLE:新作小説レビュー 2020年9月

 西暦20XX年。異世界の実在が証明された世界。科学技術の急激な発展により、異世界救済は競技と化した――。
 そのゲームの名は《エグゾドライブ》。
 チート能力を4つ選択し、異世界に転生! 相手の裏をかく戦略を組み立て、どちらがより迅速により鮮烈に世界を救えるかを競い合う! 常人の9999倍のスピードで成長するも、神様に気に入られるようにするも、世界の政治を操るも何でもあり!
 異世界転生で失踪した父が残した謎のCメモリ【世界解放】を持つ中学生、純岡シトは異世界を滅ぼす謎の組織との遭遇からエグゾドライブに渦巻く陰謀に巻き込まれていく――。
 これが異世界転生の進化系! 世界救済バトルアクション開幕!

 架空競技作品の最大の困難は独自のルール、ゲームとしての戦略性を構築し、読者に伝わるよう提示せねばならない点だ。独創的な競技になればなる程、読者の立ち位置は「初心者」に近付き、作者の思考が読者を置いてけぼりにする危険性が高まる。
 では、エグゾドライブはどうか。結論から言うとこの競技は極めて独創的ながら、同時に恐ろしく分かりやすい。
 理由はその単純なコンセプトにある。それは一言で言えば「異世界ジャンル自体の競技化」だ。
 競技者はIPという得点の高さを競う。これは「現地住民に対して、どれだけの優越性を示」せているかの指標で、早い話が俺TUEEEEEの度合いである。より無双し、より鮮やかな言動で、よりモブから凄いと思われた方が勝者となる。このポイントを判定するのはドライブリンカーという超技術の産物で、異世界ものを読む読者の視点そのものと言っていい。故に本作が読者の思考を振り落とすことはない。我々はそういった評価が機能する場を実体験として知っている。
 この基本的なルールと上記コンセプトをもとに、ゲームのあらゆるセオリーやレギュレーションも導かれる。ゲーム戦略のセオリーとはずばり物語の類型だ。四つのCメモリが生み出すコンボとは「実力隠し系」や「勘違い系」や「クラス丸ごと転生」といったサブジャンル。試合ごとに変わるレギュレーションは作品ごとに千差万別な世界設定。レギュレーションに応じてセオリーが異なるのは、世界設定に合わせた物語の類型があるからだ。
 このように、エグゾドライブは「異世界もの」を読者や評価軸といったジャンルの環境まで射程に入れて競技化している。もちろん後書きでも触れられているように、異世界ものにおいてジャンルへの大喜利的な自己言及、あるあるネタの活用自体は珍しくない。だが、それらを競技に組み込んでしまった点で本作は次元が違う。つまり、あらゆる異世界と物語をデッキ構築による戦略として包含してしまっているのだ。あの主人公の異能や天才はCメモリの効果だろうし、実力隠し系主人公は最弱型デッキを使っているだろうし、「またなんかやっちゃいましたか?」はIP獲得言動だ。
 もはや唯一無二の異世界ものは存在しない。どれほど新しく面白い作品であっても、それはエグゾドライブの戦略の一つに過ぎない。
 故に珪素は異世界ものを終わらせてしまったと言えるかもしれない。

文責:グーテン=モルガン

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