見出し画像

入間人間 著『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』 五十音レビュー「う」

「五十音レビュー」
 東大新月お茶の会のメンバーが、あいうえお五十音になぞらえて、ミステリー、SF小説を中心におすすめの作品を紹介します。毎週金曜更新予定。

 今回扱うのは『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』です。なんとなく、このnoteを読む人は一度は読んでいるんじゃないかと思わないでもないのですが、自分の中学生時代を彩る作品で思い入れが強いので取り扱わせていただきます。

 まずはあらすじから。主人公であり語り部こと「みーくん」と、その恋人であり文字通り盲目的なラブと無邪気な狂気を持つ御園マユこと「まーちゃん」のらぶらぶ日常ほんわかラブコメ……ではありません。実際のところ、この物語はみーくんとまーちゃんの恋愛物語ではあるのですが、二人の関係は共依存に近く、最初から最後までトラウマと人死にに溢れかえったあまり明るいとは言えないシリーズになっています。みーくんとまーちゃんは共に八年前の誘拐事件の被害者であり、その結果みーくんはとある嘘をつき続けることとなり、まーちゃんは精神的に壊れています。絶対に治ることのないトラウマを抱えつつ引力に引かれるように誘拐事件、殺人事件、監禁事件、その他いろいろに巻き込まれながらも、みーくんがまーちゃんとの日常を守り続けようとする、そんな物語です。重い感情、依存、殺人事件などが好きな方には劇薬のようなブツになると思います。

 自分が「みーまー」を初めて読んだのは中学の時で、それから何回か再読していますが、年齢が上がるにつれて読後感が変わっています。斜に構えて相手を煙に巻くみーくんの語りや遠慮のないグロテスクな描写はいわゆる精神が中学二年生だった頃にめちゃくちゃに刺さりましたし(そして性癖も知らぬ間に歪んだ)、逆に中学生の時には単に「愛があっていいな〜(中並感)」と思っていたものの、もっと幸せな未来が訪れるであろう選択肢を拒否してまーちゃんを選ぶみーくんの姿勢に対しては、今回再読したときは少し歯痒い思いもしました(強感情は好きなんですけど)。それでも、自分が昔楽しく読んだ作品を、今でも楽しく読めたことを嬉しく思います。

 最後に、自分が一番好きな主人公・みーくんの語りについてつらつらと語らせてもらいましょう。彼は何事に対してもペラペラとよく口を回すも最終的に「嘘だけど」と締めることで、信頼できない語り手のような何が本心なのか分からない独特な狂言回しをします。人によっては彼の話は冗長に思えるでしょうし、気取った鼻持ちならないやつにも見えることもあるでしょう。しかし、読み進めていくと彼はそういう傲った人間ではないことがわかります。彼の語りの裏にどんな性質を見るのかは人それぞれですが、自分は、彼の人に対する優しさや、外界から自分を守るための処世術なのだろうと思っています。何か深刻なことを口に出しても嘘か本当か分からないような話し方をすれば相手にそこまで心配させずにすみますし、辛いことを頭の中で考えていてもそのものに対する認識をうやむやにして自分の心を誤魔化すことで傷つきにくくなるわけです。彼の処世術が、彼の人生があの語りです。シリーズを通して読み、ぜひ彼の人生を楽しんでください。嘘ですけど。
(神浦七床)

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?