【note連載版】ライトノベル回顧2023|レビュー:『黄金の経験値』 原純 著(カドカワBOOKS)
Web版既読勢。Web版の推しキャラが出るまでは続いてほしい。
この作品の大きな特徴として、MMOをプレイする主人公だけでなく様々なプレイヤーに焦点をあてることでMMOの推移自体を描いていることが挙げられる。
まず、VRMMOものとしては珍しいほどに視点切り替えが多用されている。もちろん主人公は一般プレイヤーにはレイドボスだと思われているため、一般プレイヤー視点で描くことで主人公の異常性を強調するという他者視点の一番の意義が失われているわけではない。しかし、主人公が全く絡まないところまで描写が増えてくるとだんだん必要性が怪しくなってくる。掲示板も同様だ。この作品の掲示板は本編のネームドキャラばかり出てくる(というか掲示板で名前が出たらそのうち本編にも出てくる)ので、攻略側のプレイヤーの描写として主人公を高めつつ、攻略側のプレイヤーの日常パートとして彼らの魅力を引き出していくことにもつながっている。実際この作品はちょくちょく出てくるサブキャラがとても多く、そのいずれもが魅力的だ。
また、世界観設定の寄与も大きい。そもそもがワールドシミュレーターを使用して世界が構築されているし、「NPCとPCの差異はシステムメッセージを聞けるかどうかだけ」「運営方針が世界の行く末をいじらずに発生した出来事に合わせてイベントを開催する」「NPCに使われるAIが人間と比べ遜色ない」といった設定はPCとNPCの世界観上の差異をなくし、「ある日突然大量の異邦人が来訪するようになった大陸の行く末」といったような物語としても読めるようになっている。
もちろんこれは主人公(およびその陣営)が浅いということを意味しない。そもそも主人公が世界全体に影響があるような活動をするからこそ世界全体を物語中に収めることができるし、さまざまなプレイヤーを描写する価値が生まれる。というか主人公達がペラペラ喋っているだけで面白い。結局のところVRMMOものに必要なのは常に一定の面白さを維持できることである。
ブランという常識を奇跡的なレベルで知らない素晴らしいキャラが出てくるのでこれだけでも2、3巻を読む価値があります。
(はじめまこと)
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