夏は暑いしビールは旨い、ここは墨田区錦糸町
冷房と灼熱のあいだ
暑い暑い暑い暑い暑い…
2023年の夏、ちょっと暑すぎでしたよね…
いや、今まさに暑さの真っ只中でこの文章を書いているのですが、これが世に出る頃には少しは涼しくなっているだろうという願いを込めて過去形にしてみました。でもきっとお暑いんでしょ、9月も…
私が生まれ育ったのは、夏に冷房つけてるのコンビニとスーパーくらいという、標高が高い山奥の街。
そんな地から来た人間にとって、もう東京の夏は修行です…みんな普通の顔して生活してるの凄すぎる。なんなの?みんなブッダなの?
いくら修行を積んでも"涼みたい"という煩悩から永遠に解放されなさそうな私には、ただ冷房を求めてさまよう人生しか残されていないのでしょうか…
しかし、こんな人間にもさらに世界は苦行を与えます。
冷房を求めてさまよい、行き着いたコンサートホールという名のオアシス。
楽器のために一年中冷暖房で一定の温度に保たれている崇高な建物。
そう、それは、私たち"温度の変化に弱い民“にとっての桃源郷。
…だと思っていたんですよ。
ところがどっこい、世界は思い通りにはなりません。
こちらをご覧ください。
これはトリフォニーホールのステージから見た天井ですが、照明とパイプオルガンの間に並んだ黒い穴が見えるでしょうか?
この黒い穴から放たれるのは、冷気です。
みんな大好き冷気です。
この穴からステージ上をちょうどいい温度にするためには、冷気をたくさん送りこまなければなりません。
冷気はまず私たち打楽器奏者に当たって、金管奏者に当たって、野に放たれます。
源泉掛け流しの温泉に行くと、お湯が出てる所はすごく熱くて、反対側に行くにつれちょうど良くなっていくじゃないですか?
あれと同じです。
ステージの後ろの方は冷気の供給量がすごいんです…
しかもオーケストラの打楽器奏者って、平気で10分とか20分休みで、やっと1発叩いたらまた数十分休み、みたいなことが多いので、ほぼ身体を動かさずじっと座っている事が多いんですね。
寒い寒い寒い寒い寒い……
…さっき暑さの修行から逃げて来たのに、今度は寒さの修行……
神様、仏様、どうか私たち風上にいる民に、ちょうどいい温度をお与えください…
と願っても、神々も神々で皆さんお忙しいでしょうからね、毎年みんな自分達で解決してます。
打楽器の前に座っているトランペットの市川さんは、夏はフワフワのブランケットを常備。
私は特に寒がりなので、厚手のカーディガン、熱いお茶の水筒、そして本番衣装の下にはヒートテックで完全防備。
さぁ、寒さを凌いだらまた灼熱の世界への旅立ちです。
みんなからあまり好かれない灼熱。
でも暑ければ暑いほど潤う所もあるのです。
それはビール業界。
夏の平均気温が1℃上がると、ビールの販売数量が1日80万本(大瓶換算)増えるとの分析もあるそう。
何を隠そう、新日本フィルの本拠地がある墨田区には、かのアサヒビールの本社があるのをご存知ですか?
そして墨田区にいると、なんか知らないけどビールが飲みたくなるんです。
おそらく視界のどこかにこれが見えているからだと私は思っています。
皆さんにはこの写真には何が見えますか?
スカイツリー?
浅草で有名な金のモニュメント?
いいえ、
この写真で一番大きく写っているのはこれだ!
これはアサヒビールの本社ビルなのですが、これ、実はビールを模しているって知ってましたか? ビルだけに。
黄金に輝くビール部分と、上の部分は泡なんです!
天才か!
たとえば中央線で都心から錦糸町へ向かう時、あなたが意識しているかしていないかに関わらず、これはあなたの視界に入り、深層心理へと語りかけているのです。さぁビールを飲むのだ、と。
いつの世も酒飲みは、酒を飲む理由を五万と用意しておいて、その中から最も適した理由を瞬時に選び抜き、酒を飲みます。
さて、今は、
・夏
・暑い
・墨田区にいる
完璧な理由ですね。
さぁビールを飲みに行きましょう。
ビールを美味しく飲むための準備
ビールが美味しいお店は墨田区に数多くあるのですが、私は今日、自分自身を最高な状態にしてからビールを飲みたいと思い、ここへやって参りました。
この日訪れたのは平日の15時ころ。
女湯は10名ほどの先客でとても賑わっていました。
おしゃれなDJブースの番台に、おしゃれな番頭さんのお出迎え。
昔ながらの木札の下駄箱に靴を入れて、いざ入湯。
絶妙なバランス感覚で古き良き銭湯をリノベーションしてあるこの黄金湯。古い所の残し方、新しい清潔感の加え方のセンスが神がかっています。
湯に浸かると、今までの世界の仕打ちが全て溶け出し、じんわり私をちょうどいい温度へと導いてくれるのが分かります。
ああ、あたたかい。
あつくもなく、さむくもなく、身体が、心が、あたたかい。
身も心もほわほわに緩めたら、お待ちかねの黄金色の飲み物を迎えに行きましょう。
黄金湯さんの入口にある番台には、ビアバーとDJブースが備えてあるんです。BGMはすべてアナログレコードによるものだそう。
ビアバーではオリジナルクラフトビールや、お子様にもお薦めの自家製ノンアルコールドリンクも。
さらに2階のコガネユキッチンでは、多彩なメニューでお腹を満たせます。
緩んだところに沁み入るビール。
そんなビールをこよなく愛した、グスタフ・マーラーという作曲家がいたのですが、残念ながらほろ酔いの私には彼を語るエネルギーが残っていません。
クラシック音楽の難しい話はちゃんとした人にお任せして、私は黄金色の世界へと身を浸しに行って参ります。
皆様も良い夜を。
*
新日本フィルハーモニー交響楽団、9月の定期演奏会では、当団ミュージックパートナーである久石譲待望の新作と共に、マーラー作曲「交響曲第5番」を演奏しました。
ホールご鑑賞用チケットは完売いたしましたが、この度たくさんのお客様からのご要望にお応えして、アーカイブ配信が決定いたしました。
2023年9月29日(金)23:59まで、1,500円で期間中何度でもご視聴いただけます。
詳しくは、下記URLまで。
https://www.njp.or.jp/news/7189/
(文:腰野真那)
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