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「一隅を照らす」シリーズ#2・・・この曲の「この楽器」に注目してみよう!〜シベリウス《交響曲第2番》のトロンボーン

新日本フィルnoteではダントツの情報量「岡田友弘《オトの楽園》」。《たまに指揮者》の岡田友弘が新日本フィルの定期に絡めたり絡めなかったりしながら「広く浅い内容・読み応えだけを追求」をモットーにお送りしております。今回は10月8日、9日に開催される「すみだクラシックへの扉」で取り上げられるシベリウス《交響曲第2番》を、「ある楽器」だけに焦点を当てたシリーズ「一隅を照らす」第2回をお送りします。新しい視点や角度から作品を紐解くと…いつもと違う表情が見えてくるかも!?今回も気軽にお読みください!


オーケストラの中で一番「忙しい楽器」は?と問われたら、それは音符の数の多さや休みの少なさから判断して、多分「ヴァイオリン」だ。とはいえ、そこまでは忙しくはなくてもどの楽器にも多くの「見せ場」や「出番」がある。前回の「一隅を照らす」で取り上げた「新世界のシンバル」のように、曲の中で一度しか出番のない楽器もある。たが、それは打楽器に限ったことではない。「新世界」のチューバなどは特に有名で、2楽章の始めと終わりに数小節、音も数個だけしか出番がない。「新世界」だけでなく、比較的歴史の浅い楽器であるチューバは、オーケストラ曲においては出番の少ない楽器に分類される。

シベリウスの《交響曲第2番》のスコアに書かれている楽器のなかに、なかなか出番がない楽器がある。それは・・・トロンボーンだ。長いスライドを伸縮させて音程を変える中低音金管楽器である。ジャズや吹奏楽では大活躍のトロンボーン、もちろんオーケストラでも大活躍だ。トロンボーンはモーツァルト、ベートーヴェンの作品では数曲のみ登場する。しかし、音楽史が「ロマン派」の時代に突入すると、その使用頻度は飛躍的に増えていく。その中で魅力的な旋律を担当することも多くなり、その音色を活かした美しいコラールを演奏したりするようになった。その重要性は増していき、ラヴェルの《ボレロ》のソロ、シューマンの《交響曲第3番「ライン」》の荘厳な旋律やブラームスの《交響曲第1番》フィナーレのコラール的旋律など、重要かつ美しい旋律は有名だ。


画像1・ボレロパート譜

ラヴェル《ボレロ》のトロンボーン、パート譜抜粋(デュラン社版より引用)

画像2・ブラームス

ブラームス《交響曲第1番》トロンボーン、パート譜抜粋(カルマス社版より引用)

しかしこれらの旋律はトロンボーン奏者にとっては相当プレッシャーのかかるものでもある。ブラームスの交響曲の場合は、この美しいコラールの前に少し楽器の音を出して準備ができるにはできるのだが、それでも登場するのは曲が始まってから30分程度経過している。シューマンの「ライン」やボレロに至っては、曲が始まっても音を出す機会はなく、ラインでは20分後くらい、ボレロも曲のちょうど真ん中くらいだだから、約6〜7分後に初めて音を出す。しかもそのメロディーはトロンボーンにとってはかなり高い音域を使用している。相当なプレッシャーと不利な状況で演奏することになるわけだが、そこは百戦錬磨、手練のプロ集団である。何事もなかったように素晴らしい演奏を僕たちに聴かせてくれる。とはいえ、これらの曲を演奏することになったトロンボーン奏者の心中、察するに余りある。

シベリウスの最も頻繁に演奏される作品の一つ《交響曲第2番》も、後半に向けてトロンボーンの見せ場が多数用意されている。しかしながら常に出番があるかと言われたらそうでもない。今回はシベリウスの《交響曲第2番》を、「トロンボーンに注目して鑑賞してみるたら?」という仕掛けでお送りしたい。

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エーロ・ヤーネフェルト(シベリウスの義兄)「シベリウス」(1892)


この作品の作曲者や曲の背景については、6月の「オトの楽園」、「サウナ?ヘヴィメタ?シベリウス」(2回シリーズ)や、本公演プログラムに詳細でわかりやすく掲載されているが、基本的なことは押さえておこう。この交響曲の演奏時間は約45分、4楽章形式だ。ただし3楽章と4楽章は「アタッカ」といって切れ目なく演奏される。つまり聴いている側としては「3曲」のように感じる人もいるかもしれない。初めて演奏会でこの曲を聴かれる際に有益な情報として、この曲、1楽章は静かに終わり、2楽章の最後は強い音で。続く3楽章は盛り上がって切れ目なく4楽章に入る。4楽章の終わりは「これでもか!」というエンディング感を出すのでどこで終わるかを間違えることはない。「終わった!」と思ったところで盛大な拍手をお願いしたい。拍手にルールも流儀もないが、あまりフライングで拍手をするのはもったいない。トリフォニーホールなどの豊かな響きに、音が吸い込まれて消えた…くらいのタイミングで盛大に拍手をいただけると、演奏している側も嬉しいものだ。音響の良いコンサートホールの残響は、ホールによって違いはあるものの、1.5秒から2秒くらいである。曲が終わって一息ついたくらいだろうか。もしあなたが、そのタイミングに自信がなくても安心していただきたい。指揮者の所作を見ているとそれは一目瞭然である。歌舞伎の「見得を切る」ようなエンディング動作をする人もいるし、指揮棒を下すときに少し「頭(こうべ)を垂れる」ような仕草をする指揮者も多い。曲の終了の瞬間だけは指揮者にご注目いただきたい。指揮者の大切な役割の一つが「開始と終了」だ。

それでは交響曲の冒頭部分から進んでいこう。メンバーが入場、最後にコンサートマスターが入場する。その後オーボエが「A」の音を出してオーケストラがチューニングを開始する。この話題については8月のコラム「オーケストラの花形・・・それは、オーボエ!」をご覧いただきたい。そして静寂・・・指揮者が入場する。指揮者の立場から言うと、ステージに出てから指揮台までの距離は、緊張などの様々な精神状態に陥っているからか、思ったより長く感じるものである。ベテランの指揮者にはそのような感覚はないかもしれないが、是非ともその「長く感じる時間」をお客様の拍手で埋めていただきたいと願わずにはいられない。自分の視界に指揮者が入ってきたのを目視し、すぐに拍手を始めていただけたら、指揮者(僕だけかもしれない…)はテンションが上がる。

トリフォニー

写真:すみだトリフォニーホールと新日本フィル

指揮者が一礼して、メンバーが着席したらいよいよ曲の開始となる。指揮者が指揮棒を構え、楽曲が始まるのだが・・・ここでトロンボーンに目を向けてみよう。楽器を構えていないはずである。何故ならトロンボーンの出番はもう少し後なのである。フィンランドの森や平原の風景を描写するような弦楽器や木管楽器のメロディーが流れる中でトロンボーンの方を見ると、じっと自分の出番を待つ姿を見ることができるだろう。例え静かに目を閉じていようとも、決して居眠りなどしていない。スマホをいじったり、隣の人と談笑しているはずもない。静かに最初の音のイメージを膨らませているはずだ。これは噂の域を出ない「伝説」であるが、テレビ中継されたオーケストラの演奏会で、トロンボーンの背後から撮影された映像に、トロンボーン奏者の譜面台に置かれていた雑誌が映ってしまった・・・という話や、本番中にトロンボーン奏者がルービックキューブをしていて、それを落としてしまい、指揮台の前までコロコロ転がっていった・・・など、真偽不明の都市伝説もあるが、全てのトロンボーン奏者は真面目に自分の出番を待っている。

話をシベリウスの2番に戻す。ちょうど100小節目にチューバが初めての出番を迎える。通常は「ローブラスセクション」として一心同体のチューバ、しかしこの曲ではなんと、チューバが先に音を出すのである!ここまでにトロンボーン以外の楽器は全て出番を迎えている。トロンボーンだけが残されてしまった・・・。その後も交響曲は美しい抒情性をたたえながら進んでいく。そして160小節目についにトロンボーンが登場!・・・するのだが、たった2音・・・「ソ!ド!」と四分音符を吹いたらまたしばらく休みとなる。(譜例1)

譜例1

譜例1・《交響曲第2番》第1楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

ここでさらに「悲報」をお伝えしなくてはいけない。この2音を吹くのは1番、2番トロンボーン。この曲にはトロンボーンが3パートある。3番トロンボーン、場所的にはチューバ奏者の隣に座っている奏者はこの時点でまだ1音も出していない・・・これだけ大人数のオケの中で一人だけ。ここまでで、楽譜に書かれているリハーサルマーク(リハーサルを効率的に進めるために書かれている記号、練習番号ともいう)は「H」に突入しているのだ。そして、ついにその時が訪れる。194小節目、トロンボーン3番が初めてこの曲に登場!この場所は「K」の一小節前、曲はかなり進んでいることがお分かりいただけるだろう。(譜例2)

譜例2

譜例2・交響曲第2番》第1楽章、第3トロンボーンのパート譜より(シベリウス)


その後も美しく音楽は進んでいくが、トロンボーンには「苦難の時期」が続く。チューバは出番が幾つかあるのだが、なかなかトロンボーンは登場しない。再び登場するのは226小節だ。その後は徐々に出番は増えていくのだが、どちらかというと「ハーモニーづけ」の役割を任せられる場合が多く、ここまでに四分音符よりも短い音符を吹いていない。そんなトロンボーンに249小節目、ついに八分音符が登場する。この周辺はトロンボーンだけでなく金管楽器のカッコいい「見せ場」となっている。徐々に静かな音楽になるにつれ、また出番がなくなっていき、1楽章が終わる。1楽章は全333小節である。

2楽章は、この交響曲にとって重要な意味合いを持つ。イタリア滞在中に構想された2つのテーマを中心に構成される。そのテーマとは、この時期にシベリウス家の身近に起きた出来事に由来する「死の悲しみや恐怖」と、ローマやフィレンツェで体験した「キリスト」をはじめとしたカトリック文化に触れて想起された動機である。それが絡み合いながら曲が進む。通常、どんな交響曲も「緩徐楽章」とよばれる静かな曲において、トロンボーンの出番は全くないか、非常に少ないものである。この作品の緩徐楽章も出番としては多くはない。しかし「死」を想起させる部分の終盤に金管楽器群の「カッコいい」英雄的動機が登場する。その部分ではヒロイックなトロンボーンを聴くことができるだろう。

その部分が終わると、しばらくの静寂があるが、ここは曲の終わりではない。「死」の部分から「キリスト」部分に転換するのである。時折トロンボーンの出番があるが、それはまるで大聖堂の聖歌隊の合唱のような、美しいハーモニーでその神的世界を演出する。その役割はとても重要だ。そして曲の終盤に、先ほども登場した「カッコいい」金管チームの英雄的動機が力強く奏され、徐々に静かになっていく。その後は二つの動機が多様に変化していき、曲の大詰めで力強さを持ったまま、弦楽器のピチカート(弦を指ではじく)の力強い音で印象的に終わる。

3楽章は「スケルツォ」という急速な部分を持つ楽章だ。1、2楽章に比べたら出番もぐっと増えるのだが、この曲に関して言えばトロンボーンは主にトランペットとともに登場する。普段は同じ仲間であるチューバはホルンとともに登場することが多いのも見逃せない。ぜひそのあたりも観察していただきたい。この楽章でトロンボーン他、金管楽器の密かな見せ場がある。それはスケルツォの速い部分で2回、20小節吹き続ける部分があるのだ。音量的にはピアノ(小さく)なのでプロの奏者には造作のないことではあるが、それでも20小節は相当な「ロングトーン」である。しかも2回も!是非ともお見逃しのなきようお願いしたい。(譜例3)

譜例3

譜例3・交響曲第2番》第3楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

そのようにしてトロンボーンチームは、徐々に体を温めていくなかで、曲はフィナーレ(第4楽章)へ向かって盛り上がっていく。曲を盛り上げるのはトロンボーンの得意分野、いよいよ彼らの真骨頂だ。4楽章に入る直前に、トロンボーンとトランペットで、リズムこそ少し異なるがベートーヴェン「運命」冒頭のリズムのような音型「ダダダダン!」が4楽章開始を告げる狼煙となる。(譜例4)

譜例4

譜例4・交響曲第2番》第3楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

ついに勝利と歓喜の第4楽章に突入、弦楽器が雄大な旋律を気持ちよく奏でる中、トロンボーンは少し違う動きをする。3楽章の最後に奏した「ダダダダン!」を今度は「運命」と同じリズムで奏する。ティンパニも同様の動きをしているが、チューバとコントラバスの動きも統合したリズムを演奏しているので、純粋に「運命の動機」を奏しているのはトロンボーンのみである。この動機を、実に16回続けて演奏する。(譜例5)

譜例5

譜例5・交響曲第2番》第4楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

この動機は非常に重要だ。前の楽章との関連性を確保するための重要な動機なのである。そして、弦楽器の雄大な旋律、少し油断すると「ダレる」恐れのあるものを、まるで「樽の箍を締める」ように引き締める役割を果たしているのである。その後はしばらく休みになるのだが、この休みはトロンボーンにとっては「期待に満ちた最後のバカンス」であると思いたい。102小節目についにトロンボーンは、この曲で初めての「メインメロディー」を担当するのである。曲の最初からトロンボーンを見守り続けた我々としては、その勇姿に涙するような心持ちになるに違いない。この「メインメロディー」、はじめはトランペットと一緒なのだが、104小節目ではついにトロンボーンのみが「メインメロディー」を担当する。ついに「センター」を取った瞬間である。(譜例6)

譜例6

譜例6・交響曲第2番》第4楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

だが、センターを取るのはたった1小節、その後も休みや裏方の仕事が続く。しかし、そのような中にあってもメロディーの副次的な動機を担当するなど、重要なポジションで登場する場面が多くなる。もはや「バック」の存在ではないのだ。4楽章の主要テーマの断片を担当したり、4楽章冒頭部分の「運命の動機」が再び登場したりと大活躍だ。トロンボーンに特化してこの曲を見てきた我々としては心躍る時間が続く。そして曲は最終盤へと突入、小節番号262小節目から少し雰囲気が変わって、まずはトランペットが哀愁漂う動機を演奏する。それが木管楽器へと引き継がれながら音楽は徐々に盛り上がっていく。その盛り上がりが最高潮に達したところで曲は急に「短調」から「長調」に響きが変化する。その後登場するメインメロディーはトロンボーンとチューバが担当するのだ!ここでついに普段通り、トロンボーンとチューバが一心同体となり高らかにメロディーを奏するのである。これまでのすれ違いを見てきた我々としては、こんな感動的な場面は他にないだろう。(譜例7)

譜例7

譜例7・交響曲第2番》第3楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

その後12小節間、トロンボーンはメインストリームを行く。この曲でこんなに長い時間メインストリームを行くことはなかったトロンボーン・・・しかし大詰めでついに大輪の花を咲かせたのである。そして 356小節目、トランペット1番とトロンボーン1番、そしてオーボエが最後の「賛歌」を高らかに歌い上げる。まさに「勝利」であり「歓喜」の瞬間だ。トロンボーンの音域としては高い音域である上、40分以上演奏した後での「フォルテ3個」という「大音量」で歌い上げるのは容易なことではないが、ずっとトロンボーンを中心に見守ってきた我々は心からのエールを送り、一緒に演奏するような気持ちで臨みたい部分である。そしてその賛歌を歌い終えると、オーケストラ全員で壮大で感動的なハーモニーを奏し、この交響曲は大団円を迎えるのである。最後の和音進行は「アーメン終止」よばれる、讃美歌の最後の「アーメン」の部分で用いられる終止形となっている。(譜例8)

譜例8

譜例8・交響曲第2番》第4楽章、第1トロンボーンのパート譜より(シベリウス)

一般的な楽曲解説やプログラムノートでは、その楽曲の特徴的な旋律や歴史的意義、メロディーを担当する楽器に焦点が当てられることが多い。もちろんそれは文字数等の制約があるから、全ての楽器の活躍に言及できないという理由からなのだろう。だが、このように楽曲の中で「裏方的」な役目を果たしている楽器に焦点を当ててみると、少し違った音楽の景色が見えてくるのではないだろうか。トロンボーンは古来より、特にキリスト教の教会音楽との関わりの中で「天の声」を表現する際に用いられた楽器であった。それは時に「天の怒り」の如き大音量であることも。時にトロンボーンはオーケストラ全体を凌駕する音量で吹くことができる楽器ともいわれる。それと対照的に「天から降り注ぐ光」の如き崇高で感動的な音色も表現できる。そして力強く我々を鼓舞するような音楽もまた、天の声たる楽器の役割だ。天の声がいつも我々の日常で聞こえてきたり、神様が近所のおじさんのように頻繁に自分の前に現れることはない。天の声である楽器も同様に「大切な場面」で登場し、普段はその存在を感じながらも決して表には見えないものなのだ。この曲にトロンボーンなかったら?と想像してみた。曲としてはある程度成立するかもしれないが、トロンボーン他、光の当たらないところでも全体が輝くように支える存在があって初めて、楽曲として完成するのだと思う。シベリウスの交響曲において、トロンボーンが最も重要かつ輝かしい役割を与えられている曲がある。それはシベリウス最後の交響曲であり、彼の交響曲作法の最終形態として評価の高い《交響曲第7番》だ。この単一楽章の曲において中盤の盛り上がる部分に、荘厳でカッコいいソロがトロンボーンに与えられている。そのような点を見ると、シベリウスはトロンボーンに関心がなかったのではなく、「大事なところにトロンボーンを用いる」作曲家であったのだろうと想像する。このソロ部分は「音楽史上最高の見せ場」のひとつといえる部分である。《交響曲第7番》を聴かれる際には注目していただきたい。

今回はトロンボーンに光を当てたが、オーケストラはメロディーを担当している楽器だけが輝いただけでは心を動かされるものにはならない。全ての楽器、全ての楽員が作曲家からの「手紙」としての作品を読み込み、自分の置かれた場所で美しく咲いている。その「集合体」がオーケストラであることを知っていただけたら、オーケストラの聴きかたも変わってくるかもしれない。まさにそれは「一隅を照らす」という、このコラムのタイトルそのままの行為によって成り立っているのだ。これからもこのシリーズでは「一隅を照らす」楽器について、折に触れて綴っていきたい。

《交響曲第2番》において、トロンボーンは最初は目立たないどころかなかなか吹く機会もなく、その機会が到来しても「影」として健気に支えることに徹する。必要とされる時に呼ばれ、またすぐに休養を取らされる。しかしその終盤に向かって、その役割は重要度を増し、最終的には全体の中心で輝く。このシベリウスの交響曲をはじめとして、ベートーヴェン以降の交響曲には「闘争と勝利」というテーマが秘められているものが多いが、トロンボーンの役割そのものが、そのテーマを最も端的に示しているといえるのではないか。そして、どんなに当初は苦労しても、自分の置かれた立場で輝くことで、最終的にはその努力が認められて中心で輝けるのだ!・・・そのようなメッセージを僕は感じるのだが、みなさんはどのように感じるだろうか。この作品を初めて耳にする方は、このような聴きかたをする前に「一般的な聴きかた」をしていただきたい。メロディーを追い、それに絡む副旋律を味わいながら曲を聴き進め、その透明感のある音色や、自然を感じさせる動機に身を委ねてほしい。そして曲の高揚感とともに、心を熱くして一緒に演奏しているような気持ちで鑑賞していただけたらと思う。そして何回か曲に親しんだ後、今回の鑑賞法をお試しいただけたら、同じ曲でも「違った景色」が見えてくるはずだ。音楽には様々な「諸相」がある。

(シベリウスの譜例は全て、ブライトコップフ&ヘルテル社版パート譜より引用)

(文・岡田友弘)

♪♪♪新日本フィルがシベリウスの作品を取り上げる演奏会情報♪♪♪

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《すみだクラシックへの扉 #02》

2021.10.08 FRI 14:00 開演 すみだトリフォニーホール 
2021.10.09 SAT 14:00 開演 すみだトリフォニーホール 

プログラム
ドヴォルジャーク:序曲「謝肉祭」 op. 92, B. 169
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 op. 21 
シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 op. 43 

ピアノ:エマニュエル・リモルディ
指揮:秋山和慶
管絃楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

チケット等詳細は、新日本フィルウェブサイト

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岡田友弘(おかだ・ともひろ)
1974年秋田県由利本荘市出身。秋田県立本荘高等学校卒業後、中央大学文学部文学科ドイツ文学専攻卒業。その後色々あって(留年とか・・・)桐朋学園大学において指揮を学び、渡欧。キジアーナ音楽院(イタリア)を研鑽の拠点とし、ヨーロッパ各地で研鑚を積む。これまでに、セントラル愛知交響楽団などをはじめ、各地の主要オーケストラと共演するほか、小学生からシルバー団体まで幅広く、全国各地のアマテュア・オーケストラや吹奏楽団の指導にも尽力。また、児童のための音楽イヴェントにも積極的に関わった。指揮者としてのレパートリーは古典から現代音楽まで多岐にわたり、ドイツ・オーストリア系の作曲家の管弦楽作品を主軸とし、ロシア音楽、北欧音楽の演奏にも定評がある。また近年では、イギリス音楽やフランス音楽、エストニア音楽などにもフォーカスを当て、研究を深めている。また、各ジャンルのソリストとの共演においても、その温かくユーモア溢れる人柄と音楽性によって多くの信頼を集めている。演奏会での軽妙なトークは特に中高年のファン層に人気があり、それを目的で演奏会に足を運ぶファンも多くいるとのこと。最近はクラシック音楽や指揮に関する執筆も行っている。日本リヒャルト・シュトラウス協会会員。英国レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ・ソサエティ会員。マルコム・アーノルドソサエティ会員。現在、吹奏楽・ブラスバンド・管打楽器の総合情報ウェブメディア ''Wind Band Press" にて、高校・大学で学生指揮をすることになってしまったビギナーズのための誌上レッスン&講義コラム「スーパー学指揮への道」も連載中
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