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モンスターしか描いてこなかった僕が就活を通して学んだ、自分の土俵で勝負するということ

僕は大学生活のほとんどをモンスターを描くことに費やした。サークルやバイトでもなく、僕にとって情熱を注ぐ対象はモンスターを描くこと。その時間が1番楽しかった。そんな偏った大学生活を送っていた僕の就職活動の話。

僕の就職活動はすごく特殊だった。今思い返してもそう思う。周りに流されず自分の直感と経験だけで戦ってやると意気込んでいた。

アーティストになる、だからこそ

そもそも、モンスターを描くことを第一に考えてきた自分がなぜ「就職」という道を選んだのか?それは、単純に当時の自分にはいきなりアーティストとして独立する実力も人脈もセンスもお金もないことを理解していたからだ。実家の世話になりながらアーティスト活動を続けることも考えたが、プライドが許さなかった。
どちらにせよ、世界どころか日本の中心の東京のカルチャーにすら触れていないままの自分では、到底満足に稼いで生活ができないと思っていた。

会社員を経験することは自分にとって収入が安定するだけでなく、自分に足りてないものを補うことがきっとできる。遠回りかもしれないけど、好きなことをする為に就職することは必要なことだと思った。

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僕はこれまでの経験もあってか、自分を貫き通すことでついてくるものがあると信じていた。というか大学の先生やキャリアサポート、そして友人の声は自分とは違う世界の話だと思っていた。そして、自分の人生の事なのにみんなで足並み揃えてヨーイドンで決めていくのがすごく疑問だった。しかも周りの声を聞けば聞くほど不安にかられるし焦り判断を誤る。
だから友人に就活の相談をしたことはないし、大学の面接練習にいったこともないし、キャリアサポートセンターにも1度も出席しなかった。これまでの自分の経験と直感を頼りに、探りさぐり就活をしていった。

一番大切にしていたことはありのままの自分で勝負すること。必要以上に自分を社会の枠にはめない事だった。

10年後の自分はどうなっていたい?

僕が就活で面接を受けた企業はたったの2社。東京にある出版社1社とアパレルのセレクトショップ1社である。何も知らない田舎者の僕は、とにかくインプットの機会に恵まれる環境に身を置きたかった。地元を離れ、日本の中心である東京のカルチャーを身近に感じられるこの2社を選んだ。自分がカルチャーを知れば知るほどそれは僕のモンスターの養分になる。もっともっと魅力的なモンスターを描けると思った。

僕にとって最初の面接はとある出版社だった。この出版社を選んだ大きな理由は、学生時代に作ったTシャツがスナップ撮影でたまたま掲載されたことがきっかけだった。
ずっと読んでいた雑誌。どんなに小さな写真でも全国紙デビューしたことが特別に嬉しかった。まだ会社の規模も小さく、若くしていろんな経験を積ませてもらえるとも思った。

しかし、この出版社は中途採用しか募集がなかった。きっと無理だろうと思ったがダメ元で応募した。
面接がはじまった。やってやるとは思っていたものの、経験もない新卒だったので話が噛み合わずその場で不合格となった。
幸いなことに面接官の方がとても優しく、僕の話を聞いて面接改め就活アドバイスの会を開いてくれた。

「君はこの会社に入って10年後どうなっていたい?」

そう言われて僕は固まった。
自分のこと、目先のことしか考えていなかった。

そもそも僕はモンスターを描いて生活をしたかったから、10年後もその会社で働きながら描き続けている自分の姿が想像できなかった。僕の10年後は会社を辞めてモンスターを描いて生活をしている。
気持ちだけが先行して周りが見えていなかった僕は、自身を見つめ直すきっかけを就職活動でもらえた。そして、このときの言葉は財産となり、今でも大事にしている。

僕の心を動かしたある言葉との出会い

ある日、名古屋のヴィレッジヴァンガードで物色していると一冊の本に目を惹かれた。
それは雑誌”STUDIO VOICE”のとある特集。BEAMSが一冊まるまる特集されていたのだ。そこではファッション以外に会社のスタッフにもフォーカスが当てられていて、どのスタッフも個性的でとても魅力的に感じた。みんな自分にしかない何かを、ここでは武器として発揮しているという。

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読み進めるごとにもっとこの会社のことを知りたいと思い、何かに取り憑かれたようにこの会社のことを調べた。

そして、社長のある言葉が目に留まった。

「努力は夢中に勝てない」

夢中になってモンスターを描いていた自分に深く突き刺さり勇気をもらった。自分が社会経験を積む会社はここしかない、と思った。

とにかく自分をさらけ出した

販売経験はおろか、オシャレに無頓着な僕が東京の有名セレクトショップに合格することは、野球経験0でいきなりプロテストを受ける、それぐらい不可能に近いことだと思った。
すでに周りのライバル達とは埋められないほどの差が開いていたが、足りない部分を補うよりも自分らしさを出して勝負することにした。

書類選考の自由記述欄は全てモンスターで埋め尽くし、コーディネート写真も寝癖に死んだ目つきで撮影した。おそらく他の学生とは真逆だったはずだが、これが僕にとっての自然体。これだけ自分をさらけ出して不採用なら縁がないだけ、と割り切れるくらい自分を表現した書類になった。それが功を奏したのか何千人という中から書類選考を無事通過した。

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モンスターで埋め尽くされた自己PR。いろいろ危ない気がする。


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当時送ったコーディネート写真。いろいろ危ない気がする。


自分の土俵で勝負する

書類選考、WEBテストを奇跡的に突破し、いよいよ面接がはじまった。
アパレルの会社を受けておきながら、僕はオシャレには疎く、親が選んでくれた洋服を着ているようなやつだった。唯一の武器はモンスターを描き続けたという事実だけだった。

面接本番、とにかくモンスターのことを話した。ファッションやトレンドについては全く話した記憶がないし、そもそも聞かれたのかさえ覚えていない。むしろ学生時代のことを話すほうが多かった。
そんな自分にとって、これまでモンスターを描き続けたことは大きな武器となっていた。
特に緊張せずに自分の思いを話すことができたが、問題は私服面接だったということ。

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何を隠そう僕は田舎者でクソほどダサかったのだ。オシャレに対して苦手意識を持っていたし、そんな自分を気に留めてすらいなかった。
どう乗り切る?髪型を変える?雑誌と同じ格好をする?流行りのもので身を固める?無難な格好で乗り切る?考えたがどれも納得できなかった。

出した答えは、自分でデザインしたプリントTシャツを着ていくこと。
一次面接から最終面接まで、僕は社長の顔をプリントしたTシャツで面接に臨んだ。理由はシンプルで、社長の顔がプリントされた服を着て面接を受ける人は他にいないだろうと思ったから。社長の言葉に感銘を受けた僕からのメッセージでもあったし、とにかくインパクトを残したかった。

面接の回を重ねるごとにアイテムも増やしていった。最終面接のときには面接官に配る仕込みもしていた(面接官の人数が予想より多くて足りなかったが、、)。
僕は面接会場をステージだと思うことにした。そしてどれだけ相手を楽しませるかに重点を置いた

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当時の自分が知っていた中で一番オシャレなブランド”BAPE”と社長の顔をミックスしたデザイン。


就活を通して得られたもの

結果として、憧れの会社で社会人デビューすることができた。

入社してからも僕は働きながら毎日モンスターを描いた。個展も年1回のペースでやった。頑張りが少しずつ認められ、自分のモンスターが商品のデザインになったり、社長に展示の援助をしてもらったこともあった。この会社で働いたことで僕は充実した日々を過ごすことができた。何よりも今もこうしてモンスターを描き続けている。念願だった自分のギャラリーがある。

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自分の人生を大きく左右する就活。ほとんどの人が自分の人生にとって最初の大きな決断になるだろう。そしてそれは恐いことだし不安でいっぱいだと思う。だけれど最終的には自分の人生は自分で決めることになる。だったら自分の信じた道を突き進む方がいいと、僕は思う。

思い返してみれば、今自分を取り囲む環境は、自分をさらけ出したことで得たものがほとんどだ。あのとき自分を見つめ直す機会をくれた出版社や、こんな自分を受け入れてくれたBEAMSには感謝しかない。
そして、僕の目標のひとつはこの会社に恩返しをすることだ。近いうちに実現することを夢見て今日も生きている。

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