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【佐竹健のカルトーク】第八夜 屋敷にあった鐘のこと

 昔暮らしていた屋敷には、仏間があった。

 そこには、細かい飾りにおびただしい金箔が貼られた仏壇と、やたらゴツい位牌があった。そして、釈迦如来の像と祖師の肖像画と思われるもの(いわゆる頂相というやつか?)が並べられていた。ちょうど、精霊、神、キリストみたいな感じで。祖師の肖像画と思われるものは、見た感じは北条時宗のそれに近い感じだった。

 そしてそれを守るかのように、白衣観音や恵比寿、布袋様の像が飾られている。

 ちなみに白衣観音とは、『地獄先生ぬーべー』で、主人公の鵺野鳴介が唱える呪文の中でよく出てくる観音様のこと。女性的な外見が特徴的だ。

 余談はここまで。

 最近、仏壇の前に鐘が2つあったのを思い出した。一つは薄暗い部屋の中で黒光りしている新しい小さな鐘、もう一つはくすんだ灰色が特徴的な古い鐘。

 前者は普段から家人のお参りや月一で来るお坊さんが供養をするときに使っている。音は少し高い。

 問題は古い方の鐘だ。

 古い方の鐘は、普段使っている鐘よりも大きい。底はニキビ跡みたいに凹んでいる。音は火事の時に叩く鐘のように乾いたよく響く音だ。底がニキビ跡のように凹んでいるということは、かなり昔から使われていたのだろう。材質は緑青がないことから、銅を使っていないのは確実だ。

 そしてどういうわけか、誰もこの古い鐘を叩こうとしない。

 このことが、とても不思議に感じた。叩いたからといって、怖いことが起こるという言い伝えがあるわけでもないのに(誰もいないときに叩いたことがある)。仮に私がこの件について聞いてもまともに取り合ってもらえない。運良く聞いてくれたとしても、私が異常者として扱われるので、気にしないふりをしていた。

 古い鐘をどうして叩かないのか? この答えを知ることができなかったのは残念だが、ひとまず叩いたあとに何もなくて良かった。

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