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京都市下京区 「たかはし」 天穏(島根県出雲市)とおつまみとタカハシさん!

以前から、気になっていたお店が京都にあります。
「たかはし」
日本酒古酒・熟成酒の専門店ではないのですが、取り扱っていそうです。
京の街の真ん中、四条烏丸近くの裏道を入ったビルの2階。
具体的には、高倉通りと綾小路通りの角から少し北に行ったところ、つまり「上ったところ」の右側にあるらしい。
ひっそりとしたエリアのちょっと見つけくいお店なんだろうな、と勝手に想像していました。

予約は受けておらず、電話番号もあまり積極的には公開されていない模様……
でも、敷居が高いとか、お値段が高いとか、そういうわけではなさそう……

行ってみよう!

最寄駅は、地下鉄烏丸線「四条駅」、または、阪急「烏丸駅」。
どちらの駅からも徒歩5分程度。
四条駅からなら3番出口が近いようです。

行ってみると、裏道だけと、お店がたくさんある結構賑やかなエリア。
なので、比較的見つけやすかったです。

お店の入り口

階段を上がって扉の前に着くと、店内の様子はあんまり分からず、少し不安に。

お店の扉

思い切って扉を開けると、意外とガヤガヤしていて、ほぼ満席でした。

8人座れるカウンターと4人がけのテーブル。
とてもシンプルで温かみがある作りです。
カウンターは少しだけ窮屈だったけど、居心地は悪くない、というか、良い!
四方八方から、日本酒やら料理やらの話が聞こえてきます。

目の前に手書きの日本酒メニューがスッと置かれ、「上が常温、下が冷やです」と、お店の作りと同様シンプルな、店主の説明。

常温にこだわりがあるのかな、となんとなく思い、「常温でオススメは?」と尋ねたら、「天穏(てんおん)!」と即答。
天穏と言っても、12種類もあるというので、中で一番のオススメと、古酒・熟成酒の2種類を注文しました。
そして、しばらくして、天穏のにごり酒もお願いしました。

ちなみに、いわゆる京都の地酒はほとんどありませんでした。
それでもご近所さんのみならず、名古屋や東京など、遠方から通う常連さんも多いそうです。

お酒

右から、
「天穏 生酛純米 原酒」(平成29年(2017年)度醸造)(古酒・熟成酒)
「無窮天穏(むきゅうてんおん)水母(くらげ)」(一番のオススメ)
「無窮天穏 大森」(にごり酒)

全て、島根県出雲市板倉酒造さんのお酒です。

「天穏 無濾過純米 原酒」(平成29(2017)年度)

色は、少しブラウンがかった黄色。
香りは、あまり強くなく、ヨーグルトっぽい酸っぱさと、お醤油のような感じがあります。
いただくと、旨味と酸味がパッときて、口の中に広がったかと思うと、すっと苦味が現れます。
美味しい!

純米酒で、生酛造り。
生酛造りは、日本酒の土台となる酒母を、蔵内の「天然」乳酸菌で造る伝統的なやり方です。
これには、大変な手間がかかるので、明治時代に速醸と言って、人工乳酸を加える方法が開発され、多くの日本酒造りで採用されたのですが、この熟成酒は、それ以前の古い手法で造られています。

一回火入れして、2019年10月までは蔵で瓶貯蔵、その後は基本的にはお店で貯蔵されていたと思われます。

天穏 原酒 無濾過 (平成29年(2017年)度醸造)
原料: 米(国産)・米こうじ(国産米)
原料米:奥出雲産改良雄町100%
精米歩合:70%
アルコール度数:18度以上19度未満
日本酒度:+9
酸度:➖➖
アミノ酸度:➖➖
酵母:無添加
価格:➖➖
製造年月:2019年10月

「無窮天穏 水母」

この淡くレモンイエロー色がかった透明な日本酒が、店主のイチ推し!。
酸っぱい香りや穀物の香りがあり、そんなに強くなく、やわらかです。
口に含むと、とにかく水のようにすごくスムーズ。
さらっとして、そのあとふわっとして、最後は酸味と苦味があるけど、ふわふわした雲みたいなものに覆われた感じで、とにかく心地がよい。
店主によると、この10年でNo.1だそうです。

ふわっとくらげのようだから、「水母(くらげ)」だとの説明に、ものすごく納得。
それに、水のようにやさしく、全てを受け止めてくれるお母さんみたいな日本酒なので、「水母」という漢字がぴったりだなー、とも思います。
「この水母の中に入ってふわふわ浮いたり、潜ったりしたら気持ちいいかも……」そんな妄想まで湧いてきます。

「そやし水もと」という方法で造られています。
上述の生酛と似ていますが、違いは、仕込み水です。
通常は、普通の水を使うところを、そやし水もとでは、乳酸発酵させた酸っぱい水を使います。

なお、この水母は、古酒・熟成酒ではなく、今年造られた日本酒です。

無窮天穏 水母
原料: 米(国産)・米こうじ(国産米)
原料米:奥出雲産佐香錦100%
精米歩合:60%
アルコール度数:14%
日本酒度:➖➖
酸度:➖➖
アミノ酸度:➖➖
酵母:無添加
価格:➖➖
製造年月:2022年6月

「無窮天穏 大森」

まず、にごり酒なので、にごっています。
にごり酒とは、澱(おり)をあえて残す方法でしぼった日本酒のことです。

アルコール度数は低めの14度。
ラムネのように甘酸っぱく、カルピスのような優しい雰囲気があります。

特に後半はドライな感じになります。
こんな味が好きな人は、きっとこれだけをニコニコしながらずっと飲んでいられることでしょう。
古酒・熟成酒ではなく、全く違うジャンルですが、私は、こんなのも好きです!

生酛造り、四段仕込、一回火入れです。
「四段仕込」とは、通常は、酒母に麹と蒸米と水を3回加えて、醪(もろみ)造りが完成するところを、さらにもう一回蒸米などを加えることです。
四段仕込の醪をしぼってできた日本酒は、通常甘味が増します。
また、火入れは、多くの場合二回ですが、一回にすることで、フレッシュ感が残ります。

ところで、このにごり酒、どうして、「大森」なのでしょう。
まさか、東京の大森じゃないよね?
調べてみると、世界遺産石見銀山がある島根県大田市大森町のことでした。
大森町にあるアンボアという酒屋さん限定で販売されています。

なお、このお酒は、「清酒」や「日本酒」ではなく、「その他の醸造酒」に分類されます。
これは、「清酒」や「日本酒」と表示する場合には原料には入れられない、麦、アワ、ヒエ、大豆も使われているからです。
最近話題になっている、いわゆる「クラフトサケ」です。
2022年6月には、クラフトサケの協会も設立されています。

無窮天穏 大森
原料: 米・米麹、麦、アワ、ヒエ、大豆(いずれも国産)
原料米:鳥取県大山産山田錦
精米歩合:麹米70%、掛米85%
アルコール度数:14%
日本酒度:➖➖
酸度:➖➖
アミノ酸度:➖➖
酵母:無添加
価格:➖➖
製造年月:➖➖

おつまみとペアリング

これまた、手書きのシンプルなメニュー。
「じゃこ万願寺」「明石のたこ」「きゅうりもみ」「冷やっこ」、そして、「天穏酒粕」を注文しました。
さあ、ちょっとペアリングに挑戦してみよう!
どのお酒と合うかな?

じゃこ万願寺

じゃこ万願寺

これは確かに「じゃこ万願寺」。
「じゃこ」が「万願寺」より先にあるのは、じゃこがとてもたくさん入っているからに違いない!
万願寺にほどよくだしが染み込んでいて、美味しいです。

最初の熟成酒といただくと、すごく一体感がありました。
じゃこ万願寺にちょっと濃いめのだしが加わる感じで、また、熟成酒の苦味はよりまろやかになりました。
じゃこにもほどよい苦味があるので、それも合う理由かも。
万願寺のほのかな甘みと熟成酒の酸味も、相性ばっちり。

明石のたこ

明石のたこ

たこに生姜と醤油。
たこは、すごくぷりぷりしている、足の部分です。
醤油は、たまり醤油とかではない普通の濃口醤油ですが、自然な味わい。
お醤油にもこだわりがありそうですが、尋ねるのを忘れてしまいました。
水母と合います。
お酒の甘みが程よく残り、苦味がより和らぐ感じがします。

きゅうりもみ

きゅうりもみ

意外としっかりとした塩味に、酸味があり、少し醤油の味もありました。
きゅうりにじゃこがかかっていますが、じゃこ万願寺ほどの量ではありません。
これも、水母と合いました。
きゅうりもみの酸っぱさと少しの苦味に、水母の甘旨が程よく加わるからかな。

冷やっこ

冷やっこ(左)と天穏酒粕(右)

お豆腐とかつおと醤油には、どんな日本酒でも合いそうでしたが、意外と難しかったです。
でも、にごり酒をしばらく置いておいたら、落ち着いた味になっていたので、冷やっこと一緒にいただいてみると、合いました!

ところで、写真の右は、天穏酒粕。
これまた、天穏です!
少しオレンジがかったきれいな黄色で、口当たりはすごくなめらか。
「どんな味付けをしたんだろう、どうやって作ったんだろう」と思いながら、パクパク食べてしまいました。
ところが聞いてみると、なんと、酒粕をそのままお皿にのせただけだそうで、びっくりです。
驚き過ぎたせいか、どのお酒と合ったのか、分からなくなってしまいました。
写真だけですが、どうぞ。

店主のタカハシさん

「写真はちょっと…」ということで

「ペアリングなんて全く考えてないんですよ!」とおっしゃっていましたが、日本酒に合うかどうかを基準に、おつまみを作ってらっしゃるのは確かだと思います。
季節の野菜を見て、いろいろ考えるため、メニューは結構変わるとのことでした。
ただ、おそばは年中あり、有名らしくて、何人もの人が注文していましたが、その日は、完売。
最初に頼んでおくと、取って置いてもらえたようです。

また、店主は、「日本酒は、原料処理で決まる」というお考えの方です。
原料処理とは、浸漬(しんせき)、蒸し、製麹(せいぎく)、とのこと。
お米の蒸し方が特に大事だが、蒸しをうまく行うには、浸漬も大事、と力説されていました。
浸漬とは、酒米を蒸す前の工程で、酒米に吸水させることです。
確かに、著名な醸造技術者であった上原浩先生の「一に蒸米、二に蒸米、三に蒸米、四五がなくて六に麹」という言葉をよく目にします。
日本酒造りには、良い蒸米ができることが最も大事、ということなんですね。

店主は、ご自身で日本酒の熟成もされています。
「どんな日本酒が熟成に向いていますか?」と尋ねると、ここでもやっぱり、「原料処理がきちんとできている日本酒」との答え。
さらに、「水母も熟成に向いてます!」とおっしゃっていたので、ぜひ、熟成水母、いただいてみたい!

さて、「たかはし」のオーナー店主の苗字は、もちろんタカハシさん。
いつもなら、「どんな漢字ですか?」と確認するのですが、今回はしませんでした。
カタカナがぴったりの方だと思ったからです。

と言うのも、お店を始められて25年。
日本酒愛があり、すごくこだわりがある話をしてくださり、厳しさも感じられる。でも、良い意味で、なんでも受け入れる和やかな雰囲気を醸し出されていて、人の話をふわっと受け止めて、相手に心地よい間やスペースをくれる人。
どこから来たのか分からない、ちょっと妖精みたいな人。
だから、カタカナが似合うと思ったんです。

最後に…タカハシさんからの興味深いお話

以前お店にいらっしゃったスペイン人のお客様が、ある日本酒を飲んで、「このドライフルーツの感じ、これが、まさに自分にとってのフルーティー‼︎日本人が言うフルーティーはよく分からない」と言ったそうです。
フレッシュなリンゴやバナナのような香りがする、多くの日本人にとってはフルーティーな日本酒より、ドライフルーツの香りの日本酒が気に入った模様。

「フルーティー」は英語だし、意味は万国共通で変わらないと勝手に思っていましたが、ニュアンスが微妙に違うのかもしれません。
日本酒でドライフルーツの香りといえば、古酒・熟成酒です。
古酒・熟成酒にはまだまだいろんな可能性がきっとあるなと思うと、なんだか嬉しくなりました。

最後の最後になりましたが、タカハシさん、いろいろありがとうございました!

「たかはし」
京都市下京区高倉四条下ル 京阪ビル2階

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