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「日本酒の貯蔵・熟成年数がすぐに分からない」問題

日本酒の古酒・熟成酒を飲んでいると、何年ものの日本酒なんだろう、と知りたくなりますよね。
単純なことのようですが、これがすぐに分からないことが多いんです。

まず、ラベルの製造年月を見れば、熟成年数はすぐに計算できると思ってしまいます。
ところが、なかなか難しい場合があるんです。
これは、製造年月が、上槽年月ではなく、出荷のための瓶詰めをした年月だからです。
つまり、しばらく酒蔵で貯蔵・熟成してから瓶詰めし出荷する場合、製造年月からは、熟成年数は分からないのです。

では、酒造・醸造年度(以下、「醸造年度」)や貯蔵・熟成年数(以下、熟成年数)からはすぐに分かるでしょうか?

醸造年度が書いてあれば、計算できるのですが、古酒・熟成酒をいろいろ飲めば飲むほどさまざまな表示方法(○○年、○○年度、○○BYなど)があることに気が付き、何か違いがあるのか、同じなのか、よく分からなくなってしまいます。

また、熟成年数があっても、それが正確な熟成年数ではない場合もあるんですよ。

ラベルをぱっと見ただけで、その日本酒が何年ものかなんてすぐに分かりそうなのに、そうでないことがあるなんてちょっと残念、と思い、現状と解決策について綴ります。

醸造年度と熟成年数の表示の現状

決まりごと

熟成年数の表示は任意で、表示する場合は、「1年以上貯蔵した清酒に、1年未満の端数を切り捨てた年数を表示できます」となっています。

参考:「清酒の製法品質表示基準」の概要

醸造年度については、決まりごとはなさそうです。

さまざまな表示方法

あまり決まりごとがないからか、醸造年度や熟成年数の表示方法って、私が見たことがあるだけでも、次の通り、こんなにバラエティにとんでるんです。

1) 「2010年」など、西暦で醸造年
2) 「2010年度」など、西暦で醸造年度
3) 「2010」など、西暦の数字のみ
4) 「平成22年」など、和暦で醸造年
5) 「平成22年度」など、和暦で醸造年度
6) 「2010BY」など、西暦と「BY」の組み合わせ
7) 「22BY」、「H22BY」、または、「平成22BY」など、和暦と「BY」の組み合わせ
8) 「Vintage 2010」など、「Vintage」と西暦の数字
9) 「長期熟成10年」や「10年古酒」などのみ
10) 「5年古酒」などの他に、「2010年」などの醸造年度

なぜ、熟成年数がすぐに分からないのか

表示方法が多すぎるから

日本酒古酒・熟成酒をいろいろ飲んでいくと、上述のとおり、表示方法がたくさんあることに気がつき、疑問ばかりが次々と湧いてきました。

「年と年度って何が違うんだろう、1月から12月と4月から3月の違いかな?」
「BYって何だろう?」
「BY22って、もしかして、2022年のことかな?それとも、平成22年のことかな?」
「Vintageは、年とか年度とかとは違うのかな?」
「『5年古酒』ってあるけど、今は2022年で、2010年に醸造された日本酒は、5年古酒じゃないと思うんだけど」

などなどです。
疑問だらけで、酒屋さんや酒蔵さんにいろいろ教えていただきました。

では、具体的に見ていきたいと思います。

醸造年度(7月1日から翌年6月30日まで)で表示されているから

これは、例えば、「2021年醸造」の日本酒があったとすると、2021年7月1日から2022年6月30日の間に造られた日本酒ということになります。
日本酒は大体12月から3月に造られるので、、「2021年醸造」は、2021年12月から2022年3月に造られたお酒、つまり、今が2022年7月だとすると、貯蔵・熟成期間は、半年から一年半程度というよりは、3ヶ月から半年程度なんです。

ラベルに醸造年度の説明がある日本酒は、今のところ見たことはなく…
醸造年度が7月1日から翌年6月30日までなんて、普通は知らないですよね。

「2021年」とか「令和3年」とあれば、2021年(令和3年)1月から12月の間に醸造された日本酒って思ってしまう人が多いと思います。
もちろん、私もそうでした。

同じ醸造年度を示すのにたくさんの方法があるから

ほんの一部の例外を除いて、どう表示されていても、醸造年度を表しています。
つまり、「2010」、「2010年」、「2010年度」、「平成22年」、「平成22年度」、「2010BY」、「22BY」、「H22BY」、「平成22BY」、そして、「Vintage2010」は、すべて、2010醸造年度(2010年7月から2011年6月の間)に造られた日本酒なんです。

これだけいろんな表示方法があると気が付くと、「きっと何か違いがあるんだろう」とふつうは考えますよね。
少なくとも、私は、特に、年や年度やBYやVintageには、違いがあるんだろうな、と思ってました。

英語の表示があるから

「10BY」などの「BY」とは、「Brewery Year」で、上述のとおり、醸造年度のことです。
「BY」の前の数字が2桁の場合、例えば「10」は、通常、平成10年のことです。
数字の前に「H」とあれば平成、「R」なら令和です。
「BY」の意味がすぐに分かる人なんて、そんなにいないと思います。
そこに、「H」や「R」が加わると、より混乱する人もいると思います。

「Vintage」も、上述のとおり、醸造年度のことです。
ただ、ワインの「Vintage」は、ぶとうの収穫年だそうです。
日本酒に「Vintage」とあると、お米の収穫年だと思う人もいるでしょう。

和暦または西暦の両方が使われているから

例えば、「10BY」とあると、平成10年なのか2010年なのか、迷います。
(今のところ、BYの場合は、和暦が使われているケースしか知りませんが、決まりごとがないので、西暦で2桁表示されている場合もあるのではないかと思います。)

また、ある日本酒では和暦、別の日本酒では西暦、と統一されていないと、比べにくいです。
例えば、「昭和57年」と「1982年」の醸造年度の日本酒が並んでいたら、同じ年に造られた日本酒だ、とすぐに分からない人が多いと思います。

少し複雑な計算をしないと、熟成年数が分からない場合があるから

例えば、「長期熟成5年」とは、上槽から製造年月(瓶詰め年月)まで5年間、酒蔵で貯蔵・熟成、ということです。
なので、5年を超えてから、酒屋やレストランで貯蔵・熟成されていた場合は、実際の熟成年数は、5年ではなく、それを超えている場合があります。

「古酒○年」だけで、醸造年度がない場合も、同じです。
現在が製造年月から何年経過しているか計算し、その数字に○年を加え、熟成年数を弾き出すのです。

例えば、
「古酒5年」「製造年月 2015年4月」と表示があり、現在が、2022年4月なら、
5年+(2022年-2015年)=熟成年数12年
となります!

実際はこんな計算はせず、「古酒○年」だけ見て、「○年ものだな」と思っている人がほとんどではないかと思います。
少なくとも、私はそうでした。

なお、「古酒○年」などとある場合は、いろんな年に造られた日本酒をブレンドしたものなのかな、と最初は思っていたのですが、必ずしもそうではないです…

まとめ

熟成年数なんて分からなくても、誤解したままでも、日本酒を楽しむことはもちろんできます。
でも、飲んだり、買ったりしていると、細かいところまでいろいろ知りたくなるんです。
簡単に分かりそうな熟成年数が、そうではない場合が多いのは、飲み手としては、ちょっと残念です。

改善策を考えてみる

表示方法を(ある程度)統一

まず、何かに統一しないと分かりにくいです。
熟成年数なんてすぐに分かりそうなのに、今のままだと、知れば知るほど、疑問ばかりが湧いてきてしまいます。

西暦4桁に統一

そうでないと、上述のとおり、飲み手には複雑すぎます。

また、和暦は、日本固有のものだし、日本酒との相性はとてもよいと思うものの、和暦は、特に、年号がまたがっていると計算しにくいです。
例えば、現在を令和4年とすると、「昭和62年」と書いてあっても、何年前に醸造された日本酒なのか、すぐに分かる人は少ないと思います。

そして、何より、西暦の方が、外国人にも分かりやすいです。

醸造年度は、日本語(○○○○年)表示、または、数字だけの表示に統一

「2010年」のように「年」を入れるか、「2010」のようにシンプルに数字だけなら分かりやすいのではないかと思います。

BYもVintageも何のことか分からない人が多いでしょう。
また、Vintageについては、意味を知っていると、ワインのように、原料の収穫年だと思ってしまう人が多いと思います。

「○年古酒」だけではなく、醸造年(度)も表示

「○年古酒」などと表示すると、醸造年度がないと、上述のとおり、何年ものなのかを誤解したままの飲み手も多いと思います。
また、上述のとおり、実際の熟成年数を知ろうとすると、少々手間がかかる計算をする必要が出てきてしまいます。
ブレンドの場合は、「○年古酒」とかでも良いと思うのですが…

もしできるなら、ブレンド以外は、もっとシンプルに、醸造年度だけの表示に統一してほしいです。

醸造年は、暦年(1月1日から12月31日)に統一

醸造年度が7月1日から6月30日までなんて知っている人は、あんまりいないと思います。
なので、誰にでもわかりやすい暦年がいいです。

また、今のままだと、たとえば、「これって私たちが小学校を卒業した年の日本酒だよね」とか言って友人と古酒・熟成酒をいただく時などに、残念なことになる場合があります。
日本では、卒業は3月なので、醸造年度ではひとつ前の年になってしまい、記念年の日本酒を楽しんているつもりが、そうではないことも。

もしかすると、酒造りは年をまたいで冬に行われるので、暦年にしようとすると、酒蔵にとっては難しいことなのかもしれません。
もしそうなら、醸造年度も、せめて、通常の日本の年度と同じように、4月から翌年3月にできないのかな、と。

日本酒もワインのように、お米の収穫年にすれば、暦年にしやすいのでは、とも考えました。
ただ、お米は、ぶどうと違い長期保存できるので、前年やもっと前に収穫されたもので醸造される日本酒もあるようです。
また、ワインの香味にぶどうが与える影響は、日本酒の香味にお米が与える影響より遥かに大きいようです。
お米の収穫年が日本酒に書いてあると、日本酒の香味もワインのように原料のお米で決まる、という誤解を生んでしまうでしょう。

まとめ

全部をすぐに変えることが難しいなら、少しずつでも、醸造年度を、西暦で4桁表示に統一するだけでもしてほしい、と切に願っております!

 すごく丁寧なラベル! 冨田酒造(滋賀県長浜市)

ひとつ、とても丁寧なラベルを発見!

冨田酒造の熟成酒のラベル(裏)

同じラベルの表に「2014」、裏に「2014 酒造年度醸造」と「2015年3月21日上槽」の3つの表示。

これは、すごい!

こんなラベルをすべての日本酒に作るとなると、多くの酒蔵には大きな負担かもしれないので、これが解決策とは思わないです。
ただ、日本酒、特に古酒・熟成酒への強い思いを感じます!

酒蔵独自の解決策‼︎ 吉田酒造(石川県白山市)と白木恒助商店(岐阜市)

この文章を最初に投稿してからも、醸造年度には、もっとさまざまな表示方法があることを学んでいます。

例えば、石川県白山市 株式会社吉田酒造店の場合は、サイトに次の通りの説明がありました。 

「お酒に貼付してある、肩ラベルの年数は「この年に収穫したお米で仕込んだお酒」ということを表しています。例えば「2017」と表示があれば、2017年の秋に収穫されたもので仕込んだお酒ということになります。」

なるほど、ワインのようですね、サイトに説明があるので、これはこれで、とても親切。

また、岐阜県岐阜市 合資会社白木恒助商店(しらきつねすけしょうてん)では、普通の人は、醸造年度が7月1日から6月30日とは知らないので、醸造年度は暦年(1月1日から12月31日)を使っているそうです。

うん、消費者にとっては、暦年が一番分かりやすい!

でも、ひとつの蔵だけそうしても、日本酒業界としては統一されてないので、やはり分かりにくいです。
いろんな日本酒古酒・熟成酒を比べたいときには、特に。

できるなら、ぜひ、業界で、暦年で統一してほしいです!

(以前の投稿をふたつに分けて切り出しました。もともとの投稿は、次の通り残しました。)


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