公演チラシ考察のススメ|戯曲の魅力を引き出す!新国立劇場の演劇シリーズチラシ
こんにちは。おちらしさんスタッフのしみちゃんです! いつもおちらしさん、おちらしさんWEBをご覧いただきありがとうございます。
新国立劇場のシリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」の3作目、『貴婦人の来訪』は明日6月1日より開幕します! このシリーズは4月に1作目の『アンチポデス』、5月に2作目の『ロビー・ヒーロー』が上演されました。
3作品のチラシは、劇場でお配りしている公演チラシ束や「おちらしさん」にてご覧になった方も多いのではないでしょうか?
そんな公演チラシの制作過程に迫る特集記事、「『ロビー・ヒーロー』公演チラシができるまで ~後編~」が新国立劇場より公開されました!
新国立劇場のチラシは、演劇の公演チラシならではの特別な工夫や加工が盛りだくさん! そして1枚で観たときはもちろん、同じシリーズのチラシを並べると唯一無二の迫力が特徴です。上の記事内でもご紹介されている通り、コードデザインスタジオの鶴貝好弘さんがデザインを担当されています。
シリーズ「声」チラシについてはこちらの記事でも“チラシ考察”と題し、その魅力にじっくりと迫りました。
今回は、シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」と同じく舞台公演チラシの楽しさがギュッと詰まった、これまでの新国立劇場の演劇シリーズチラシをご紹介していきます!!
2019/2020シーズン
「ことぜん」
まず初めに2019年の10~12月に上演されたのが、シリーズ「ことぜん」です。『どん底』『あの出来事』『タージマハルの衛兵』3作からなり、どれも日本初演の海外戯曲作品。「ことぜん」とは「“個”と”全”」のことであり、例えば“個人と国家”のような「一人の人間と一つの集合体」の関係をテーマに選ばれた作品がシリーズとなっています。
写真から分かる通り、3枚のチラシは繋げることができ、まるで1枚の絵のように見えてきませんか? つなぎ目にある「ことぜん」「KO+ZEN」「一つの目とたくさんの目のイラスト」はすべてシリーズのタイトルを表し、順番を崩してもチラシ同士が繋がるんです! まさに「個」にもなれ、「個」が集うことで「全」にもなる、名は体を表したデザインです!!
チラシにちょこんと見えるのは、先ほどのつなぎ目のイラストにもなっている「アーロン」と「アロット」という「ことぜん」シリーズのキャラクターたち。そう、こちらも「alone(1人)」と「a lot(たくさん)」ですよ!!
そして宣伝物であるにも関わらず、パッと見ただけでは分からない複雑なデザイン……と見せかけて、実はじっくり見ていくと物語をそのままに映す鏡のような役割も果たしています。既に戯曲のある作品だからこそできる緻密なデザインですね!
私はシリーズ3作目『タージマハルの衛兵』を観劇後、チラシを見て思わず背筋が凍った感覚を未だに忘れられません。チラシ内の挿絵のようなイラストはすべて作中に出てくる特別なモチーフばかりなので、ストーリーを分かった上で見返すと様々な暗示に気づき、本当にゾッとしました。そしてチラシ表面の文字は、あらすじではなく劇中のセリフという大胆さにもグッと惹きこまれます。
さらに表面にはニスによって「個と全」「乞・ご来場」の文字が浮き出る加工が施されており、光にかざすとチラチラと見えてきますよ。
驚きのポイントは裏面にも! 3枚並べると左下の部分が繋がり、イラストと「Which side on your now?」という文章で、私たちに「個と全」を問いかけてきます。
シリーズタイトルを前面に押し出した揺るがぬ軸と、あっと驚くような沢山の工夫が満載の「ことぜん」チラシ。これまでの公演チラシの常識を壊す、非常に挑戦的なデザインでした!!
2019/2020シーズン
「子どもも大人も一緒に楽しめる企画」
続いてご紹介するのは、2020の7月、8月、12月に上演された「子どもも大人も一緒に楽しめる企画」シリーズ。先ほどの「ことぜん」のデザインとは打って変わり、児童小説に描かれた挿絵のようなイラストが目印です!
こちらは『願いがかなうぐつぐつカクテル』を山田博之さん、『イヌビト〜犬人〜』を藤井紗和さん、『ピーター&ザ・スターキャッチャー』を阿部結さんという異なる3名のイラストレーターの方々が担当されています。それぞれの物語のイメージを最大限に伝えるために、イラストレーターの方々の絵のタッチや色合いを最大限に生かしているんですね!
イラストと同様に、タイトルロゴも3作でまったく異なり、物語ごとの味わいやキャラクターが表れているようです。それにもかかわらず、不思議と感じる統一感はチラシの「枠ぶち」の部分によって生まれているのではないでしょうか?
イラストを縁取るように『願いがかなうぐつぐつカクテル』は人間の横顔、『イヌビト〜犬人〜』では口と牙、『ピーター&ザ・スターキャッチャー』は地図のモチーフと思われる「枠ぶち」が描かれています。そしてチラシ上部には、可愛らしくかたどられた日程の案内。これによって、異なる色、デザイン、フォントのチラシでも3作が繋がっているように見えてくるのです!
「子どもも大人も一緒に楽しめる企画」というタイトルもあり、私は紙芝居のフレームを思い出しました(“紙芝居舞台”と言うそうです)。あの箱の中に入っていると、どんな物語でも同じ目線でこちらに手を伸ばしてくれているような気が子どもながらにしていましたが、このチラシデザインにも同じような効果を感じました!
子どもにはカラフルで冒険心がくすぐられる親しみやすさを、大人は童心に返ってちょっと懐かしく無邪気に。同じ箱の中からいくつもの物語を届けてくれる紙芝居と同じように、このシリーズ3作も同じ新国立劇場の舞台からみんなが一緒に楽しめる物語の世界に何度でも連れて行ってくれる。そんなワクワクいっぱいの期待を感じさせてくれるチラシデザインです!
2020/2021シーズン
「人を思うちから」
2020年4~6月に上演されたのは、「人を思うちから」のシリーズです。こちらは最初にご紹介した「ことぜん」とは対照的に、3作ともすべて日本で生まれた、日本が舞台の物語となります。
「日本には“人を思うことができる”独自の文化がある。このシリーズを通じて私たちが持っている“人を思う力”を改めて知ってもらい、そんな自分たちの力を誇りに思ってほしい」という小川絵梨子芸術監督の想いが詰まったこのシリーズ「人を思うちから」。タイトルをはじめ、文字は縦書きが基調となっており、新鮮に“日本の作品”らしさが感じられます!
整った統一感がありながらも、3作の温度がそれぞれに違った形で伝わってくるデザインも面白いところ。『斬られの仙太』は歴史超大作らしく骨太で猛々しく、『東京ゴッドファーザーズ』は暖かさや神々しさを、『キネマの天地』は群像劇らしいコミカルなテンポが見て取れますね!
さらによく見ると分かるのが、チラシの表面に描かれたセリフの数や量が3作で全く異なる点です! こういった工夫からも作品の雰囲気が伝わりやすくなっており、「これ面白そう!」「きっと好きかもしれない!」といったセンサーが知らず知らずのうちに反応してしまうのかもしれません。
というのも、おちらしさんスタッフ内で「人を思うちから」シリーズのチラシについておしゃべりしていたところ、とある歴史小説が好きなスタッフはこのチラシをきっかけに『斬られの仙太』を観に行っており、一方、コメディや会話劇が大好きな私・しみちゃんはチラシをきっかけに『キネマの天地』を観に行っていたのです。ある種、直感での“ジャケ買い”といいますか、本当にこの作品が好きであろう人へまっすぐに届けられてしまう直球さがとても魅力的だと思います!
戯曲があり、そこから魅力を引き出すように作られた舞台公演のチラシ。「チラシを見てイメージしていたのと違った!」なんてこともなく、『キネマの天地』は私にとって本当に大好きなお芝居の一つになりました。
チラシから作品を観たい!というモチベーションが生まれ、そして舞台を観た後にもそのままの世界観を閉じ込めたようなチラシにまた戻ってきたくなる。そんな舞台公演チラシならではの可能性や醍醐味が詰め込まれているところが、新国立劇場の演劇チラシの魅力なのではないでしょうか? 1作ごと、そしてシリーズごとにぜひチラシの魅力も味わってみてください!
最新のシリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」チラシ3作については、こちらの記事でご紹介しています!
そして新国立劇場のホームページでは、『ロビー・ヒーロー』公演チラシの制作過程に迫る特集記事が公開されています。ぜひチラシを見て、記事を読んで、作品を観て、演劇の面白さを新たに発見してみてください!
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