見出し画像

おまえは『SIFU』のリプレイエディタでクリエイティブになる

よくきたな。おれはNeverAwakeManだ。おれはいつもすごい時間ゲームを遊んだり映画を観たりしているが、特に自慢にはならない。おれはこの2か月ほどの間、衝動の赴くままにアクションシーンの映像編集に取り組んでいた。カンフーの使い手がチンピラを相手に大立ち回りをする映像だ。だが、実際にスタントマンをロープ無しで飛び降りさせたり、カチンコを鳴らしたり、冷えかけのケータリングをスタッフ一同でモグモグしていたわけではない。

これは、ゲームの中での話だ。

おまえは『SIFU』というゲームを知っているか?もし知らなくても、今知るので気にするな。これは今からちょうど1年ほど前に発売された、真の男のためのカンフーアクションゲームだ。開発を務めるSloclapも当然真の男たちであり、一切の妥協がない。その本気度合いは、発売から1年経った今も無料でUPDATEを続けていることからも完全に証明されている。そして、これまでのアプデの中で最も存在感を放つ新機能が『リプレイエディタ』だ。

おまえは普段、映画を観てはS・N・Sで「このアクションシーンは駄目ですねえ」とか「ボクならココをこう撮ってましたねえ」などとブツクサゆっている。これはシネフィル気取りにありがちな小賢しいふるまいだろうか?おれはそうは思わない。なぜなら、これはおまえの中にある創造性がうずいている証拠だからだ。おまえの頭の中にはなにか理想とするアクションシーンがあり、正しく出力すればそれはきっと素晴らしいものになる。おれはそう信じている。

だが、おまえは予算がないとか機材がないとかヒザに矢を受けたとかその場しのぎの理由をつけ、己のクリエイティビティに火を着けるのから逃げ続けている。そうこうしているうちにおまえは老いてゆくだろう。おまえはコンテンツをただ消費するだけの受動的な態度に甘んじ、アウトプットすることを忘れ、そして・・・・・・死ぬ。

いや、死ぬにはまだ早い。SIFUのリプレイエディタがあれば、おまえはたった一人でもイカしたアクションシーンを創り出すことができるからだ。なのに、このエピックな遊び方をしているのは世界中でもおれ以外には数えるほどしかおらず、それはとても孤独で、寂しい。リプレイエディタの伝道師となるべく、おれはこうして文を書き始めたとゆうわけだ。

必要なもの:
・対応するコンソールかPC
・SIFUのソフト(定価で4000円くらい)
・アクションゲームの素養
・イマジネーション
・根気

まずはクリアしろ

このリプレイエディタを使う前に、まずおまえはSIFUをクリアしなくてはならない。このゲームの操作、ムーブメント、ロケーションを自分の手と目で確かめるためだ。これは、キアヌがJOHN WICKを演じる前に数か月単位でタフな軍隊式トレーニングをこなして鋼の肉体に仕上げていったり、チャド・スタエルスキがJOHN WICKを最高にカッコよく撮影できる場所をロケハンするのと同じと思えばいい。そうゆう地道な下準備を怠ったが最後、おまえは主人公がチンピラにボコられるだけのスナッフフィルムを撮るハメになるだろう。

そして死ぬ

発売当初のSIFUはイージーモードを持たず、去るものは追わないMEXICOなゲームだった。幸い、いまは難易度が選べる。元々がエルデンリングを写し身なしでクリアするくらいハードコアなのでイージーモードといってもそれほどラクに思えない可能性もあるが、しかし、あとで説明する膨大な編集作業と比べると圧倒的にイージーだから歯を食いしばってクリアするがいい。

納得するまでプレイしろ

SIFUをクリアしてゲームの仕様を一通り理解したら、次は撮影に移るときだ。十字キーの下を押してリプレイの録画を開始しろ。戦いが始まるまでのイントロのことを考慮し、録画は余裕をもって開始しておくといい。

戦闘シーンを撮るにあたって、ボタンはむやみに連打しないほうがいい。ボタンを連打すると、現在のアクションを別のアクションでキャンセルしてしまうからだ。これはゲームの手触りを良くするための工夫だが、シネマティック的には現実味が薄れてしまうのであまりおいしくない。また、ボタン連打は技の空振りなども増えてダサい見た目になるので、どのボタンをいつ押すかしっかり意識すべきだ。おまえはプレイヤーであると同時に演者なのだとゆうことを忘れてはいけない。

そして、リプレイエディタはその名の通りプレイの様子を編集するための機能にすぎず、敵の動きは制御できない。予想外の横ヤリを入れられたり変な映り込みをされたりして、良い画が台無しになることもしばしばある。これは実際どうしようもなく、納得いくまでプレイと撮影を繰り返すほかにすべはない。

真の男であるジャッキーチェンは、たった一つのカットを撮影するためだけに100回以上もNGを出したことがあるという。おまえはいわば、バーチャルなジャッキーチェンにならねばならない。

キューを配置しろ

撮影が終了したら、おまえのイマジネーションを形にする作業が始まる。すなわち編集──EDITING──だ。

リプレイエディタから撮影したフッテージを選び、□ボタンを押すとタイムラインが現れる。おまえがよく知っているタイムラインといえば、腰抜けどもの泣き言が上から下に流れていく病み村みたいなところかもしれないが、それとは違うのでよく覚えておけ。ここでいうタイムラインとは、その名の通り撮影した動画の時間の流れである。カメラアングルやスローモーションなど様々な効果を与える"キュー"をそこに配置することで、諸々の編集を行うとゆう寸法だ。

おまえはまず構図を決めねばならない。タイムラインを表示した状態で△ボタンを押すとカメラの位置を自由に変えられるフリーカメラモードに移る。十字キーでズームを調整できるので、望遠や広角も自在だ。構図を決定したら□ボタンを押し、タイムラインにキューを配置する。これで、次のキューを追加するまでのワンカットが出来上がりだ。

画面下の四角いマークがキュー

だが、このままではいくらキューを追加しても固定アングルの連発になってしまって、ゾッとするくらい見映えがしない。なぜか?実際に映画やアニメを見てみると分かるが、完全に固定されたカットというものは思っているよりずっと少ないからだ。ぜんぜん動いていないように見えても実はゆっくりズームアウトしていたりしていて、画面はなにかしら動いていることがほとんどだ。

タイムライン上に配置したキューは個別に設定を変えられる。たとえば、『移動タイプ』のデフォルトは"カット"になっているが、これを別のものに変更すると次のキューで設定したアングルまでカメラが動くようになる。"リニア"に変更すると等速でカメラが動き、"イーズイン"なら後半にグイッと加速するような感じだ。パンやドリーショット、ワンカット長回しといったカメラワークの多くは、複数のキューを繋ぐことで作り出せる。

カメラワークにこだわりだすと、キューの数はおびただしく増えてゆく。少しでも楽をしたいなら、キューの設定で『フォロー』や『ルック』を使うといい。これは、特定のキャラを選ぶとその動きに合わせてAIががんばってカメラを動かしてくれる便利な機能だ。

いくつかの経験則

冒頭で述べたとおり、おれはこの2か月近くをストイックにSIFUのリプレイエディタに捧げてきた。おれはいわば、SIFUのリプレイエディタの師父といっていい。その経験からわかった法則をここにいくつか書いておく。

1.できないこともある

SIFUのリプレイエディタには多くの機能が備わっているが、できないこともある。代表的なのは、"タイムラインを途中で切れない"ことだ。そのため、連続した時系列を組み替えることはできず、ジャンプカットやリピートなど一部のテクニックが使えない。撮影クリップに不都合なものが映ってしまった場合もそこだけ切り取ることができないので、無関係な角度のカットを挿入したりしてなんとかかんとかごまかすことになる。

また、キューごとに構図を決めてそれを直線的に繋ぐという仕様上、滑らかで曲線的なカメラワークは作りにくい。たとえば、マイケル・ベイがよくやるような被写体の周りをカメラがグルグル周回する動きをやろうとすると、かなりぎこちない感じになる。現実の撮影のように同心円状にカメラを動かすといったことができないからだ。これは不便ではあるが、しかし、致命的というほどでもない。おまえが真の男であれば、この不便さすら創造性の糧にできるはずだ。

2.順序が入れ替わる

先ほども書いたように、敵の動きは制御できない。自キャラのフィニッシュムーブもランダム性が強く、狙ったものを出すことはほぼ不可能だ。そのため、現実で映像を撮る際はコンテ→撮影→編集であるが、SIFUでは撮影→脳内コンテ→編集というふうに順序が入れ替わる。

うまく撮影できたら、まずはそのクリップを何度も通して見直したほうがいい。山場や大技に目星を付け、頭の中で完成像をボンヤリ思い浮かべながらそれに近づけていくというプロセスを繰り返す。これは設計図なしでGUN-PLAを作るようなエクストリームな行為だ。なので、ちょっとでも思いついたことはメモして残しておくといくらか効率的になるだろう。

3.意図を捏造する

SIFUはあくまでゲームなので、戦闘パートそのものはさしたる文脈を持たない。主人公の目の前にNPCの敵がいたとして、都合よく睨みあってくれるわけでもないし、同時にファイティングポーズを構えてくれるわけでもない。

だが、人間は見たものから文脈を想像する生き物だ。ある二人の間にただならぬ気配を演出したいなら、両者の顔をクローズアップしたショットをスローで交互に映すだけでなんかそれっぽくなる。それまでの戦闘シーンをあえて淡白なカメラワークにしてから最後の相手との戦闘だけをワンカット長回しにしたりすると、特別感が生まれるだろう。

編集でなんらかの意図を捏造することで、ただの戦闘は文脈を持つようになる。リプレイエディタを通して、おまえはメディアのほんしつ的なパワーに気付くはずだ。

おまえはクリエイティブだ

リプレイエディタを使ったこの遊び方はおそろしい時間泥棒だ。たった1分のクリップを作るのに2時間くらい平気で飛んでいく。この遊びにハマってしまったせいで、おれのホグワーツレガシーは全然進まない。それほどに楽しい。

その一方で、しかし、おれは自分の映像編集がことのほか上手にできているとは思っていない。できればイップマンみたいなアクションシーンを作ってみたいけれど、実際にはそうはいかないものだ。いくら時間をかけても、理想はいつも遥か高みにある。だが、完成したクリップを見ていると、出来の良し悪しに関わらず、創作欲求が静かに満たされていく。それは自分の苦労に対する自己承認的な快感であり、己の創造性の存在証明である。

いまは娯楽飽和の時代だ。どいつもこいつも「えッ??この大人気コンテンツを履修してらっしゃらない!?!こんなに尊いのにッ!!?!?」などとやかましく、自分の推しだのなんだのをぶつけてくる。もはやコンテンツを消費しているだけで人生は終わり、自分の手でなにかを作る機会は失われてしまう。自分はなにかを作れるのだ・・・・・・・・・という感覚すら次第になくなっていく。AIは無限にスカムコンテンツをサジェストし続け・・・それを無限に消化するために人は無限に安楽椅子に座り、そして・・・死ぬ。

だが、死ぬのは今日ではない。

何度でも言ってやろう。おまえはクリエイティブだ。おまえには創造性と知識がある。ただ、それを出力する方法を見つけられていないだけだ。そんなおまえのためにSIFUのリプレイエディタは存在する。必要なのはいくばくかの時間と、楽しむ気概と、完成させる根性だけだ。おまえはSIFUを通じて己のクリエイティビティに火を着け、メラメラと燃え上がらせることができるのだ。

おれが言いたいことは以上だ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?