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映画の脚本を書き始める前に決める、三つの要素

エンタメとしての物語を作る時に脚本家が目指す最も一般的な目標とは、観客を映画の途中で飽きさせずに話に没頭させることだと思います。

映画を上映している約2時間ものあいだ、観客をずっと席に座らせておくために必要なものとは何でしょうか。

映画でもドラマでも漫画でも、面白過ぎて続きが気になって夜も眠れないものから、始まって10分で気が散ってしまうものまで様々です。そのうち、ほとんどの面白い映画が持っている三つの基本的要素について今回は説明していきます。


面白い物語に不可欠な三つの要素

一番最初に受けた脚本の授業で、教授が生徒にこんなことを聞きました。

「どんな映画にも、主人公(protagonist)がいる。主人公の定義は何だと思う?映画を見始めたとき、どうして"この人が主人公だ"って観客はすぐにわかるんだろう?」

そうすると、ひとりの生徒が手をあげて、「観客が共感できるキャラクター。応援したくなる人だ。」と言いました。そして別の生徒が「物語が進むうちに変化を経験するキャラクターだ。」と言いました。教授は「いい線いってるね。」と言います。でも、どちらの答えも完全な正解ではないようです。

そして教授は正解を教えてくれます。
「主人公とは、欲求を持つキャラクターである。」

さらに続きます。
「そして、物語が始まる時、主人公の欲求にはが立ちはだかる。」

つまり、物語を書く上で最も必要な基本的要素は以下の三点です。

  • 主人公 

  • 主人公の欲求(目標

  • 欲求に対する壁 

この三点を押さえれば、どんな物語も以下の一文に要約できるとされています。
何かを必死に得ようとする人物が、それを得るのに苦労する話 (Somebody wants something badly and is having difficulty getting it.)」

つまり、物語を作る過程でまず最初にやるべきことは、主人公の目標を決めることです。そしてその主人公がその目標を果たそうとする時にどんな壁がたちはだかるのかを決めます。その二点を確立しないまま物語を書き進めると、観客の興味をそそるのが難しくなってしまったり、脚本を書いている途中で物語が崩壊してしまったりする可能性が高くなります。

実際にこの三つの要素を使って要約文/ログラインを作ってみましょう。

主人公=敏腕スパイ
欲求=世界を救うこと
壁=暗黒の組織
要約文:世界を救おうとするスパイが、暗黒の組織に邪魔をされて苦労する話。

007シリーズなどのスパイもので見られる典型的なストーリーになります。

もう一つ作ってみます。

主人公=大学生
欲求=クラスメートと恋仲になること
壁=片思いの相手には既に恋人がいる
要約文:大学生の主人公はクラスメートに片想い中だが、相手には既に恋人がいるためなかなか思うようにいかず苦労する話。

これもまた典型的な恋愛ものができあがりそうです。

みんながよく知る大ヒット映画も、大抵の場合はこの三要素がハッキリしており、似たような要約文を導き出すことができます。

例えば「トイ・ストーリー」ならば、
主人公=おもちゃのウッディ
欲求=アンディの一番のお気に入りのおもちゃであり続けること
壁=バズ・ライトイヤーの到来
要約文:おもちゃのウッディが、アンディの一番のお気に入りのおもちゃであり続けようとするも、新入りのおもちゃであるバズにその座を奪われそうになる物語。

「千と千尋の神隠し」であれば、
主人公=千尋
欲求=豚になった両親を人間として取り戻すこと
壁=湯婆婆の存在
要約文:両親を豚に変えられた千尋が、両親を湯婆婆から取り戻すために湯婆婆のもとで働く物語。

これらの大ヒット映画も、まさに主人公は望みを持っており、そしてそれに立ちはだかる壁を乗り越えようとする構図になっています。

みなさんも、ぜひ好きな映画を思い浮かべてその映画の主人公の欲求とそれに対する壁は何か?を見極めてみてください。


壁の性質

主人公に立ちはだかる壁はほとんどの場合、以下の三つに分けることができます。

  • 環境

  • 心の葛藤

が壁になる場合、それは主人公の家族や友達、同僚、上司など、主人公と敵対する人物 (antagonist) が邪魔をしてくるケースです。

環境が壁になるのは、誰のせいでもないけれど、主人公の置かれた環境が原因で目標が簡単に果たせない時です。

三つ目が、心の葛藤です。人や環境は外的なものですが、主人公自身の不安や恐怖が主人公の欲求を邪魔する場合もあります。つまり自分との闘いです。

ここで例として簡単なラブストーリーを3パターン、作ってみましょう。

まず、主人公トムは、同僚のメアリーをデートに誘いたいという欲求を持っています。

このトムに「人」の壁を与えると、「両家の家族が二人の交際を反対する」などが考えられます。ロミオとジュリエット状態ですね。

トムに「環境」の壁を与えたければ、「メアリーがすぐに引っ越してしまってもう会えない」という案が出てくるかもしれません。

トムに「心の葛藤」を与えたければ、「トムは以前ひどい失恋を経験したので、また傷つきたくないという気持ちが邪魔をする」という展開もアリです。

この三種類は必ずしもハッキリ分かれるものではありません。一つの壁が「環境」の要素と「心の葛藤」の要素を共に持ち合わせていることもあるかもしれませんし、うまくいけば三種類全て持ち合わせた壁も思いつくかもしれません。

この三種類のうち、どれをどんなふうに使うか?を考えてみると面白いと思います。


「壁」を設定するときの注意点

そして主人公の壁を設定するときの注意点としては、壁と欲求はしっかりと正面から対立するか?を確かめることです

どういうことなのか、例を見てみましょう。

・壁と欲求が対立していない例
主人公はアイドルになりたいが、友達が怪我をした。

・壁と欲求が対立している例
主人公はアイドルになりたいが、親に反対される。

前者は、必ずしも主人公の欲求と壁が正面から対立するものではありません。それに対し、後者は欲求と壁がしっかり対立していることがわかります。

映画を楽しむ観客は主人公の欲求と壁がぶつかったときに、どうやって主人公がその葛藤を乗り越えるのかを見たいので、真正面から主人公の目標に立ちはだかる壁を用意することが肝心です。


今日のまとめ

  • 映画に必要な三要素は、主人公欲求、そして

  • 壁は、環境心の葛藤に分けることができる

  • 欲求は正面から対立するのが理想

約2時間もの間、視聴者を画面に釘付けにする物語は、今回紹介したこの三要素がハッキリとしているものである場合が多いです。たとえ主人公の欲しいものがただの水であったとしても、そこに壁が立ちはだかれば観客は主人公がどうやってその壁を乗り越えるのか気になって続きを見ようとします。

是非、大まかなあらすじを決める際はこの三要素をうまく活用してみてください。

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