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千年前の親ガチャ…『落窪物語』継母の虐待台詞

日本のシンデレラと言われる『落窪物語』。
継母にいじめられる姫君の物語です。
書かれたのは『源氏物語』より早く、990年頃とされています。

主人公の姫君は、皇族の出である母が亡くなった後、父の邸に引き取られています。
父・中納言は再婚。
姫君にとって継母である北の方(後妻)は、自分の実の子である四人の娘の方を当然かわいがります。
北の方は姫君を落ち窪んだ部屋に住まわせ、「落窪の君」とまわりの者たちにも呼ばせました。

今なら、後妻が前妻の娘を屋根裏部屋に閉じ込め、家政婦さんに「この子は『屋根裏ちゃん』と呼べばいいから」というようなもの。なんとも陰湿な性格です。

北の方はさらに、姫君にひたすら縫物を言いつけました。姫君は裁縫が得意だったのです。

中納言は北の方の言いなり。侍女のように扱われている実の娘を見て、かわいそうとは思うものの、北の方の指図に従い、北の方の実子のことを優先します。

ある時、北の方は、三の君(自分の三女)の大切な婿である少将の君(蔵人の少将)の袴を姫君に縫わせました。

「これはいつよりもよく縫はれよ。禄に衣着せたてまつらむ」とのたまへるを聞くに、いみじきこと限りなし。いととく清げに縫ひ出でたまひつれば、北の方、よしと思ひて、おのが着たる綾のはり綿の萎えたるを着させえたまへば、風はただはやになるままに、「いかにせまし」と思ふに、「少しうれし」と思ふぞ、心地の屈しすぎたるにや。

落窪物語

意訳:「この袴はいつもより上手に縫いなさいね。褒美に着物を着せ申し上げよう」と北の方がおっしゃったのを、姫君はご伝言で聞いて、みじめで悲しいことこの上ない。それでも、とても早く、そして美しく縫い上げなさったので、北の方は「これはいい」と思い、自分の着ていた、着慣れてクタッとした綾の綿入れを着せさせなさる。風は季節柄、ただただ激しくなるばかりで、姫君は、寒いのに上に羽織るものがないので「どうしよう」と思っていたところ、綿入れをもらえたので「少しうれしい」とホッとする。本当なら高貴な姫君がその程度のことで喜ぶとは……。心が卑屈になり過ぎているのであろうか。

婿の君は、いいものはいいと言う人で、袴の仕上がりの良さを誉めます。

「この装束ども、いとよし。よく縫ひおほせたり」と誉むれば、御達、北の方に、かくなむと聞ゆれば、「あなかま、落窪の君に聞かすな。心おごりせむものぞ。かやうの者は、屈させてあるぞよき。それをさいはひにて、人にも用ゐられむものぞ」とのたまへば、御達、「いといみじげにものたまふかな」「あたら君を」と忍びて言ふもありかし。

落窪物語

意訳:「これらの装束はとてもいい。上手に縫い上げてある」と誉めたので、三の君に仕えている女房たちが北の方にそのことを申し上げると、北の方は「静かにして。落窪の君に聞かせたりしないでよね。いい気になったりするんだから。あんな子は卑屈な気持ちにさせとけばいいのよ。『もっと上手に縫わないと私には何の価値もないわ』と思って頑張れたら、それはかえっていいことじゃない。それでこそ、人に使ってもらえるというものですよ」とおっしゃるので、女房たちの中には「そこまでひどくおっしゃるとは」「さんざんな言われよう。残念な姫君ですわ」と陰でひそひそ言うものたちもいた。

『古文非道台詞集』というものを作るとしたら、絶対に外せない台詞です。

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