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#17 アニメの女の子の目が大きく描かれるのはどうして?進化の過程で引き継いだ「悲しいバイアス」【ニューロ横丁6軒目:意思決定②】

 好きなアイドルグループのコンサートに行った時、何だか自分の推しのファンがやたらと目に入ってきて、みんなと推しが被っている気がする…というような経験はありませんか?

 前回意識に基づいた判断が、必ずしも正しい結果を招くわけではないということを学びましたが、この例ように、意識の上で客観的事実とは異なる情報を、上乗せしてしまう「バイアス」も、私たちの意思決定を歪めるものの1つです。

 ありのままの世界を見ることができず、事実でないことに基づいて判断してしまうことは、時に意思決定にとってリスクに繋がりますが、なぜ人間はそれをしてしまうのか、本日は深掘りしていこうと思います。

オーストラリアのカブトムシが絶滅の危機に!?性選択のバイアス

 前回の「感謝」の回で、感謝の気持ちが時代を超えて残っているのは、感謝は人間関係の強化に役立つメリットがあるからという話がありました。

 バイアスは感謝とは異なり、時にリスクを招きかねないものではありますが、感謝と同様に、進化の過程で残ってきたものであると言われています。

 私たちの脳は、必ずしも自分や周りの幸せ、健康を最大化するものではなく、それを犠牲にしてでも、自分の遺伝子を残すのに有利な形質であれば、進化の過程で残っていく仕組みになっており、それがバイアスが残っている理由であると考えることができます。

 虫の例でいうと、虫には光が宿っているところに飛んでいってしまうバイアスがあります。そのおかげで虫は飛ぶことができているのですが、その光が火であっても、虫はそこに行ってしまうため、命を落としてしまいます。進化の過程で生き残ったからといって、必ずしも良いものとは限らず、欠点のあるバイアスも存在するのです。

 性選択のバイアスで面白い事例があり、オスとメスの進化的な競争の中で、側から見るとお互いアンハッピーに見えるものがあります。

 ゾウムシという虫は、オスの交尾器に、たくさんの棘が生えています。それは交尾をすると、メスが命を落としてしまうほどです。そのため、メスは対抗手段として、進化の過程で、交尾をしようとしてくるオスを、後ろ足で蹴り上げる力を強くしていきます。これを対抗形質と呼ぶのですが、メスが蹴る力を強めていくにつれ、オスもメスに蹴られても交尾器が抜けないように、どんどん棘を強くしていきます。結果として、お互いアンハッピーになってしまう、棘の形質なのですが、このような事例が知覚的なものにもあるのではないかと言われています。

 ある時、オーストラリアの生物学者が、高速道路を運転していたところ、捨てられていたビール瓶に、カブトムシがたくさん集っているのを目撃したそうです。よく見ると、それは全てオスのカブトムシで、ビール瓶に交尾を試みようとしていたのです。その理由は単純で、茶色くて、光に反射して、突起のあるビール瓶の見た目が、メスのカブトムシによく似ていたからです。道路に落ちているたくさんのビール瓶せいで、オーストラリアでは、カブトムシが絶滅の危機に瀕してしまうほどでした。このように、見た目だけでビール瓶に価値を見出して、交尾を試みようとするバイアスがカブトムシたちにはかかっていたのです。

男性が女性を魅力的に思うポイントは「目」にあった!男性のバイアス

 では、人間にもオーストラリアのカブトムシのようなバイアスが、存在するのでしょうか?

 日本のアニメや漫画では、女の子の目がかなり大きく描かれていて、それがなぜなのか、海外の研究者でも話題になっています。人間の女性の目の虹彩を大きくしたり、目そのものを大きくしたり、さまざまな写真を並べて、男性にとって女性の目の大きさが、どれほど魅力的に感じる度合いと関わってくるのかを、確かめる実験をしたところ、虹彩が大きいことで、男性は女性を若く見て、繁殖可能なシグナルとして捉えるという結果が出ました。目の大きさ自体はあまり関係がないようで、人間のオスはカブトムシにとってのビール瓶と同じように、虹彩の大きなメスに対して、魅力を感じるようなバイアスがあるようです。

 海外の研究でも、雑誌の表紙の女性の瞳孔を大きくするだけで、男性の購買率が高まるという結果が出ています。これは、私たちもオーストラリアのカブトムシを、笑えない結果ですよね。

女性は周期によって人の顔が変わって見える?女性のバイアス

 これと同じように、もちろん女性にもバイアスが存在します。進化の性選択の過程で、より異性に選ばれる形質の方が生き残っていく、というものがあります。その中でも、性内競争といって、より良いオスを捕まえるための、メスの中での競争があり、人間の女性はその競争を個体で、水面下で行うことが多いということが分かっています。

 具体的には、セルフプロモーションといって、「私はこんなに可愛くて、価値のある女よ」と、自分の宣伝をする戦略や、周りの女性を下げる戦術があります。

 実は、女性のエストロゲンレベルの高い排卵期、妊娠をする可能性の高い時期は、自分とは異なる他の女性が、異常に不細工に見えてしまうことがあるそうです。周りの女性を下げるというバイアスがかかり、自分の周期によって、同じ人間の見え方が変わってしまうのです。

 しかし、そのバイアスを持っていたからこそ、「私は他の女性よりも可愛い!」という自信をつけて、男性にアピールをし、生まれてきた子孫がいるのです。

 このように、生き残る中で、さまざまなバイアスを私たちは持っていますが、必ずしもそのバイアスが、私たちの健康や幸せに繋がるものでは無い、というのは何だか寂しいことですよね。

 先ほどの性内競争に関して、女性の中でどれほど激しい競争に晒されているのか、というテストがありました。例えば、「自分より綺麗な女性を見ると、たまらなく辛くなるか」「とても魅力的な女性を見ると、粗探しをしてしまうか」などの質問に対して、「Yes」と応える女性は、とても激しい競争に晒されていて、摂食障害などのリスクが高まってしまうと言われています。

 他の人から見たら、とても魅力的であるのに、自分ではそう思えずに「痩せなきゃ、可愛くならなきゃ」と思い込んでしまうのです。

 私たちは、バイアスのおかげで生きてきましたが、それを克服していくことも、私たちの未来には必要なことなのかもしれません。

まとめ

 人間の意思決定には、多くのバイアスが存在します。バイアスは、悪いものとして扱われることが多いのですが、私たちが生きていく上で、遺伝子を残す上で、有利なものがバイアスとして私たちの脳に残っているのです。

 そのおかげで生き残ってきたというのもありますが、必ずしもそれが健康や幸せに繋がるわけではないため、それに対して何か人間として、アクションを起こした方が良いのではという思いもあります。

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