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自然とともに生きることで、地域の良さを伝え続けていく

江戸時代以前から私たちの健康や生活を支えてきた日本産のハーブ。それらは稲やヨモギ、ドクダミなど多岐にわたり、「和ハーブ」と呼ばれている。

和ハーブインストラクター・フィールドマスター・フードディレクター(一社)和ハーブ協会認定資格。和ハーブについての学びを座学、実習、料理を通じて伝える資格)である本田真美(ほんだ・まみ)さんは、そんな和ハーブのスペシャリストとしての顔を持ちながら、茨城県常陸大宮市で「農家民泊推進マネージャー」担当の地域おこし協力隊として日々活動中です。

今回は、和ハーブと農家民泊を掛け合わせた地域振興に取り組む本田さんと松本美枝子マネージャーとの対談を実施しました。


和ハーブを次世代に引き継ぐことで、
地域に貢献したい

本田真美さん

松本美枝子マネージャー(以下、松本。敬称略):本田さんの活動といえば「和ハーブ」を活用した地域おこしですが、そもそも和ハーブとはいつ頃出会ったのでしょうか。

本田真美さん(以下、本田。敬称略):今から3、4年ほど前、精神的につらい時期を過ごしていて、そんなときに出会った和ハーブに心救われました。和ハーブは、道端にあるようなごく普通の植物ですが、現代に生きる私たちが忘れかけてしまっているような懐かしい文化のようなものです。そんな和ハーブを次世代に引き継いでいきたいという気持ちが高まり、地域に貢献したいと思うようになりました。

本田さんが育てている「和ハーブ」

松本:なるほど。地域貢献というと本田さんの地元でもできると思うのですが、常陸大宮市に協力隊として移住するきっかけは何かあったのですか。

本田:最初は地元の神奈川県厚木市で、和ハーブを活かした地域活動を考えていました。ですが、プライベートの関係で茨城県へ引っ越すことが決まったんです。それまでは地元の企業に勤めていたので、仕事と移住の両面から今後のことを考えなければなりませんでした。
移住というキーワードで調べているときに、地域おこし協力隊制度と出会いました。協力隊なら和ハーブを活かした地域貢献ができると思い、茨城県に絞って探していたところ、ちょうど常陸大宮市が「農家民泊推進マネージャー」担当の協力隊を募集していて、応募しました。

松本:そういう経緯で茨城県で協力隊になろうと思ったんですね。実際に協力隊に応募する前に、下調べなどはしましたか。

本田:協力隊に応募するならその街のことを少しでも知っておくべきだと思い、事前にプライベートで常陸大宮市を訪れました。市内の主要スポットや協力隊が企画していたイベントに足を運びました。一通り見てまわって、素直に良い場所だと感じて、ここで暮らしたいと思いました。

松本:事前に足を運ぶことは大切ですよね。企業勤めからの協力隊になるというところに不安などありませんでしたか。

本田:15年近く勤めていたので、何もなければ定年まで働いていたと思います。ですが、安定よりも自然や和ハーブとともに生きて、その良さを伝えていきたいという気持ちの方が強かったです。

耕作放棄地を活用したマコモ栽培に取り組む

松本:本田さんの想いが伝わってきました。「自然や和ハーブとともに生きる」ということですが、現在は主に農業に取り組んでいますよね。どんな食物を栽培しているのですか。

本田:現在は主に、和ハーブの一つであるマコモ(マコモタケ)というイネ科の植物を栽培しています。中国など東南アジア諸国で古くから食用として身近な植物だったそうです。このマコモには、黒穂菌(くろぼきん)という菌が寄生しやすくて、菌の影響で根元の茎が肥大します。その肥大した茎の部分がマコモタケと呼ばれています。

マコモタケの圃場

松本:なるほど。マコモとマコモタケは、菌が寄生するかしないかの違いなんですね。収穫した後、どのように調理して食べるのが美味しいのでしょうか。

本田:マコモタケはシャキシャキとした食感とほのかな甘みが特徴で、天ぷらや炒め物にすると美味しいです。タケノコに似ていると思います。マコモは、粉末状にしてお茶にしたり、粉末を練り込んだパウンドケーキなどで販売しているところも多いです。抹茶に似た味がします。

松本:美味しそうですね。本田さんの畑がある常陸大宮市の北富田地区は、以前からマコモの産地だったのですか。

本田:この地区では、産地というよりも、昔からマコモが自生しており、馴染み深い食物だったようです。マコモは、やせ地でも比較的育つので栽培しやすいです。この地域は、高齢化や人口減少で耕作放棄地が多いので、土地の活用にも役立つと思っています。

松本:なるほど。今後産地になる可能性を秘めていますね。かなり広い土地ですが、どのようにして出会ったのでしょうか。

本田:もともとこの場所で、市の一期生の協力隊がお米を作っていました。その時から歴代の協力隊に力を貸してくださる地域の方がいらして、私が農業体験や農家民泊をしていきたいとお話をしたらご厚意で貸してくださったんです。畑近くに住んでいるので、時間があると顔を出して様子を見に来てくれたり、お昼をご馳走してくれたり、本当に良くしてくださいます。

松本:心温まるエピソードですね。今年度は、マコモの栽培が主な活動だと思いますが、今後収穫したマコモをどのように活用していきたいですか。

本田:そのまま出荷することはもちろんのこと、さきほどもお伝えしたお茶やパウンドケーキ、マコモジェラートのような加工品を作って、道の駅などで販売したいと考えています。また、道の駅にはレストランもあるので、一緒にレシピ開発もできたら嬉しいですね。

農業体験は、新鮮で貴重なもの

松本:収穫後に、試食会なども開催できたらいいですね。本田さんは「農家民泊推進マネージャー」担当ということですが、農家民泊について現在進めていることはありますか。

本田:残念ながら拠点となる空き家がまだ見つかっていません。なので、今できることとして、この畑での農業体験を徐々に始めています。この近くに最近東京都から移住してきたご家族がいるのですが、お子さんと一緒に稲刈りをしたら、とても喜んでくれました。都内から来る人にとって、農業体験はとても新鮮で貴重なものだと改めて実感しました。来年以降は田んぼや畑を拡大して、農業体験をもっと提供していきたいと考えています。

田んぼだけでなく周辺の水路の整備などもこなす

松本:ちなみに農業体験は、どのようなビジネス展開を考えていますか。

本田:現在、オンラインショップを準備中です。マコモの加工品だけでなく、農業体験チケットも合わせて販売しようと考えています。まだ商品が少ないので、残念ながらオープンできていないのですが、準備が整い次第、SNSなどを活用して、情報発信できたらと思います。

松本:なるほど。SNSでの発信でいうと、本田さんのX(旧Twitter)アカウントは、フォロワーが2000人を超えていますよね。1000人超えるのもなかなか大変だと思うのですが、本田さんなりの発信方法や発信軸など、何かコツはあるのでしょうか。

本田:発信方法については協力隊着任以前に、SNSでのライティングスキルを勉強する講座を受講し、発信のコツを教えていただきました。私の場合、運が良かったのもあるかもしれませんが、現在は移住や田舎暮らしが発信軸になっているので、そういう情報を得たい人や田舎暮らしに関心のある人がフォローしてくれているんだと思います。

松本:勉強していたんですね。フォロワー数が多いことで良かったことはありますか。

本田:「これから○○がしたい」と発信したときにフォロワーの反応を見ることができます。あまり反応がなかったら、需要がないんだと判断できますし、フォロワーがモニターをしてくれている部分があるので、判断材料の一つになっています。

移住者だからこそ分かる地域の良さ。
何もない場所ではなく、何でもある宝の山

松本:お話を聞いて、本田さんはSNSを有効活用しながら、農業を通してしっかりと地域に溶け込んでいるのだと思いました。地域の方と交流を深める中で嬉しかったエピソードがあれば教えてください。

本田:この畑の奥に、小さなお社があって弁天様が祀られているんですが、昔からこの集落で祭礼を行うほど大切にされてきた神様なんだそうです。そうとは知らず、私もこの畑を借りたときから、綺麗にして稲を備えたりしていました。
先日、もうすぐ曾孫が生まれる地域の方がお参りにいらしたんです。その時に「ここを通る度に協力隊の人が頑張っていると思っていたけど、私たちの神様も大事にしてくれていて、本当に嬉しかった。ありがとうね」という言葉をいただきました。

弁天様に手を合わせる本田さん

地域の方は、私が頑張っている姿を見て頑張ろうと思ってくれるみたいです。昔からこの地区で暮らす皆さんは、「ここは何もないところだし、何でここに来たの」とよく言うのですが、私が「そんなことないです」と言うと、ここで暮らしていることに自信がつき、誇りに思えるようです。

松本:協力隊が地域の良さを再発見している良い例だなと思いました。本田さんは、本当に地域に根付いた活動をしていますね。

本田:ありがとうございます。そう思ってもらえているのであれば、私も嬉しいです。

「止まり木」のような存在になりたい

松本:最後になりますが、改めて今後の夢や実現したいことについて教えてください。

本田:最終的には、ここで農家民泊を開業し、都市部から来た人に農業体験や自然に触れてもらう場所を作りたいです。移住した当初から言い続けているのですが、私のように悩んでいる人の「止まり木」になれるような癒しの場を提供していきたいです。

松本:素敵なお話をありがとうございました。夢の実現に向けてこれからも頑張ってください。応援しています。

(撮影:松本美枝子)
(執筆:谷部文香)

Profile

本田真美
神奈川県厚木市出身
常陸大宮市地域おこし協力隊 農家民泊推進マネージャー担当
和ハーブ協会認定:和ハーブインストラクター、和ハーブフィールドマスター、和ハーブフードディレクター資格保有者

松本美枝子
写真家、茨城県県北地域おこし協力隊マネージャー。一般社団法人 自由と地図代表理事