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地域をおこすとは、地域で活動するとは。改めて考える(全体会議レポート)


6月22日(木)、茨城県常陸太田市を会場に、いばらき県北地域おこし協力隊マネジメント事業の一環として、「全体会議」を開催しました。「全体会議」とは、県北地域の地域おこし協力隊と協力隊担当の行政職員とが一堂に会し、年に2回ほど開催している企画。外部のゲストを招いた講義や、地域おこし協力隊員による取り組み発表などを行い、情報共有とネットワークづくりを行っています。
今回は、総勢約30人が集合。茨城県常陸大宮市の地域おこし協力隊を卒業後、地域で場づくりや現役協力隊員のサポートなどを続ける松原功(まつばら・こう)さんによる研修の後、新潟県十日町市で地域おこし協力隊となり、卒業後も地域で「NPO法人地域おこし」の代表理事をつとめて活動する多田朋孔(ただ・ともよし)さんによるゲストトークを行いました。

地域おこし協力隊制度について

松原功さん

まずは松原さんによる研修です。松原さんは、2018年から3年間、東京から常陸大宮市に移住して地域おこし協力隊をつとめました。現役時代は林業や狩猟関係の活動や、市や協力隊のPR活動などを行っていました。現在は地域の拠点「Co-working+Atelier おへそ」の運営や、木工関係のものづくり、県内の地域おこし協力隊の活動サポートなどを行っています。

そんな松原さんによる、改めて「地域おこし協力隊制度」を見直すレクチャー。どのような政策に基づき、どのような構造で協力隊事業が実施されているのかという制度の話から、行政・隊員・地域の人がよりよい関係性で活動するためのヒントの話、任期終了に向けた準備の話などがあがりました。
よりよい関係づくりには、「まずはあいさつ」、「ほう・れん・そう[報告・連絡・相談]」などという、当たり前ですが丁寧なコミュニケーションが効果的。また、自治体の「総合計画」を読み、どのようなビジョンで協力隊事業が導入されているのかを学んだり、地域のキーパーソンを見つけて、地道に関係性をつくっていったりなど、「信頼貯金を貯めていくこと」が大事だ、というメッセージが語られました。

任期終了後に向けては、終了直前ではなく、活動をしながらさまざまなロールモデルを見つけ、卒業後のイメージを描いていけると良いのではという話も。実際に都市部から移住、定着、そして現役隊員のサポートなどを経験した松原さんならではの、実感のこもった研修となりました。

地域おこしと自己実現の両立を!

多田朋孔さん

続いて、多田さんによるゲストトークです。多田さんは、民間のコンサル会社に勤務後、2010年に新潟県十日町市にある限界集落「池谷集落」に移住し、地域おこし協力隊として活動しました。その後、多田さんや地域の方々の取り組みによって、集落は限界集落から脱却し、「奇跡の集落」と呼ばれることに。詳細は多田さんの著書『奇跡の集落 廃村寸前「限界集落」からの再生』にも記されています。
ゲストトークでは、「地域おこし」をいくつかのステップに分類しながら、多田さんの取り組みや、その活動・事業の展開について事例紹介いただきました。

トークの冒頭で、多田さんは参加者に「地域おこしって何ですか?」と尋ねます。それを受け、参加者同士で軽く意見交換。

地域との関係性をつくっていくにあたって、多田さんはまず「仲良くなる」ことから始めました。多田さんは当初、多種多様な地域行事や交流会に参加する、地域の人の頼みやアイディアを積極的に受け入れるなど、とにかくたくさんの方と繋がることを重視していたそうです。その姿勢に関して、ふるさと回帰支援センターの稲垣文彦さんの言葉を借りて、「足し算の支援/掛け算の支援」の考え方が紹介されました。地域との関係性がマイナスの状態のときに、無理に動いても、例えば「マイナス2×5はマイナス10」になってしまうように、空回りするばかりで成果にはつながりません。関係性がプラスになるまでは、足し算を地道に積み重ねて、関係性をプラスの状態にしていくことが大切です。関係性がプラスになった後も、うまく「足し算・掛け算」のバランスをとりながら活動していけると良い、と語りました。

その地道な関係づくり、ひとりひとりとの出会いの中から、活動がひろがるきっかけが生まれていきます。例えば、地域の人と行っていた「5年後の地区を考える会」の参加者や、大学時代のコミュニティで出会った人がきっかけで、地域のお米の販路が県外に拡大したり。十日町市内の他の協力隊のクラウドファンディングに参加したところ、その結果が地域の人に好評だったことがきっかけで、活動に新たな可能性が見られたり。
さたに、ひろがった活動を持続可能にするために、公式YouTubeチャンネルで毎日動画を投稿してみる、利用者が増えているという「ふるさと納税」に挑戦してみる…など、PR面での工夫も紹介されました。

実は、今回紹介いただいたさまざまな活動は、現役の隊員任期を終えた後に展開したものも多いそうです。多田さんは「足し算・掛け算」の話に再度触れつつ、「いきなり理想を目指しても、地域では空回りしてしまうので、まずはしっかり足し算ができるといいと思う。行政の職員さんにも、協力隊が3年間でかたちにすることを求めすぎないようにしていただけたら」と語りました。

最後に多田さんから、冒頭の問い「地域おこしって何ですか?」の、多田さんなりの回答が紹介されました。「住んでいる人が、自分の地域の良さと価値を自覚できるようになること」がまず大切なのではないかと語ります。地域の良さを知っていると、外部から来た人に対して「なぜ来たの」ではなく、「よく来たね」「ここはいい場所でしょう」というウェルカムモードになる。そうすると地域を好きになった移住者が増え、定着していくために仕事をつくり、定着できる人が増えることで地域の持続性が上がり…と展開していくのではないか、と。

自給自足を目指した生活をイメージして、協力隊をつとめ、そして現在もさまざまなチャレンジを続ける多田さん。今回のトークテーマ「地域おこしと自己実現の両立」に関して、さまざまなステークホルダーと自分との目的が重なる部分に力を入れていくこと、こまめなコミュニケーションをとること、お互いがそれぞれの組織内や地域で板挟み状態にあることを想像すること、などをふまえてうまく関係性をつくりながら、自分の目指す方向へ挑戦していけると良いのでは、とまとめました。

質疑応答の様子

今回の全体会議では、2人の地域おこし協力隊OBの、経験と実感のこもったお話を聞きながら、改めて地域で活動することとはどういうことか、いま地域と関係をつくれているだろうか、と考えさせられる時間となりました。

今後もnoteでは、「ネットワークKENPOKU」の取り組みや隊員の活動を紹介していきます!どうぞお楽しみに。

終了後、情報交換や相談などをしあう参加者の様子

(写真:山野井咲里)
(執筆:岡野恵未子)