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第12話 先駆者

自立した生活の支援事業を行うにあたって、僕にはどうしても会っておきたい人がいた。

フリーで介護事業を行なっている先駆者がこの地域にはいるのだ。

以前病院で僕が受け持っている患者さんにその先駆者が介入しており、その自由度と胆力に感銘を受けていた。その方は一人で仕事を請け負い、今では365日休みなく朝晩関係なく仕事をしている。何か覚悟のようなものをその背中から感じていたのだ。あの人には話を聴いてもらっておくべきだと感覚的に理解していた。

病院に患者送迎の為訪れていた先駆者に僕は声をかけた。そして、今自分が考えていることややりたいことを簡単に説明した、というか説明しかけたところで僕の話を遮り、目の色を変えてこう言った。

『いいじゃない!絶対必要よ!私だけじゃこの地域抱えきれないし、リハビリの専門的な知識も少ないから相談するところも無かったし!いいわ!やった!一緒にやりましょう!』

…まだ十分説明しきれていないのでとりあえず連絡先をもらって後日ゆっくりと話を聴いてもらう約束をして別れた。なんだかもう始める前から事業が動き出した気がした。車輪が坂道を転がり出すような感覚、まだ職場やめていませんが。

頭では社会的意義とニーズがあると考えていましたが、実際現場で動き回っている先駆者が太鼓判を押してくれるのはとても勇気をもらえるものだった。

同時に少し畏れのような感覚も抱いた。勤め人で責任の少ない楽な立場から、全ての責任を負って働く仕事の一端を垣間見たようで覚悟を問われているような気がしたのだ。覚悟は行動を繰り返し失敗と成功を経ながら磨かれていくのかもしれない。少なくとも今は畏れの方が強い。でも絶対後には引かない、朝希望を持って目覚めるという感覚には何にも変えがたいものがあるからね。

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