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『 歌舞伎根付ができるまで 』 〜 終盤編 〜

いよいよ終盤、完成までの過程を画像とともに紹介していきます。

●制作過程を画像で追う ㉔〜㉚完成

前回、序盤編は鯉の眼玉の象嵌の埋め込み穴を彫って仮組みして終わりましたので、彫りを仕上げて本染めをして完成させます。

㉔ 人物の目を彫り、鯉と目線が合うよう瞳の位置を決めていく

同時に着物の柄のアタリをシワの動きに気をつけながら書き込んでいく

㉕ 着物の柄や、人物の髪の流れを慎重に少しずつ彫り込んでいく

単色グラデーションだけで鯉、人物の肌、着物の質感の差が出るように彫り方を変化させるのがポイント

㉖ 最後に鯉の全ての鱗(おそらく300枚近く…)に細かい模様を彫り込んでいきます。

 が、彫りに集中しすぎて写真を撮らずに本染に突入…染めている最中の画像がなくてゴメンナサイ。

㉗ 本染(今回は天然染料のヤシャの実を煮出した染液だけの単色染め)

完成イメージと構図によって、部分的にマスキングしながら染め分ける場合と、マスキングせず磨き出ししながら全体を染め分けていく場合と作品によってさまざま。

マスキングなしで磨きと染めを同時にしながらしあげていく方法は、磨かれた後にちょうど完成形のフォルムになるように研磨で削れるコンマ数ミリ分の厚みを残しておかなければならない上に、重ねて染めていく染料の順番を間違えると最終的に表現したかった色が出なくなってしまうので、何度も何度も手順を頭の中でシュミレーションして慎重に慎重に進めなければならないので、かなりの集中力と時間がかかってしまいます。

波を白く磨き上げていくことで黒茶に染められた「銘」凹部分がクッキリと見えてきます

㉘ 眼玉の象嵌を嵌め込み、全体のトーンを熟慮しながら白くしたい部分を磨き出していく 

鯉の顔部分はグラデーショントーンになるよう磨きと染めを繰り返し、波の部分はしっかり磨いて白をクッキリ際立たせる
鯉の尾ビレと人物の足裏
人物の着物も襦袢、長着、掛け衿の生地や色柄の違いを単色の天然染料の染めだけで表現するには下地の荒らし彫りが重要となります

㉚ 全体に仕上げの艶出しを施し、紐を通して完成 !

今回はあえて天然染料の「ヤシャ染め」のグラデーションだけで歌舞伎の華やかさを表現、それだけに鯉の目玉の真鍮の金属感が映え、構図が引き締まります。

●おまけの根付考 


【 え、「根付ねつけ」って何??? 】

根付は着物を日常着としていた江戸時代に、巾着袋や印籠、煙草入れなどの小物を腰の帯に吊るして持ち歩くため、帯に引っ掛け留めるための留め具(ストッパー)として使用されていた実用装身具です。

「根付」・「緒締」・「提げもの」の説明図
着物の帯に根付をくぐらせて引っ掛けることで、提げものを腰に携帯することができます
現代はズボンのベルトに根付をくぐらせて使ったりします

【根付の特徴】

その1)
腰に携帯する“提げ物(巾着や印籠、煙草入れなど)”を吊るし提げるための紐を通す穴があること

穴の上をよーく見ると鯉を下から掴んでいる人物の指が彫られています

その2)
着物の帯(現代は洋服なのでベルトなど)にくぐらせて引っ掛け留める着脱可能な『留め具』なので、手のひらサイズでありながら折れやすい突起部分などがなく実用に耐えうる強度と耐久性があること

真上から見たフォルムからも、正面とはまた違う見所と使いやすさがわかっていただけるかと


その3)
置物のように平らなところに置いて鑑賞するのとは違い、腰に装着された状態で人目に晒されるため、四方八方360度どこから見ても絵になるように彫刻が施されていること

水流の中、鯉をしっかと掴んで踏ん張っている方足が見えるように彫ってあります

【根付の醍醐味】

手のひらサイズの実用彫刻品でありながら、その意匠(デザイン)に込められたさまざまな物語や隠しテーマ、そして創り手の密かなこだわりなどの「ひねり」が加えられていることで、「身につける楽しさ」「手のひらで握って眺める楽しさ」「想像を膨らませる楽しさ」を感じられるのが根付の魅力であり醍醐味かもしれません。

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