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終末論的We`ll meet again

※下の記事の抜粋を追加・修正したものです

 We`ll meet againほど時代が変わっても心に響く歌は少ないだろう。希望だけを伝える単調な歌詞が、その重みをはっきり感じられるメロディーとともに重ね合わり、心になにかの幻影を作ってくれる…

 人類規模の総力戦になった第二次世界大戦が始まる直前の1939年に、この曲は作られた。
 第二次世界大戦でVera Lynnが歌ったこの曲は、数々のイギリス兵に希望を与えた。彼女は前線へ向かうイギリス兵のために開いた数々のコンサートでこの歌を歌い、兵士たちの士気を保った。自分たちにどんなことがあろうと、いつかはきっと愛する人とまた会えることを。だから以前そうしていたように微笑みかけ、希望を持って…

 だが、「2001年宇宙の旅」でも有名なスタンリー・キューブリック監督の映画「博士の異常な愛情」通称「ドクターストレンジラブ(Dr.Strangelove)」を見たものにとって、この曲は大きな皮肉を連想させる。なぜならこの映画のラストシーンでは、核爆発の映像がこの曲とともに流れてくるからだ。

 晴れた日のどこかで、またいつか会えるだろうという希望は、終末世界では決して叶わない希望でもあり、悲しい絶望に過ぎない。なぜならそのような状況で実際に感動的な再開を果たすことができるのは、神の気まぐれとロマンチストだけであるからだ…

 終末論的なWe`ll meet againのイメージは様々である。核戦争によって破壊され、機能しなくなった国家が、ラジオで永久に流し続けるプロパガンダ。「銃を手に取り、愛する人のために最後まで敵に屈しないでください…」

 事実として、共産主義圏と民主主義圏が争っていた冷戦時代、この曲は核戦争を想定した有事に備えたBBCの放送時の曲リストに載っていた。国民の士気を高めるために放送する予定だったのかもしれないが、実際に放送されていたら余計気が滅入るかもしれない。

 核戦争による人類絶滅のリスクは21世紀に入ってもなお健在だ。世界終末時計の針は、2024年現在過去最短の残り90秒を指している。キューバ危機は急激に核戦争のリスクが上がったのに対し、ウクライナ戦争やパレスチナ問題は緩やかではあるが、キューバ危機と劣らない潜在的な核戦争勃発リスクがあるといわれている。

 決して叶わない希望、と書いたが、実際に第二次世界大戦を経験した者にとっても、別れた仲間や愛する人と再開できる希望も決して大きくはなかったのだろう。しかしだからこそ、Vera Lynnの歌声は多くの兵士たちの心に刻み、今の人々を惹きつけるのではないか。

 なおVera Lynnはこの歌の功績を認められてOBEを受賞し、「イギリス軍の恋人」と言われている。
 戦場でのコンサート。兵士たちとともに歌う。

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