地球星人を読んで-地元を離れればいいだけの話。

恋愛や生殖を強制する世間に馴染めず、ネットで見つけた夫と性行為なしの婚姻生活を送る34歳の菜月。作中で菜月は夫と共に家族、親戚、友人から逃がれて田舎に住み、異星人を自称し、独自の価値観を育み、最後には食人にまで至り、晴れて地球の洗脳から解け、ポハピピンポボピア星人に成った。(多分)

菜月が忌避していた「恋愛や生殖を強制する世間」なんて世間のほんの一部に過ぎない。そしてその事の菜月が気づかないはずがない。「すり抜けドットコム」なるマイノリティ向けのコミュニティを見つけ、仮夫婦にまで見事に漕ぎ着ける程に聡明な菜月がなぜ「恋愛や生殖や結婚をする事」というのは多様な生き方の1つでしかないという事実に気づかないのか筋が通らない。

常識を誇りにしてマイノリティを裁く世間に対して「それは価値観の強制だ。」と理屈で挑むのは確かに困難だし、数の力の前ではどうにもならないだろう。だからと言って「自分は異星人だ」という自己催眠に頼るしかないのか?

そんな訳が無い。

ただシンプルに夫と共に地元を出て、馴染めない親戚とは距離を取り、地球星人として真っ当に生きていけば良かったんだ。それは田舎の閉鎖的な空気に嫌気がさした若者が都会に上京するなんていう余りにも聞き馴染みのある「あるある」だ。

「馴染めない」なら離れればいい。わざわざその環境に身を置いて自分には理解できない生き方を「工場」だと揶揄する暇があるなら一刻も早く環境を変える努力をすべきだ。いくら菜月の脳内で解釈された世間がおどろおどろしくても現実世界はいつも通り回っていく。何も変わらない。状況は不利になるばかり。

「地球星人」を読んで思ったのは、ひたすらに「早く逃げろ」だった。それだけの話のはずなんだ。



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