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女子寮時代の思い出〜人生を変えた先輩の言葉〜

 引き続き、女子寮時代の甘酸っぱい思い出である。(以下、不愉快な記載があるかもしれませんのでデリケートな方は読まないことをオススメします!)

 「性の伝道師」と呼ばれている年上の先輩がいた。

 今、こうして書いていてもその通称のあまりの馬鹿馬鹿しさに、苦笑というか、爆笑してしまうのだが、本当に、彼女は(一部で)そう呼ばれていた。

 彼女の部屋に入ると、一番最初に目につくところに、手ぬぐいがあった。その手ぬぐいは常に目につくところにあったのだが、その手ぬぐいには、さまざまな体勢で絡み合う男女のポージングの絵柄が何種類も描かれているのだった。47種類?48種類?よくわからないがそのくらいの種類だと思う。

 その手ぬぐいを、じっと見ることは憚られたが、一体この手ぬぐい、どこで買ったんだろう…と私は思った。

 amazonが存在していない時代の思い出である。

 彼女は、とにかく女性の「痩せ」「太り」に敏感であった。そして、彼氏ができたのではないか?という嗅覚というか、察知能力、また、誰かが付き合った別れた、というようなことへの情報管理能力、把握能力もすごかった。まるで炭鉱のカナリアのように、すぐに察知するのだった。そして割とあけすけに、彼女自身のいろんな性的な体験談をオープンに、語っていた(私に対しては語ってこなかったが)。

 90年代後半、陰鬱なムードの事件だらけで、「鬼畜系」と言われるジャンルのかなり際どい雑誌などが流行っていた頃である。彼女は、音楽にも詳しく、かなりコアでダークな雑誌なども読んでいて、何やら異様な知識量を誇っていた。インターネットがなかったので、コアな情報は全て雑誌から仕入れていた。

 ある日、寮の廊下で彼女にすれ違うと、こんなことをすれ違いざまに言われた。

「ねすぎー!死体の写真集あるよ、見る?」

「いや、あの、ちょっとやめとくわ〜」

「そっか〜」

そんな、なんかちょっと、シュークリームあるよ、食べない?みたいな感じで「死体の写真集」を見せようとしてこなくても…。

どこで買うんだろう(とにかくamazonは当時なかった)と私は驚いたが、まぁ、そういう人なので、そういうものだろう、と思っていた。

 当時の女子寮内では、多くの女性たちが、ダイエットとバストアップに情熱を燃やしていた。共同の風呂で長く湯船に浸かっている人たちが、両手を観音様のように合わせ、真剣な面持ちで、バストアップのための活動をしているのだった。毎日のその真剣なバストアップ活動は、その情熱で、何か潤沢にエネルギーが生まれそうというか、発電でもできそうなくらいの異様な迫力があった。

 私はといえば、そもそも鶏ガラのような体型の家族のもとに生まれたため、痩せることへの情熱も、バストアップへの情熱もなかった。そもそも、スタートラインが違いすぎ、アップを望むことも、無理なのである。使用用途もないので、頑張ろうという気にもなれなかった。

 ある日、私よりはだいぶ恋愛に精通しているものの、やはり大変に痩せ型の友人が、真剣に、自らの体型があまりにも女性らしくないことに悩んでいた。若気の至り、思い込みといえばそれまでなのだが、胸がなさすぎると、女性っぽい服が着られないし、男性にとってはこの特徴は本当にネガティブな印象をもたらしてしまうであろうと、嘆いていた。

 その嘆きは、深く、重く、海底の底の方にも届きそうな勢いであった。
 
 私はあまり悩んではいなかったが、寮の廊下に落ちていたFree Take(と呼ばれていたお下がりの服をもらえるシステム)の服ばかり着ている私としても、女性らしい、オシャレな服装をしようとすると、胸の存在の有無は常に重たくのしかかってくる、ということは、リアルに理解ができた。世の中に溢れる女性の写真には「胸」がつきものなのである。我々は、あまりにもそこから隔たっているように思えた。

 その問題はとても切実に、深刻に感じられた。

 そんな風に深遠な悩みに囚われる我々に対し、性の伝道師である、死体の写真集を持っていた先輩は、こんなことを言った。

 「いや、ねすぎ!男性の中には、小さいのが好きな人もいるんだよ!」

 「えええええええー!!!」

 「そんなことってあり得るんだ!!!」

なんというか、ずっと天動説を信じていたのに、いや実は地球が回っているんだよ!?と初めて聞いた人がびっくりした、というようなレベルの驚きだった。

「だから・・・ねすぎたちは、そういうのが好みの人と付き合えばいいんだよ!」

それを語る、伝道師であった彼女の口元は、ちょっと無理して、引きつっているような半笑いの感もあったが、なるほど、と私は妙な感動を覚えた。

そういうのが好きな人もいるのか!

いるのかな!いや、いない??いる!?(反語)

あまり確信は持てなかったが、それまで信じていたものを根底から覆すような、人生を変える言葉であったのは確かであった。

以上です。



 

 

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