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恥ずかしい 写真を撒くぞと 脅されて 〜地獄のピアノ発表会(5)〜

 母親が選んだ、時代に合わない頓珍漢なドレスを着て無理矢理ピアノの発表会に出場させられた後、そのあまりにも本気(ガチ)かつオールドスタイルのテカテカしたドレスが、同級生であった黒沢さん(仮名)からのいじりのネタになってしまった記憶の続きである。出たくもないピアノの発表会に出させられた挙句、自分の趣味とは程遠い、ダサすぎるドレスを着させられ、それを我慢してつつがなくパッとしない曲の演奏を行ったというのに、地獄はまだ続くのであった。♪ヘル(地獄=英語でhell)は続く〜よ!ど〜こま〜でも!ポッポ〜♪

 自分の地方都市での悪夢のような記憶を語る上で、絶対に欠かすことのできない、鳥居さん(仮名)という女性がいた。強烈なピン芸人として、一時期圧倒的な存在感を放っていた女性の芸人さんと苗字が同じであることは偶然である。

 鳥居さんは、団地には住んでいなかったのだが、帰り道の方角が一緒だったため、ある日から、一緒に帰ることになった。それまで、私は同じ団地に住んでいた黒沢さん(仮名)と、大島さん(仮名)と3人で楽しく下校していた。黒沢さんは、時々猛烈に意地悪な目をして私の母のヤバさについて言及してくることはあったが、気が合う仲の良い友達であった。黒沢さんと、学校からの帰り道に一緒にたわいもない雑談をするのはとても楽しかった。最近読んだ「あさりちゃん」の話や、本当はペット禁止なのにこっそりと猫を飼っている黒沢さんが、愛猫の可愛さについて熱く熱く語る「猫ト--ク!」などで盛り上がることができたのだった。しかし、突然一緒に帰るメンバーに加入した、鳥居さんの存在によって、下校時間は楽しくなくなってしまった。

 まるで一緒にクラスにいるのではないかと思われるほどの情熱で、私の同級生の情報収集に余念がなかった母によれば、鳥居さんのお父さんは、トラック運転手だということだった。鳥居さんは、目がとても大きく、いつもポニーテール(!)で、なぜか小学校5年生の時点で、すでにしっかりと茶髪であった。足が早く、クラスの権力を持った男子と仲が良かった鳥居さんは、なんとなく同級生から恐れられていて、すでにヤンキーの風格をたたえていた。彼女は、彼女以上にヤンキーっぽかった阪神くん(仮名)と巨人くん(仮名)という、2人のイケメン男性を小学校5年生にして(!)手玉に取り、さらに、よくわからんが小学校のベランダで、嘘泣きをする(!)という高度な恋愛テクニックまでも身につけていた。嘘泣きかどうかは分からないけれど、どちらかを選べない、というような理由で泣いていたのだ。彼女が雑誌anan(今もあるのかね)などを読んで、「ここぞというときに嘘泣きをしろ!」という恋愛テクニック学んだとは思えない。ヤンキーの世界は美醜が非常に重要な意味合いを持つというイメージがあるが、鳥居さんは、かわいいと言われていて、恋愛においても強気であった。親がトラック運転手なら(偏見ではあるが)ヤンキー道、待ったなし、である。 

 そんな彼女が、席替えの結果、自分の席のすぐ隣にやってきてしまった。彼女は、勉強があまり得意でなかった。小5にしてヤンキーの風格をたたえていた彼女は時折、私に試験の答案を見せてくれと言ってくるのだった。小学校のテストとはいえ、試験の答案を見せるのは、心の底から嫌だった。鳥肌が立ち呼吸が浅くなり目の前がチカチカとするほどに、嫌だった。五臓六腑に染み渡る、嫌さであった。「ううむ…」と渋っている私に、鳥居さんは、こんな言葉を耳打ちしてきた。

「テスト、見せてくれないなら…ねすぎの、あのピアノ発表会のドレスの写真をクラスにばら撒くよ…。(ウィスパーボイス=囁き声)」

 それだけは勘弁して欲しかった。恥ずかしすぎる。恥ずかし過ぎて、海が割れる!山が、燃える!

 私は鳥居さんに、白昼堂々、試験時間中に、母親が選んだ頓珍漢なピアノの発表会のドレスをネタに、脅迫されたのだった。冷や汗が出て、恐怖のあまりアドレナリンが放出されるような経験であった。映画監督ジョシュア・オッペンハイマーによる、インドネシアの暗部を描いた世界のドキュメンタリー映画史に残るであろう名作「アクト・オブ・キリング」の中で、インドネシアのヤクザのような人々が、中華系の人々を堂々と恐喝するシーンがある。私はまさに映画「アクト・オブ・キリング」の中で、屋台の引き出しをさっと開けて、なけなしの売り上げから大量の現金をヤクザ的な人々に渡していた中華系の男性のように、鳥居さんに毎回試験の答案を見せざるを得なかった。

母親の絶望的な「センスのかたまり」が詰まった、時代錯誤なテカテカしたピアノ発表会のドレスに身を包んだ私の写真が、5年3組のクラスにばら撒かれるのだけは、どうしても、耐えられなかったのだった。

~地獄のピアノ発表会 次回堂々の完結!全米が驚いた!~




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