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もっと遠くへ #はじめて買ったCD

ねぇ  真昼の海に穴が空いた
僕らが通り抜けられそうな
僕は見た
目の前に漂う
塗りこめられた七つの海へ
飛び立つ further along

〜further along もっと遠くへ〜より

たぶんはじめて自分のお小遣いで買ったCDと言えば、「Spiral Life」のファーストアルバム"FURTHER ALONG”だ。
高校の友人がかしてくれて、何度も聞いて、返してからもまた借りて、
「いい加減返して」
と言われて、街に一軒しかないレコード屋で買った。
駅からの目抜き通りを数百メートルすぎた先には、一面の田園と連なる山並みがあるだけの小さな街。
映画館もなければマクドナルドもなかった。
僕の家は丘の上にあって、見下ろすとJRの線路が一本、山の間にカーブをかいて消えていった。
都会に憧れようにも都会はテレビの中のイメージでしかない。ただあの電車に乗ってゆけば海のある街へ行ける、という胸の高鳴り。
それなりに自由でそれなりに不自由な高校生時代。
足りないものは音楽が埋めてくれた。

これは、ブレイク前夜のアルバムに収録されてる”GARDEN"という曲。
轟音でギターが駆け上ってそこにボーカルがのるとき、フワッとする。とても好きな曲です。
今見ても、スパイラルライフは色あせない、というかずっと透明なまま疾走している。
スパイラルライフは車谷浩司(後のAIR)と石田小吉のユニット。ブレイク直前で解散してしまい、知る人ぞ知るバンドになってしまったけど。
初めて買った一枚のCDから、Spiral Lifeのファンになり解散までの3年(とその後も)、かたわらにいつも彼らの音楽があった。


地元での生活は、バンドや演劇などやりたいことはたくさんあったが、まるでままならなかった。
与えられたものを与えられるままこなすしかない日々。
気の合わない家族。ほぼほぼ興味のもてない学校生活。
友人たちは気心知れた幼なじみだったけどダサかった。
自分も例にもれずで、コンプレックのかたまり。
田舎がきらいだったわけじゃない。
何かをつかみたくて、その何かがわからない自分がつまらなかった。
“どこか”に自分を補完してくれる何かがあるはずだと思っていた。
閉塞感という言葉の使いどころがわからなかった。生まれた時から、それがあまりに日常で、当たり前で。
何かがあるはずの“どこか”は、その時は手の届かない彼方にあるはずの世界で。
“ここではないどこか”にある、実体のない憧れを繋ぎ合わせて音楽を聴いた。
スパイラルライフの曲は、“ここではないどこか”を見せてくれた。
      もっと遠くへ
      もっと遠くへ
丘から見下ろす線路みたいに、彼らのうたはどこか知らない遠くを指差した。何も遮るもののない空と繋がって、広がっていくイメージを曲の中に追いかけた。

そのどこか遠い場所へ行けば、自由になれる。

あの浮遊感、疾走感、繊細な歌詞、車谷くん高い声、小吉くんのハモり、全部がどうしようもなく好きで。
CDジャケットも、当時のアイドルのものとは比べようもなくシックだな、と思っていた。
今みてもいい感じだと思う。


卒業後、地元を出て劇団に入った。そこでの初舞台に使われたのが、スパイラルライフの"FURTHER ALONG”の曲だった。
たまたまだったけどすごく嬉しくて、想い続けた“ここではないどこか”と舞台が重なりあって、目の前に道が見えた気がした。
上演したのは演劇集団キャラメルボックスの「アローンアゲイン」という台本。
キャラメルボックスについて話すと、長くなるからしないけど、心躍るものが詰め込まれた劇団だった。そこに楽曲のタイアップをしたのがなんとスパイラルライフ!
キャラメルボックスの劇中ではいつも彼らの曲が使われた。好きなものと好きなものが重なった奇跡だった。

”20th Century flight“に合わせて踊ったダンスの振りは今でも覚えているし、主人公の最後のセリフも耳にこびりついている。

「一人で行けるさ。もっと遠くへ。」


忘れられない初舞台。
道しるべみたいに、何度も胸に刻んだ言葉。
      もっと遠くへ
知らない場所、知らないもの、それらは遠くにあって僕を呼んだ。
もっと遠くへ行けば、知らない自分に会える。
遠くへ行ける自分でありたい、と思っていた。
そうやって無軌道の加速装置で駆け抜けた劇団時代。
思ってなかったほど遠くに来た気がする。

それでも田舎のだだっ広い空と、炎天下で大道具を作ったあの場所の空は繋がってる。
この曲が懐かしいけど、自分の中でいつまでも古くならないのは、あれらの時間と今が繋がっているからだ。

ありがとうスパイラルライフ。車谷さん、小吉さん。いつまでも…




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