受け取らない秋

春夏秋冬というなら春に始まる。

投稿日だとすれば夏なのだが、僕の初恋は秋に始まる。もっと言えば秋に始まり秋に終わるのだが、そんな話をここに書いていこう。


とは言ってもやはり出会いは春。


小学校で仲良くしていた友人とは中学で別れたものの、徒歩1分でたどり着く彼の家へ行くことは容易で、その容易さが心理的にも僕たちを近い存在にしていた。


当時中学生の僕に携帯電話やスマートフォンなどという文明の利器は無かった。しかし憧れていたのだから、iPodという電話のできないスマートフォンのようなものを見つけてはすぐに飛びついた。


当時流行っていたオープンチャットのようなもので僕は友人と話し、またそのなかで彼の通う中学校の人とも何度か会話をし、彼を通じて話していた。いつしかそれなしでも話すほどに言葉を交わし、お互いにたわいの無い話や他人の色恋沙汰に花を咲かせ、それどころか誰が好きだ嫌いだと自らを話し始めた。


そうして仲良くなった1人の女の子がいた。僕はいつものようにチャットルームへ行き、彼女へと話しかけた。彼女は泣いていたのだ。理由は失恋だという。


以前から僕との会話に何度か登場した彼女が想いを寄せる男。彼女はその男に好きな人がいるだろうと断定し、カマをかけたのだという。

「好きな人いるでしょ」そう断定されれば「まぁ、いるけど」と弱々しく答える。もちろんそのあとは誰なのかと問い詰めるのだがうまく行くはずもなく、ただ「自分では無い」ということだけは確信できる。そういう会話をしたのだという。


僕にできることといえば慰めるというただそれだけで、話を聞いては「そのとおりだ」「君は間違っていない」「それは悲しいことだ」と彼女が口に出したことを少し大きな声で繰り返す僕はただの拡声器に過ぎなかった。


後に彼女が好きだったのは僕の友人であることなどがわかるのだが、そんなことは小さなことでこれをきっかけに僕と彼女はさらに仲睦まじくなる。


中学生という多感な男女がそこまで行ってしまえば後は交際関係に至るのは必然と言えよう。


かくして僕は彼女の付き合うことになるのだが、ここからの「彼女」はあなたが目を通した5秒前の文字の羅列に出てくる「彼女」とは違った意味を持つことになるので注意していただきたい。


彼女とは最終的に2年間付き合うこととなった。中学校が違うこともあってか3ヶ月ほども顔を合わせることがない期間があったりもしたが、細く長くという言葉通りだった。週に一度会えればいい方で、二度会えれば大喜びであったのだから、当然進展というものもなく、いわゆるカップルの進展度合いのABCDのようなものを僕は知らないのだが、手を繋ぐまで半年かかったことは今の僕にとっては良い思い出とも言える。


マガジン初稿にも書いてあるとおりこれは別れ話を書く場所であるからここからは下り坂の生活を綴っていこう。少し憐れみながらも失笑気味に呼んでくれればと思う。



別れる大きな理由となったのは男としての僕の不甲斐なさにあるといえる。


格好良く言い過ぎたかもしれない。

振られる理由として彼女に挙げられたのは「もっとイチャイチャしたかった」なのだから僕がどのように思われて振られたかはもう察しがついただろう。


別れる決定打となったのは僕の誕生日の話だ。この日の数日前に彼女と会ったのだが、彼女はどこか上の空で僕の話など全て聞き流していた。いや無視していたようにすら見えていた。僕はひどく腹が立った。腹が立ったのなら怒れば良い。そうでなくてもその思いを伝えれば良いのだが、まだ中学生で嫌味な性格をしていた僕は悪い意味で「目には目を、歯には歯を」と考えていた。

そんな前回から誕生日を迎え、せっかくの誕生日などという考えは僕にはなかった。その日は僕にとって報復の日である。

書きながらに思うが中学生の私は彼女に対して報復などと人の血が流れているのかと不安になっている。


もともと会う予定もなく、家に祖父母がきていたので夜は寿司だった。さらにケーキを買ってもらっていたので晩餐には大いに期待を寄せていた。

そんななか彼女から「今から少し会えないか」という連絡が来る。会えないこともないので「晩御飯は家族で寿司食べに行くのでそれまでなら」と返事をして会うことになった。


決まって会うときは近くの公園だった。僕からすれば近くなのだが、今思えば彼女の家はそれほど近いわけでもなく、その点でも僕の図々しさや気遣いのなさがあったのかもしれない。


そこでは先ほど書いた通りの報復の時間であった。


彼女の話すことにことごとく無下に返したり、もはや返事など返さなかったり消化試合のような閑散とした空気に僕がしていたことは間違いない。

そんな中で彼女は僕に誕生日プレゼントを準備していた。付き合っていてお互いの誕生日は2度も訪れていたにもかかわらず誕生日プレゼントというものは目新しく、お互い何かをあげるということがほとんどなかったのだから自分の誕生日という自覚はあったものの少し驚いた。



が、そんなそぶりを見せる僕ではなかった。

一度走り出した僕は止まることを知らず、プレゼントにも無感情に接し、死んだ心のなかで「ケーキを今食べろというのか、寿司を食べに行くといったではないか」と考えるばかりであった。



そうした挙句あろうことか僕はそのプレゼントを受け取ることなくその日を終えた。


「はい」と渡されれば受け取ったかもしれない。買ってきたんだと言って僕にケーキを見せた後、彼女は彼女の目の前にそれを置くだけだった。僕のリアクションがあまりに静かだったばっかりにあげようという気すらも削ぎ、渡そうともさせなかったのは僕の態度によるものに違いなかった。


そうして僕は彼女からの誕生日プレゼントを受け取ることなく、おそらく振られる前の最後のチャンスともいえる彼女の気持ちすらも受け取らなかった。


これからひと月したころ僕は振られる。


高校1年生の秋である。

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