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【シナリオ】のぞみ

シナリオセンター通信本科課題4「写真」

自称YouTuberの佳朗。廃墟ホテルに忍び込んだ動画がバズったと調子に乗っている佳朗の前に、ファンを名乗る美少女杏奈が現れる。二人でもう一度廃墟ホテルを探検することになるが…。

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<人物>
葛西佳朗(21) 大学4年生
佐伯杏奈(20) ガールズバー店員
須藤のぞみ(3) マミヤホテル経営者の娘
河本崇(21) 佳朗の友人
佐伯さつき(29) 杏奈の母

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〇旧マミヤホテル・廊下(夜)
廃墟。割れた窓。ボロボロの壁、天井。
ライトを手に歩く葛西佳朗(21)と河本崇(21)。
河本、佳朗にカメラを向ける。

佳朗「皆さんこんにちは。ヨシロウTVへようこそ。
   今日はちょっと廃墟探検していきたいと
   思いまーす。やべ~こえ~」

〇同・客室(夜)
裏返ったベッドマット。倒れた家具。
佳朗、床に落ちている置物に躓き、
舌打ちして蹴っ飛ばす。
カメラ回す河本。

〇同・経営者部屋・ダイニング(夜)
マンションの一室のような造り。
埃かぶったカウンターキッチン。
食卓。生活感溢れる物が散乱している。

佳朗「この部屋、何⁈ 家じゃん!」

壁にカレンダー。2005年6月。
床に落ちている催告書と連帯保証の督促状。

佳朗「連帯保証人になるとかバカくない?」

とへらへら笑う。呆れ顔の河本。

〇同・同・寝室(夜)
佳朗、散らばった洋服の上をずかずか歩き、
棚を開けようとする。開かない。

佳朗「だめだ。あ、こっちいけそう」

と引き出しを開ける。中に写真。
赤ちゃんを抱く佐伯さつき(29)。2001年8月の日付。
佳朗、写真を手に取り、河本を見る。
河本、渋々カメラを向ける。

河本「ちゃんとモザイク入れろよ?」
佳朗「任せろって。ヨシロウTVなめんな!」

と写真をベッドに放り投げる。

〇ふたば大学・学食
うんざり顔の河本とスマホを見ている佳朗。
自分の廃墟動画を再生中。
さつきの写真がそのままアップで映る。

佳朗「これは、俺、完全にバズってんなぁ!」
河本「不法侵入だぞ。モザイクかけてないし」
佳朗「2001年なんて時効だろ」
河本「就活あるし、もう手伝わないからな」

と立ち上がり行ってしまう。

佳朗「なんだよ」

学食内が一気にざわめく。
一同の視線の先に佐伯杏奈(20)。
K-POPアイドルのよう。
佳朗に向かって歩いてくる。

杏奈「あの、もしかしてヨシロウTVの…」
佳朗「ヨシロウTVへようこそ」
杏奈「やっぱり! 私、大好きなの!」

と佳朗の手を掴む。デレる佳朗。

杏奈「もしよかったらなんだけど…動画の撮影、
   お手伝いしちゃダメかな?」
佳朗「じゃ…じゃあ、まぁ、座って」

杏奈、佳朗の隣にピタッと座る。

佳朗「あのー…名前は?」
杏奈「杏奈」
佳朗「学部は?」
杏奈「法学部の予定。今お金貯めてるとこ」

と名刺を渡す。『ガールズバー』の文字。
『誕生日7月7日』とある。

佳朗「週末空いてる? 遊園地の企画とか…」

スマホ出す杏奈。佳朗の廃墟動画のサムネ。

杏奈「このマミヤホテル、もっとちゃんと
   探検してみるのはどう? 二人だけで」

と上目遣いで佳朗を見つめる。

佳朗「…それも悪くない…な…」

〇旧マミヤホテル・エントランス・前
立派な建物だが、壁は黒く汚れ、年月を感じる。
MAMIYAHOTELの文字。

佳朗「マミヤホテルってよくわかったね。
   俺今知ったわ」

杏奈、汚れたガラス扉を覗いている。

佳朗「入るのは従業員口からだよ」

うなずき、迷いなく歩き出す杏奈。

〇同・フロントロビー
ソファー等、ロビーの残骸の数々。
物珍し気に見て回る佳朗。
杏奈、カウンターに目を向ける。
埃まみれの折鶴。手に取る杏奈。

のぞみの声「キャハハハ」

杏奈、ハッと声の方を見る。
須藤のぞみ(3)が駆けていく。手に折鶴。
佳朗の脇を駆け抜けるのぞみ。

佳朗「杏奈ちゃん、カメラ、いい?」
杏奈「…あ、うん」

〇同・スイートルーム
佳朗にカメラを向ける杏奈。

佳朗「ここは最上階、スイートルームでーす」

洋風の家具。鏡台に並ぶ化粧品。
クローゼットに埃かぶったジャケット。

佳朗「セレブが愛人泊まらせてたりして!」

カメラをロッキングチェアに向ける杏奈。
のぞみが楽しそうに揺らしている。

杏奈「……」
佳朗「何で客の物がそのまま…杏奈ちゃん?」
杏奈「おじさんと…おばさんがいた…?」
佳朗「えっと…杏奈ちゃん、霊感ある感じ?」
杏奈「え? ないない! 次、行こっ」

出ていく杏奈。
佳朗、追おうとして、
棚の裏に落ちている絵本を拾う。
裏表紙に手書きで『のぞみ』の文字。
佳朗、スマホで写真を撮り、
絵本を投げ捨てようとして、棚の上に置く。

〇同・経営者部屋・ダイニング
杏奈、物が散乱したキッチンにカメラを向ける。
子供用の食器が落ちている。

杏奈「……」
佳朗「なんか書いてねぇかな」

杏奈、我に返り、カメラを佳朗に向ける。
壁のカレンダーをめくる佳朗。

佳朗「あ! ここ、のぞみちゃんチか!」

7月7日に『のぞみ誕生日会』の文字。
カメラ置き、カレンダーに近寄る杏奈。

佳朗「杏奈ちゃん?」

カレンダーをじっと見つめる杏奈。

さつきの声「のぞみ」
杏奈「…お母さん?」

と振り返ると、
のぞみが寝室に駆けていくのが見える。
追う杏奈。
佳朗、慌ててカメラ掴み、杏奈を追う。

〇同・同・寝室
ベッドの上の写真を拾う杏奈。
赤ちゃんを抱いているさつきの写真。

杏奈「……お母さん…」

追ってきた佳朗、棚を開けてみる。

佳朗「やっぱ開かないか」
杏奈「鍵…」

少し考え、枕元の引き出しを開く杏奈。
佳朗、杏奈にカメラを向ける。
お菓子の缶を出す杏奈。中に鍵。

杏奈「…隠した…私が…」

棚を開ける杏奈。
中にはたくさんのアルバム。
アルバムを開く杏奈。

杏奈「……」

ベッドに寝たさつきと生まれたての赤ちゃんの写真。
杏奈、ページをめくる。

杏奈「……」

さつきの他、父親や祖父母、
スイートルームのジャケットを着た男女や
制服を来たホテル従業員等に
囲まれた赤ちゃんの写真。
どの写真も赤ちゃんは笑顔の大人達に囲まれている。
佳朗、カメラを杏奈にズームする。
杏奈が泣いている。

杏奈「…私ね、戸籍がなかったの」
佳朗「……」
杏奈「10歳までお母さんと二人で暮らしてた。
   小学校も行ってなくて…
   お母さんは病院行かないまま死んじゃった」

カメラ越しに杏奈を見つめる佳朗。

杏奈「私、生まれてきちゃいけなかったん
   だろうなって、ずっと思ってたの」

杏奈、赤ちゃんを囲む家族写真を見て、

杏奈「よかった。みんな、笑ってる」

写真を優しく撫でる杏奈。

杏奈「ごめんね、忘れちゃってて…ごめんね」

カメラを下ろす佳朗。佳朗を見る杏奈。

杏奈「この動画、きっと話題になる」
佳朗「……」
杏奈「私が、のぞみだから」
佳朗「……」

〇カフェ
リクルートスーツの河本、
パソコンでヨシロウTVの動画を見ている。

〇パソコン画面
旧マミヤホテルのスイートルームの映像。
鏡台の化粧品。クローゼットのジャケット。
『のぞみ』と書かれた絵本。

佳朗の声「ここは廃墟ホテルです。
     経営者のSさんは、ホテルも潰れて、
     借金も抱えて、夜逃げ同然だったのかも
     しれません」

× × ×
経営者部屋の映像。
子供用の食器。カレンダーの『誕生日会』の文字。
モザイクがかかった写真の数々。

佳朗の声「でも、少なくとも、ここを出ていく
     その日までは、この部屋で幸せに
     暮らしていたと思います」

× × ×
経営者部屋のダイニングで
カメラに向かって話す佳朗の映像。

佳朗「それは、僕らと変わらない
   日常だったはずです。
   絵本の持ち主であるのぞみちゃんの幸せを、
   僕は祈りたいと思います」

〇ふたば大学・学食
佳朗、ぼーっと外を眺めて大あくび。
スマホが鳴る。河本からのメッセージ。
『動画いいじゃん』ニヤっと笑う佳朗。
ざわめく学食。杏奈が歩いてくる。

佳朗「クレームは一切受け付けません」
杏奈「遊園地の企画、まだ生きてる?」
佳朗「…週末、空いてる?」

〈終わり〉

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