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夜中詩

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こぼれ落ちるのをすくってゼラチンで固めたやつ
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2021年12月の記事一覧

おわる

おわる

いつの間にか眠っていたようで
舞台はもう終わりに近づいていた
オレンジを剥きましょうかと
青年の長い指がナイフを握る
金襴緞子に滴り落ちるもの
うつくしい調べはいつしかきいきいと悲鳴にも似て
すべてを仕組んだ少年は笑う
終わりはいつだって呆気ない
淋しいと声にすれば
あなたは傍にいるふりくらいしてくれる
双頭の猫が甘えてくる
腹を割かれた牛が預言する
虎たちはわたしを喰らおうと足音を消す
さあさあ

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創造

創造

砂に長い木の棒で輪を描く
中に星を描きこんで
記号をいくつか
そして呪文を唱える
きみが生まれる
生まれたばかりのきみは
ごじゃごじゃと意味の通らない言葉を吐く
わたしのエゴで生まれてしまったきみ
生贄の山羊
供物の葡萄、無花果、酒

きみが生まれたからわたしはもう孤独ではない
孤独になる権利を棄てた
きみをおぶって山を降りる
怪物にどよめく民衆

いつか慣れる
わたしもきみも
慣れることだけが止

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朝のうた

朝のうた

はやく起きてしまったので
ミルクをあたためて紅茶をいれる
おまえはまだ眠っている
空は薄い朱と灰がかった緑
眠たそうな星が天頂にいる
昨日は死にたいような気持ちに満たされていたが
今はそれもうやむやになっている
テレビをつける
誰かの家の知らない犬の動画
今日もなんとか乗り越えよう
あたたかい格好をして
甘いお菓子を買いにいこう
おはよう
おはよう
なにかに祈るような気持ちで

夜の獣のうた

夜の獣のうた

夜のオルガンが鳴っている
蕎麦をすする青年Sと
薄桃色の薔薇を握り潰す青年H
猥雑な喫茶のバックヤード、深夜

ふたりはよく似ていたが
似かよった部分がとても深かったので
誰も共通項を当てられなかった

青年Sは鬼の話をする
青年Hは大袈裟にわらう

おそらくこんな夜はもう来ないだろうと
予感するS

たぶんまたこうやってわらうだろうと
予言するH

プレイリストが明るい調子の暗い歌を流す
甘った

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箱庭住み

箱庭住み

四角い箱庭に
赤い屋根のおうち
プラスチックの黒猫
陶器のオウム
フェルトの妖精たち
寂しくないように配置して
わたしはひとり暮らしている

むかしはもっと広いところに
住んでいた気がするが
記憶が遠すぎてわからない

カウンセラー役のきみがやってきて
わたしの心を分析する

さびしくて
こわくて
かなしくて
おこっていて
だけどたのしく暮らしていますね

箱庭の中に小さな海をつくって
いつでもき

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