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おわる

いつの間にか眠っていたようで
舞台はもう終わりに近づいていた
オレンジを剥きましょうかと
青年の長い指がナイフを握る
金襴緞子に滴り落ちるもの
うつくしい調べはいつしかきいきいと悲鳴にも似て
すべてを仕組んだ少年は笑う
終わりはいつだって呆気ない
淋しいと声にすれば
あなたは傍にいるふりくらいしてくれる
双頭の猫が甘えてくる
腹を割かれた牛が預言する
虎たちはわたしを喰らおうと足音を消す
さあさあクライマックスですよ
青年の首筋から立ち上るシダーウッドの香
目をつぶる
いよいよ音楽は昂りはじめる
握っていたはずのあなたの手は
いつしか離れていて
おわる、おわる、おわる、おわる、
すべて、おわる

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