クリストフ・ルメール
(この記事は更新途中です。随時情報を追加・修正していきます)
敬愛するファッションデザイナー、クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)について調べたことや考えている事などをまとめる。なお、筆者の語学スキルの関係で、情報ソースは日仏英のものに今回は限定させていただいた。
僕と同じように彼について調べている方の参考にもなれば幸いである。
経歴
生年月日 1965年4月12日(現57歳)
出生地 Besançon(フランス東部)
国籍 フランス
文学でバカロレア取得
大学では法学部に進学(アトリエセーブル)
Isabel Marantと初のランウェイショーを開催
パリにかつて存在したナイトクラブLes Bains DouchesでDJを経験
Thierry Mugler、Yves Saint Laurent、Kleinのデザインスタジオで研修
Christian Lacroixでオートクチュール/プレタポルテのアシスタントを経て、
Patouやクチュリエでプレタポルテ(既製服)を担当
Ramosport、Dorothée Bisとのコラボを経験
1987年にギャラリーラファイエット財団賞受賞
アンダム賞受賞(1990年、1994年)ANDAM賞とは、インターナショナル・ウールマーク・プライズなどと並ぶ伝統ある若手デザイナー向けのコンテスト。第1回受賞者はマルタン・マルジェラである。
1990年にレディースのプレタポルテブラン「Christophe Lemaire」を創立(「Lacoste」就任後2000-2006年まで休止)
1993年にパリコレデビュー
1994年にメンズコレクションをスタート
2000年から10年間「Lacoste」のアーティスティック・ディレクター(2002年という記述もあり現在確認中)
2011年秋冬から2014年まで、前任のジャン・ポール・ゴルチエに続き「Hermès」のアーティスティック・ディレクターを担当
2006年、株式会社アバンと提携し、パートナーのサラ・リン・トランと新しく「LEMAIRE」を創立
2007年、パリに路面店「LEMAIRE Paris」をオープン
2016年より、「UNIQLO」とのコラボレーションを開始
「元エルメス」との枕詞が付く事が多いルメールだが、実際の彼は生粋のファッションデザイナーというよりはインテリアート学生に近い。
文学でバカロレア(高校卒業認定のようなもの)を取得後、アートスクールに進んだ彼はパリを賑わすディスコ「Les Bains Douches」で音楽活動も行う。
彼のコレクションは全体的なムードやプレゼンの仕方にも工夫がなされており、服飾一筋のデザイナー達とは若干風合いが異なる。エリートから美術史を専攻しカメラマンを副業とするエディ・スリマン、インテリアや建築の世界からファッションに飛び込んできたラフ・シモンズやヴァージル・アブローに近いと言って差し支えないだろう。
とはいえ、Mugler以降のキャリアを見れば、名だたるファッションブランドを渡り歩いてきており、ファッションデザイナーとして華々しいキャリアであることは間違いない。
デザイン哲学
日本(を含むアジア)からの影響
ルメールは日本に傾倒したデザイナーであることを自身の言葉で認めている。文学青年でもあったルメールは、三島由紀夫や谷崎潤一郎まで読んだという。日本の魅力についてルメールは、
と述べている。ルメールにとっては、日本は「洗練」なのだとよく伝わってくる。
現在「LEMAIRE」の路面店はデザインスタジオがあるパリ・マレ地区の2店舗(その内メインの店舗は3月にRue PoitouからRue Elzévirに移転)に加え、東京にあるSKWAT青山店の世界3店舗のみである。同氏の日本愛が感じられ、筆者としては嬉しく思う。
実際に、「LEMAIRE」では着物風のダブルジャケットや、日本製デニムを使用したカプセルコレクション、日本の小学生が使うランドセルをモチーフとしたレザーグッズを制作している。
また、日本以外のアジアや北アフリカ等からの影響も見て取れる。顕著なのはシグネチャーとなった「カンフーシューズ」であり、名の通り中国武術のカンフーで使用されるスリッポンをモチーフにしたレザーシューズである。
他にも、シャツやブラウスのボタンホールをボディの側面に付けられたボタンに通すことで捻りを加える「ツイステッド」シリーズは着物的とも中国的とも言える。筆者は民族衣装の専門家ではないためここでは断言を避けるが、アジア的感性の反映されたシリーズであると言えるだろう。
「所作(un geste)」への着目
ルメールの関心は常に「所作」にある。
ストリートウェア・ワークウェアのエッセンス、制服への執着
ルメールの洋服にはストリートウェア・ワークウェアのディテールがしばしば引用される。
また、制服的なブレザーも彼の特徴的なデザインである。日本の男子高校生の学ランを考えてみてほしい。あの、ハイネックのスタンドカラーのブレザーを第一ボタンまで止めてタイトに着る、というのがまさにルメールの十八番のスタイルなのである。
スタイルを持つということ(avoir du style)
ルメールの洋服は、着る人にとって「良き友達」となることを目指して仕立てられている。インタビューの中で、ルメールはこのように述べる。
エッセンシャルなワードローブで、時間がない朝にパッと選んで身につけると見た目もスタイリッシュに決まる…ルメールの洋服にはそういった魅力がある。目を瞑ってクローゼットから服を選んでコーディネートしても格好良い。それくらいの「信頼のおけるパートナー」がルメールの作る洋服である。
このことは、彼が定義する「スタイルを持つこと」の実現要件でもある。
彼にとって重要なのは「一貫性」なのだ。「一貫性」が自分の「語彙」となり、それをはっきりと持つことがその人の「スタイル」になるという考え方をしている。
サステナビリティ
「デザイナーとしての私にとっての一番嬉しい瞬間というのは、6年前に私が作った洋服を誰かがまだ持っていて、日常的に着用している、というようなときなのです。」ルメールはそう語る。
ルメールのサステナビリティに対する答えは、「エッセンシャル」で「最高品質」の洋服を作ることで、その洋服が人々のクローゼットの中で何年も現役として活躍し、経年変化を重ねていく助けをするということだ。
ルメールの洋服はタイムレスである。
各ブランドでの活動
Christophe Lemaire
TBA
Lacoste
Christophe Lemaireは2000年から2010年までLacosteのクリエイティブディレクターを務めた。Lacoste時代の彼のデザインは、以下の特徴があります。
ミニマリズム: Lemaireはシンプルで洗練されたデザインを好み、無駄を省いたミニマリストなスタイルを提案しました。彼のデザインは、機能的で実用性を重視していました。
スポーツウェアのアップデート: LemaireはLacosteのアイコニックなポロシャツを現代的にアップデートし、新たな色やパターン、素材を取り入れました。また、その他のスポーツウェアも同様に進化させ、ブランドのイメージをよりファッションフォワードなものへと変えました。
ユニセックスデザイン: 彼はジェンダーニュートラルなデザインを取り入れ、男性と女性の両方に対応したコレクションを提案しました。これにより、Lacosteは幅広いターゲット層にアピールすることができました。
エレガントなカジュアルウェア: Lemaireはカジュアルウェアにエレガントさを取り入れ、リラックスしたスタイルに上品さをプラスしました。これにより、Lacosteはスポーツウェアだけでなく、日常のファッションにも適したブランドへと変化しました。
コラボレーション: Lemaireは異なるブランドやデザイナーとのコラボレーションを積極的に行い、Lacosteの視野を広げることに貢献しました。例えば、彼は2007年にはジャマイカの音楽家であるデリック・ハリオットとコラボレーションし、レゲエカルチャーにインスパイアされたポロシャツをデザインしました。
以上の特徴を通して、Christophe LemaireはLacosteブランドのイメージを刷新し、現代的で洗練されたスタイルを確立しました。
Hermès
ルメールは2010年から2014年までエルメスのウィメンズウェアのクリエイティブディレクターを務めた。
「エルメスでの仕事は、それぞれのチーム(métier)が独立しているので、オーガニックでファミリービジネスのような感じだ」「他のビッグブランドでは、自分は良いデザイナーにはならないだろう」と当時のルメールは話している。
ルメールによるエルメスは、「ミニマル」「スポーティ」といった表現で語られることが多い。
ミニマリズムと洗練: エルメスでのLemaireのデザインは、シンプルで洗練されたものであり、そのミニマリズムが高く評価されました。彼のデザインは、過剰な装飾を排除し、素材やシルエットに焦点を当てていました。
上質な素材: エルメスは素材にこだわりがあり、Lemaireもその伝統を受け継ぎ、高品質の素材を使用してデザインを行いました。カシミアやシルク、レザーなどの豪華な素材が特徴的で、耐久性と品質に優れていることが評価されました。
エレガントなシルエット: 彼のデザインは、エレガントで洗練されたシルエットが特徴的です。ウエストを強調したデザインや、ゆったりとしたデザインが多く見られました。そのシルエットは、モダンでありながら上品さを保ち、多くの人々に支持されました。
機能性と実用性: Lemaireは、ファッション性だけでなく、機能性と実用性も重視しました。彼のデザインは、着心地が良く、動きやすいものが多く、日常生活で活用しやすいものでした。
時代を超越したデザイン: エルメス時代のLemaireのデザインは、トレンドに左右されない普遍的なスタイルが評価されました。彼のコレクションは、長く愛用できるデザインであり、高い評価を受けていました。
総じて、Christophe Lemaireはエルメスでクリエイティブディレクターとして成功を収め、そのミニマリズムと上質な素材を活かしたデザインが高く評価されました。彼はエルメスの豪華でエレガントなイメージを維持しつつ、モダンで洗練されたスタイルを提案し、ブランドの魅力を一層引き立てました。
UNIQLO × LEMAIRE, UNIQLO U
ルメールはユニクロの「Lifewear」というコンセプトに共感し、ユニクロとのコラボを行っている。
LEMAIRE
LEMAIREになってからは、ルメールはパートナーのサラ・リン・トランやチームとの協働体制での服作りをより意識していく。実際、ルメールは自身のディレクションのスタイルについて、ワンマン的なやり方から徐々にチームとの協働を身につけていくようになったと語っている。
形式上はルメールがメンズウェアの統括、サラ・リン・トランがウィメンズウェア統括となっているが、ユニセックスなアイテムも多い。
なお、LEMAIREは現在でもコレクションを発表し続けている。そこでこのnoteでは、現在LEMAIREのアイテムとして「定番化」したとも言える、ブランドの「語彙」とも言えるアイテムを紹介する。
クロワッサンバッグ
名前の通りクロワッサンの形をしたショルダーバッグ。柔らかいナパレザーや型押しのレザーで作られており、サイズはスモール・ミディアム・ラージの3サイズ展開。
ジップ側のカーブが自然と身体の曲線に沿うようなデザインで、また、ストラップ部分も柔らかく幅のある作りで身につけた時に身体をふわりと包んでくれるような優しさがある。
カンフーシューズ
中国のカンフーで使われるようなスリップオンをデザインのモチーフにしたレザーシューズ。履き口は広めであり、リラックスして着用できる。またスッキリした履き口のため、足首を隠す/出すスタイリングの双方で洗練された雰囲気を出せる万能さももつ。
最近のモデルはクレープソールを採用している場合が多く、レザーシューズといってもソールはしなりがあって柔らかな履き心地。
ツイステッドベルテッドジーンズ
こちらも定番のジーンズ。腰回りから脚の内側へと若干ひねられたカッティングはO脚型のカーブをもたらす。このシェイプについてルメールは、どんなトップスの形にも合う美しいシェイプだと語っている。
ウエスト部には同素材の調節可能なベルトがついており、自身の体型の変化にも対応できるような作りになっている。長く愛用できるようにという愛のあるデザインである。
なお、シーズン毎にレングスに若干の違いがある。直近のモデルはロールアップする余裕が少しあるくらいの眺めの設計だが、数年前に戻ると元からクロップド丈になっているものもある。
ワークシャツ
ルメールは、とにかくワークシャツが大好きなデザイナーだと思われる。あるいはシャツを定番のワードローブとして出すことに加え、ポケットをつけることが大好きである、とも解釈できる。
とにかく胸元に2つの大きなポケットがついたワークシャツを世に送り出し続けている。
参考文献
Wikipédia - Christophe Lemaire (styliste) https://fr.wikipedia.org/wiki/Christophe_Lemaire_(styliste)#R%C3%A9f%C3%A9rences
digital-zasshi https://www.digital-zasshi.jp/apparel-dictionary/andam-fashion-award/
Libération - Interview Christophe Lemaire, l'homme discret d'Hermès https://www.liberation.fr/mode/2011/04/02/christophe-lemaire-l-homme-discret-d-hermes_724320/
UNIQLO IT - LifeWear: Made for All — Christophe Lemaire Interview https://www.youtube.com/watch?v=cnUj5MIAAEg&ab_channel=UniqloFrance
iFASHION周末画报 - INTERVIEW : "Be Your Clothes Friends" - Christophe Lemaire https://youtu.be/pOGfEh1V5Lg
エルメスの魅力をブランド コンシェルが徹底調査 - クリストフ・ルメール、自身のブランドとエルメスについて https://brand-concier.com/hermes-kaitori/designer/christophelemaire/
HOUYHNHNM - ルメールの二人が迫る、服づくりの核心。https://www.houyhnhnm.jp/feature/308386/
the fashion post - 恋や料理、読書のための余裕が生まれる服を作る。ルメールのふたりが考えるファッションの役割 https://fashionpost.jp/portraits/242297
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