ほうれい線を愛したい。
本来は悪い意味じゃないはずなのに、忌み嫌われている言葉がある。
そのなかのひとつを、わたしは毎朝鏡を見る度に思い出す。
ほうれい線、だ。
頬をこめかみに引き上げればマイナス10歳。
その存在を一瞬でも消して、こちらこそが本来の私の顔であると、こっそり確認しているのは、わたしだけではない(だろう)。
でも、このほうれい線の「ほうれい」って、音の響きからして邪悪な厄介者とは思えない。
Wikipediaで調べてみるとほら、
ごらん、「法令」「豊麗線」「豊齢線」とな!
法令は法律という意味だから別としても、
豊かにして麗しい、あるいは豊かに齢を重ねた証とも読める、おめでたい感じが当てられている。
しかも、注目すべきは漢字表記だけではない。
加齢によって目立つだけで、ほうれい線はしわではないのだ。
これは、青春時代から既にほうれい線があった身としては、街角に掲示したいくらいの事実である。
60代でもほうれい線がほとん目立たない人も多い。たぶん、ほうれい線は骨格上の顔の見え方にすぎないと思われる。
それなのに加齢のシンボルのように宣伝されているし、実際そう感じてしまう。
漫画の主人公の顔にこの線一本入れると母親になる。左右に入れれば祖母だ。
10歳どころではない、1本で20年分の年齢の重みがある。
ああ、ほうれい線。
しわでもないし、漢字にすればこんなにも美しいなら、もうちょっと愛してもらえてもいいのになあ〜。
自分の書く文章をきっかけに、あらゆる物や事と交換できる道具が動くのって、なんでこんなに感動するのだろう。その数字より、そのこと自体に、心が震えます。