老害

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が、JOC臨時評議員会にて「女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困る」、「女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります」と発言し、女性蔑視だとして絶賛大炎上中だ。その後の会見においても、記者の質問に対し苛立ちを見せ、質問を遮るなどの態度も相まって、ネット上では「老害」などと揶揄されている。

この発言については、根も葉もない偏見であり、あまりにも軽率であったことは自明だ。批判の声が殺到するのは当然であろう。

この件を受け、森会長は辞任の意向を表明した。後任には川淵三郎さん(84)を充てる方向で調整が進められてるようだ。ネット上では、川淵さんを差別主義者や体罰容認論者として批判する声が上がっている。私の勉強不足で川淵さんの過去の発言などはよく知らないため、その辺は好きに中傷してくださいという感じだ。だが、気になるのは年齢を巡る批判。83歳の森さんから、84歳の川淵さんに交代することに対し、「組織委員会は、何が問題なのか分かっていない」との批判がある。

果たして、「年齢」が問題だったのか。たしかに、高齢者ばかりが組織のトップに就くというのは課題なのかもしれない。だが、それはまた別の問題で、今回の件は森会長の発言、ひいては前時代的な価値観に問題があったのだ。森さんの女性蔑視的なスタンスを批判するように、川淵さんの差別主義者的な発言や体罰容認論者的な発言を批判するのは頷ける。しかし、「高齢男性は無能」という言説は、「女性の話が長い」と同じレベルの偏見ではないだろうか。

森さんの「女性の話が長い」という発言は全く根拠のない偏見であるため論外なのだが、例えば誰かが「女性は頭が悪い」という発言をしたとする。恐らく、批判が殺到し大炎上となるだろう。だが、事実として、女性の大学進学率や大学院進学率は、男性のそれと比較して低いというデータがあり、女性の学歴が低い傾向にあるのは現実としてある。「学歴が低い=頭が悪い」と決めつけるのはナンセンスだが、「女性は頭が悪い」は正しいと言えば正しい。しかしこれは、社会に「女性は将来結婚して子供を産み育てるものだ」という規範が存在し、親や周囲の雰囲気により、女性は学業にこだわらなくなる。男女の教育格差は、女性が勉強しないのが悪いのではなく、ジェンダー規範がそうさせている。言わば女性は被害者なのだ。

他方で、誰かが「高齢者は価値観が古い」という発言をしたとする。こちらは、多分あまり炎上しない。高齢者ほど価値観が古いという傾向にあるのは恐らく事実である。しかしこれも、戦前・戦後間もない頃の教育によるものであり、当時の価値観をすり込まされた被害者であるとも言える。

今の時代、女性差別は許されなくなってきた。だが、未だに年齢差別は許されている。これこそ「古い価値観」だと私は思ってしまう。アメリカやカナダ、ヨーロッパは年齢差別を禁止する法律が施行されているらしい。海外の例を出して「これだから日本は」と言うのは本来嫌いだが、ジェンダーギャップが海外のそれより大きいことと同様に、年齢差別においても日本は遅れをとっているという現実は受け止めるべきかもしれない。

高齢者を一括りに「老害」と言って切り捨てるのではなく、どのようにして高齢者の価値観をアップデートさせるか議論すべきなのではないか。「老害が~」だとか、逆に「最近の若者は~」などという対立が今後の社会に何か良い影響を与えるとは思えない。当然、誰だって自分の属性の味方をしたくなる。でも、それで盲目的になってしまうのは分断に繋がるだけだ。今現在、高齢者を一括りに「老害」と揶揄している人は、自分が属している「若者」というカテゴリーの味方をしているだけではないのか。果たして、自分が高齢者になったときに、「我々は高齢者だから老害」と言えるのだろうか。そのときも結局、自分の属性の味方をして「最近の若者は~」と言って、若者から老害と揶揄される立場になっているのではないだろうか。

別に「老害」という言葉が嫌いなのではない。クソアマやクソ野郎がいるように、老害もいる。今後もカスみたいな老人がいたら「老害!!」と言って叩きたいと思う。私からしたら、森さんは確かに老害だ。でもこれは、森さんという、人間性に問題アリの人が偶然高齢者だったから、仕方なくカテゴリーに当てはめて面白おかしく言っているだけで、「高齢者=老害」だとは思っていない。川淵さんも過去の発言からして、もしかしたら老害なのかもしれないが、年齢だけを見て「老害」と決めつけるのは良くないよねというお話。

ここからは余談。この前、伊集院光がラジオ番組で「張本勲は上の言うことを聞かずに独自で練習し、プロ野球のレジェンドまで登りつめた。そういう性格上、今では老害と揶揄される感じになってしまった。その点で、ダルビッシュも同じで、ダルビッシュも老害になる番が回ってくる」という趣旨のことを言っていた。ラジオの発言を要約して文字にするのは好きじゃないので、本来は避けたいが、「なるほどね」と思ったのでこっそり載せた。いつの時代も、社会を変革させるのは「言うことを聞かない厄介者」なのかもしれない。

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