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【イベントレポート】Hondaエンジニアと語る 未来の二輪技術開発 ~ライダーの自由と安全を保証するための技術とは~

2022年2月25日(金)、Neoriders Projectは、本田技研工業株式会社の現役エンジニアをお迎えし、オンラインイベント「Hondaエンジニアと語る 未来の二輪技術開発 〜気持ち良くかつ安心してバイクに乗るために〜」を開催しました。理系・自動車工学に興味のある学生を始めとして約20名が集まり、盛況のうちに終了しました。

Neoriders Projectではこれまで、様々な発信活動やコンテンツ制作、イベント開催を通じてバイクの魅力をお伝えしてきました。今回は、専門家の力をお借りし、新たな試みとして科学・工学的な視点から説明することで、「バイクの面白さ」をお伝えすることを試みました。

本記事では、イベントに参加できなかった皆さんにも自動二輪車の最新技術について知っていただく機会を設けるため、登壇者らが語った内容を抜粋してお伝えします。

イベント当日には公式Twitterよりイベント実況を行いました。記事には記載しきれなかった内容も投稿しているため、記事と同時にチェックしてみてください!

登壇者紹介

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自動二輪エンジニア

小河原 充史様(おがはら あつし)
本田技研工業株式会社
二輪事業本部ものづくりセンター
コンポーネント開発部
制御システム開発課

東京大学大学院を卒業後、2013年にバイクに関わる仕事がしたいと思い入社。一貫して制御システム開発に携わる。CBR1000RR(ホンダ)というスーパースポーツバイクの開発や、CRF1100L(ホンダ)というオンロード(舗装路)もオフロード(山道)も走行可能なモデルの開発を行ってきた。現在は、未来を見据えた技術開発を行う。学生時代はV-ツインマグナ(ホンダ)に、現在はセロー(ヤマハ)に乗ってバイクライフを楽しんでいる。

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司会

ペンギンライダー
東京大学4年
自動車&バイク大好き大学生!愛車はSwish。
Twitter

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学生ライダー代表

那月
早稲田大学4年
バイク1年目の初心者ライダー!愛車はSwish。
Twitter

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学生ライダー代表

Matias
横浜国立大学3年
セローを愛するオフロード好き大学生です!
Twitter

本イベントの目的

ペンギンライダー:本イベントでは、バイクに搭載されている技術及び技術開発について学びます。学生及び技術者の積極的な交流も意識しているので、是非盛り上がっていきましょう!

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HONDA小河原様:今回は貴重な機会をいただけて大変うれしく思います。少し難しい、技術的な話もありますが是非聞いていただけると幸いです。

講演を聞いていただく皆さんに、達成していただきたいことを書きました。まず、普段バイクに乗られているライダーさんには、普段とは違う視点からバイクに触れてもらい、ライディングに活かしてほしいと思います。まだ一度もバイクに乗ったことがない皆さんには、少しでもいいのでバイクに興味を持ってもらいたいと思っています。

バイクは「怖いもの」「良くわからない」という不安感があるかもしれませんが、それを少しでも「安心して乗れそう」「自分でも乗れそう」と思っていただけたら幸いです。

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バイクは「キャンバースラスト」を利用して旋回する

HONDA小河原様:バイクの特徴を四輪と比較すると、まず四輪はハンドルを回して曲がります。二輪は低速では同様にハンドルを切って曲がりますが、高速ではほぼハンドルは切らずに傾けて曲がります

その旋回時に、四輪では体が外側に傾くのを感じられるように車体が外側に傾きます。対して、二輪は旋回時に内側に傾きます。

なぜバイクは傾いて旋回するかというと、いろいろな要因がありますが、一番大きな要因は二輪でバランスを取りながら走行していることが挙げられます。四輪は旋回中に遠心力が外向きにかかっても、タイヤで支えられますが、二輪は遠心力と釣り合うように(ライダー自身が)バランスを取って走る必要があります

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画像引用元:日本機械学会

バイクのタイヤは丸みを帯びていますよね。実は、車体が傾いた時に発生するキャンバースラストを増大させ、その力を有効活用するためにこのような形状をしています。

バイクが傾いて走行しているときに発生するタイヤ横方向の力のことを、「キャンバースラスト」といいます。バイクはこの力と、ハンドルが横に切れている分で作用するコーナリングフォースという力で旋回します。一定速度以上の領域(レースなど高速走行)では、キャンバースラストが曲がる力の大半を占めています。四輪は旋回中にハンドルを回して、前輪が進行方向に対して大きな角度をつけ、タイヤをねじりながら旋回します。

レースで活躍するトップライダーは、タイヤの摩擦力の限界領域を使って勝負しています。一方で、街乗りをする場合には安全のために、タイヤのグリップを失わないように、余裕を持ったブレーキングや車体の傾き(バンク角)を意識することが重要です

バイクの姿勢制御には、バンク状態の情報が使われている

HONDA小河原様:まずは、エンジントルクの制御を行っています。後輪の空転を防ぐため、バンク角が深いほど早いタイミングでエンジントルクを低減します。

また、ブレーキ圧の制御も行っています。タイヤロックや急な車体の起き上がりを抑制するため、バンク状態に応じて適切な制動力となるようブレーキ圧を調整します。

最後に、ステアリングダンパーの制御も行っています。路面のギャップを通過するなどして生じた外乱や振動を低減するため、車体姿勢に基づいてダンパーの減衰特性を制御します。

それでは、どのようにバンク状態を検出しているのでしょうか?ホンダが開発したASIMOというロボットの開発に用いた技術を応用しています。ASIMOにはどのような姿勢をしているか検出するシステムが搭載されており、それを世界最高峰のレース MotoGP のマシンに応用し、今ではその技術を量産車にフィードバックしています。簡単に説明すると、車両に搭載されたセンサ出力の角速度・加速度と、前・後輪速度の情報を用いることで車体の姿勢(バンク角)を演算しています。

ライダーによる操縦の違いが開発を難しく・楽しくする

HONDA小河原様:スーパースポーツバイクの重量は約200kgですが、人間の体重を75kgと仮定すると、ライダーの体重が全体の25%を占めています。トップライダーは、旋回前に足を放り出す姿勢をとります。諸説ありますが、ブレーキ時に足を出すことで重心が下がり、安定したコーナリングが出来ると言われています。

ライダーの操縦方法は、体格や走行シチュエーションに応じて様々に変わります。上手なライダーとそうでないライダーで、コーナー旋回中のフロントタイヤ荷重に違いがあると言われています。上手いライダーは、加速区間でフロントタイヤの荷重が減少し、コーナー手前で減速する時にしっかりとフロントに荷重をかけられて、旋回中は荷重変化が少なく安定して走行できています。

他にも、ライダーによる操縦の違いとしてトップライダーの場合、早い速度で旋回するために下半身をバイクの内側にずらして、重心を内側にすることで、バイクを立たせて旋回する事が出来ます。これはツーリングで楽に乗りたい場合の重心位置や姿勢と全く違いますよね。

「ライダーがどういう状態で操縦するのか?」を考えることは、エンジニアにとって難しい部分であり、楽しい部分でもあります。

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画像引用元:本田技研工業株式会社

また最近では、空力パーツの適用なども行っています。バイクは常に、大きく姿勢が変化する乗り物です。将来的には、車両の挙動に応じて形状が変化する空力パーツがでてくるかもしれませんね。

停車・低速時にバイクが自立してバランスコントロールをするために

HONDA小河原様:バイクは高速域ではバランスを取って走りやすいですが、低速域では自分自身でバランスを取る必要があります。このように停車・低速時はバランスコントロールを取ることが難しいという課題があります。ホンダでは、このような課題に対して技術開発を行っています。

「ホンダ・ライディングアシスト」は、2017年に東京モーターショーで発表した技術で、バランス制御によってバイクの自立を実現する技術です。

走る速度に応じて「トレール」を変化させています。電気的にステアリング機構を可変するシステムを利用し、低速時にトレールをマイナス方向に変化させることで、バイクのバランスを取ることができます。

最近は更に進化したライディングアシストバイクを開発しています。是非情報をチェックしてみてください!

幅広い世代に受け入れられるバイクを作ることはこれからの課題

ペンギンライダー:小河原様、ありがとうございます。小河原様のバイクへの愛情を感じると共に、バイクという技術の結晶が日々どんどんと進化している様に新たな魅力を感じる事が出来ました。それでは、学生ライダーとの対談に移ります。学生ライダーのMatiasさんと那月さん、よろしくお願いします。

Matias、那月:よろしくお願いします!

那月:私は全然技術に詳しくないのですが、今日のお話はわかりやすく、面白かったです。

質問です。ライダーの平均年齢が50代と聞き、高齢化していると思いますが、それに応じて、開発するバイクに変化は起こっていますか?

HONDA小河原様:これは私の意見ですが、昔のバイクに対しての想いがすごく強くて、最新技術は不要と考えられている方がいたり、自身の技量だけで運転したいという方もいたりすると思います。幅広い世代や様々なライダーに受け入れられるバイクを作ることは難しいと思いながらも、開発に励んでいます。

那月:難しさが良く伝わりました。ありがとうございます!

制御技術によってオフロード走行を幅広い人に楽しんでもらう

Matias:質問させてください。私はオフロードが好きで、楽しんでいます。今のお話は、オンロード(舗装路)で走る際のバランス制御が主でしたが、オフロード(山道)に関しては制御の難しさなどありますか?

HONDA小河原様:オフロードは、バイクの制御を開発する上ですごく難しいです。ただでさえライダーがわからない動きをする中で、荒れた路面の上で、車体も揺れてきます。今では、トラクションコントロールをオフロード用に最適化して、誰が走ってもスリップが発生しにくいようにしていたり、サスペンションの制御を入れて車両姿勢を保つことをしています。

オフロードはバイクの技術が未開拓な領域が多く、私自身もそこは開発を進めていきたいと思っています。

Matias:自分でバイクのバランスをとるのもライダーにとっての楽しさだと思います。ライダーとして、本当に倒れないバイクが実現すると逆に乗っていて面白くないのではないかと思ってしまいます。安心・安全と、乗る面白さのバランスはどうやってとっているんですか?

HONDA小河原様:基本的にあまり転んで欲しくないという考えはありますが、オフロードだと転んで初めて乗り方を学習したり、限界を攻める楽しさもありますよね... 人に応じて切り替えられたりするといいのかなと思います。

オフロードだと臆して低速で走行してしまいがちですが、バイクはタイヤに荷重がかかると走行が安定するため、タイヤの駆動力をアシストするような技術が載せられると幅広い人に受け入れられると思いました。

Matias:ライダーをレベルによってアシストするような制御技術によって、楽しく、ケガもすることない走行が実現できるのですね。ありがとうございます!

ライディング上達のためにはハンドルからのフィードバックを感じたり、タイヤ荷重を意識したりするとよい

ペンギンライダー:スリップを避けるために実際にどのようなことをすればいいのか、どうしたら運転テクニックが磨かれるのか、科学的な視点があればお伺いしたいです。例えば、急ハンドル・急ブレーキはいけないと言われますが、他にもこういう挙動や予兆があるとスリップしてしまうと言うことがあれば教えていただきたいです。

HONDA小河原様:予兆に関しては、正直、乗る人の感性・感覚に依るところが大きいです。熟練ライダーは、感覚や経験でスリップを察することが多いです。ハンドルから伝わってくるフィードバックで察しています。そういうところが初心者に対する大きなハードルだと思っていて、将来的にはスリップにつながる予兆を定量的に表し、インフォメーションとして示せたらいいなと思っています。

ペンギンライダー:実際には、滑りそうになったらABSが作動し、それを超えたらそのシステムが作動するイメージですか?

HONDA小河原様:そうですね。あとは、これは乗る人が成長する必要はありますが、タイヤにしっかり荷重が乗ると安定して走行する事が出来ます。初心者はぎこちなく低速で旋回してしまいますが、その時にほんの少しだけアクセルを開けると、路面状態にも依りますが、普段よりも安定して走行する事が出来ると思います。(注記:単純に雑にアクセルを開けてしまうとスリップしてしまします。ほんの少しだけ、じわじわとスロットルを回すイメージで試しましょう)。そういうところを日々感じながら走っていただくと上達が早いと思います。

ペンギンライダー:ライダーとして、大事なことを聞かせていただきました。次にバイクに乗る時にはそれらの点について気を付けて走ってみようと思います!


以上でイベント開催レポートは終了です。本田技研工業株式会社様、ご協力いただきこの場をお借りしてお礼申し上げます。

参加学生からの質疑応答について興味のある方は、是非Neoriders Project公式Twitterをご確認ください。

本イベントは終了してしまいましたが、Neoriders Projectではこれからも工学の他にも様々な視点から、バイク情報を発信していきます。noteやSNSのフォローをお願いします!

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