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【推薦医学書】臨床に役立つ消化器病理 ギュッと1冊!まるごとBOOK -Web動画付-

過去最高とも言える消化器病理入門書であるが、消化器に限らず病理診断を学ぶ最初の1冊としてお勧めしたいので、その理由を添えてを紹介する。

本書の序文から引用して、内容を吟味したい(序文からの引用部はグレーの枠内)。この序文に本書の伝えたいことのエッセンスが詰まっているので、是非よくよく堪能いただき、実際に本書を手に取っていただけると幸いである。なお、太字部分は僕の主観で強調している部分である。

日常臨床に本当に必要な「消化器病理の知識と知恵」のすべてが1冊に

本書を手に取っていただいた皆さんの中には、すでに何冊かの関連する分野の病理学書をお持ちの方もいるでしょう。もしくは、これから消化器の専門家になっていくために、また後輩の指導に使える本はないかと適当な病理学書を探していた人もいると思います。あるいは、カンファレンスや研究会で病理のことがよく分からなかったり、検体処理のことを知りたくて、必要に迫られて手に取った人もいらっしゃるかも知れません。

そうした全ての方に、本書は大きな力になると信じています。

なぜなら、本書に書かれた「臨床に役立つ消化器病理」の内容は、単なる消化器病理学書ではなく、単なるアトラスでもなく、単なる検体処理マニュアルでもありません。本書は、これまでに出会ってきた、多くの前向きな臨床家たちとの対話が基になっており、彼ら/彼女らの顔を思い浮かべながら、より実践的で、臨床に役立つよう、それらのエッセンスをまるごと1冊にギュッとまとめたものだからです。

ポイント①:非病理医と病理医の間の病理診断に対する大きな認識の差を埋めてくれる

非病理医はしばしば、血液生化学検査と同じように、機械にかけたら結果が出てくるとか、CT のように機械を通せば所見がみえるといったように思っているのではないか、と感じてしまう。

これは病理側の教育にも問題があることも多い。せっかく病理に実習や研修に来ても、多くの場合は勉強用の標本を渡されるばかりで、教育の中に標本ができるまでの過程が欠落している。むしろ、病理医教育の中でもしばしばこの観点が欠落している。

できあがったプレパラート上の標本は、膨大なサイズの検体から切り取られたわずか面積 25×15 mm、厚さ 0.005 mm の世界であることを認識しておかなければならない。病理医はプレパラート上では検体のごくごく一部しかみていないのである。

もちろん実際は検体は3次元的構造であるし、病態は時間軸の加わった4次元的な性格を有しているし、さらに種々の治療修飾などが加わっている。その限られた世界=赤血球1個分(長径 0.007 ~ 0.008 mm)よりも薄っぺらい平面の世界から、マクロ所見や臨床像を総合して最終的な評価を行うのが病理医の仕事なのである。

本書では、この過程が実に有機的にコンパクトに1冊にまとめられていおり、特に第2章「病理診断の流れをつかむ!」で必要十分な内容を易しくかつ詳細に学ぶことができる。標本作製過程については豊富な Web 動画が参照できるようになっており、実際の行程を具体的にみることが可能である。そして、その行程1つ1つが最終的な病理診断に常に影響を及ぼし得ることを理解することができるだろう。


ポイント②:病理学の難解に思える事項を易しく解説してくれる

多くの病理医は職人芸を継承するかのごとく、この複雑な過程を各施設で先人の知恵を盗んだり教わったりしながら会得してきた。何年もかけて目の前の標本と背景の病態を照らし合わせて、診断の作法を身につけてきたのである。それを系統的に学べる書籍は少なかったし、あっても非病理医にはやや難解な内容であったと言わざるを得ない。

本書では、堅苦しい教科書で語られる本格的な病理所見用語を含めて、実際の臨床医・病理医の会話を擬似体験しながら易しくかつ本質的に学べるように工夫されている。

特に難しい病理学の教科書で他のたくさんの事項の中に埋もれて解説される病理用語について、実際に臨床医にとってエッセンスとなる特に重要な用語が抜粋されて第1章「病理のことばをつかむ!」で詳細に解説されている。

たとえば、脱灰脱脂包埋薄切戻し標本記述的診断グループ分類とグレード分類髄様と硬性化生変性多形性・単形性異型性脱分化・退形成急性炎症と慢性炎症肉芽組織と肉芽腫異形成と上皮内腫瘍性病変と上皮内癌デスモプラシアフロントなどである。これらの用語の意味・定義にピンときていなければ是非当該ページを読んでほしい。きっとクリアに理解が深まると思うし、その上で成書を読むと新たな発見がたくさん出てくるだろう。


ポイント③:病理診断に至るすべての過程が系統的に理解できる

第1章、第2章に続き、第3~5章では正常、代表的な病態、実際のカンファレンス例を通して、病理診断に至る過程が1つのフィロソフィーの元で系統的に理解できるようになっている。

病理標本がレンジでチンすれば出来上がりのような単純なものではなく、複雑な過程を経てようやく標本が完成することが理解できたら、ぜひ実際の標本作製現場に足を運んで技師さんの横について学んで欲しいと思う。

同じように、病理診断を1つ1つ順を追って疑似体験していただければと思う。本書では最後の最後、病理医が診断を発行して終わり、ではなく、臨床医とお互いにフィードバックするというところまでがワンセットになっている。この全過程を知っているかどうかで、病理標本に対する理解度はまったく異なることは間違いない。

現在、日本では人口の2分の1ががんを患い、3分の1ががんで亡くなっている。さらに病理診断の対象はがんだけではなく、種々の良性腫瘍、炎症など多岐に渡り、医療の世界で生きていく中で病理と全くの無関係に生きていくことは困難である。病理診断を元に治療方針を考える各科の臨床医病理診断を生業としようとする病理専攻医、また、医学生研修医臨床検査技師、様々な職種にとって、まさに「病理診断の入門書」の「決定版」と言える1冊である。もちろん中堅、ベテランの病理医にとっても新たに学ぶことがある1冊であると思う。

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著者について

著者の1人である福嶋敬宜先生は膵臓をはじめとした消化器病理で日本を牽引する病理医の1人であり、世界の腫瘍分類のスタンダードである WHO Classification of Tumours|Digestive System Tumours でも分担執筆を担っている。

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病理医という人種は医学の中でも変わり者、頑固者が多いとされ、ときに臨床に理解がないなどと言われ、コミュニケーションに難のあることも少なくなかったし、人格者であっても病理医不足のため目の前の業務に追われて臨床医や患者さんに思いを馳せる余裕もなかった

福嶋敬宜先生は、病理医の立場から臨床医、患者さんに寄り添い、臨床と病理のギャップを埋めて患者さんにより良い医療を提供するために精力的にお仕事をされてきた病理医の1人である。まさに僕が医学生の頃から目指してきた病理医像を体現している先生なのだ。他にも同じ志をもった病理医はもちろん個々の病院で見ればたくさんいるのだが、それを書籍として数多く出版し、世に普及しているという意味では随一の存在である。

また、今まで以上の臨床病理相関のフィロソフィーが本書で体現されている点について、もう1人の著者である池田恵理子先生が、臨床(消化器内科)と病理の両方の立場にたって色んな点に積極的に突っ込んでいるだろうことがありありと想像される。本書の「はじめに」の中で「池田の熱意に巻き込まれて(笑)」と記載されていることに、僕自身も良い意味で「(笑)」という気持ちになる。「病理は難しいし、病理医も難しい」という時代を越えて、臨床医と病理医が互いにより理解し、より良い協力関係を築いていくことで、もっともっと患者さんの役に立てる医療を提供できると思う。本書はそれが具現化したものであるようにも思えるのである。

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