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映画『破戒』 泣いたわけ

2023.11.27 『破壊』(前田和男監督)
 休日の朝一でダラダラしながら気楽に観始めたのだが、途中で一度再生を止めた。部落差別の苦しみからの与謝野晶子「君死にたもうことなかれ」朗読シーンの流れで、突然込み上げてきて、涙と嗚咽で観ていられなくなったからだ。こんなに差別や戦争の話を実感し、耐えられなくなってしまったのは、ロシア、ウクライナやイスラエル、パレスチナの戦争ニュースで心がズタズタになっているからだろう。そして、そうなりながらも自分は平気で平和な世界に戻り生きていることの後ろめたさ、このままで良いのかという不安、日本もそうなるかもしれないという恐ろしい予感があるからだろう。
 
 10代、映画『橋のない川』(今井正監督)や「チューリップのアップリケ」などの歌で部落差別のことを知って憤り、漫画では『はだしのゲン』アニメ『火垂るの墓』映画『ソフィーの選択』『プラトーン』『人間の条件』などで戦争の残酷さを知り心を潰した。しかしあんなに酷いモノを見せられても、その頃は、差別や戦争のショックだけで今回のように心から突き動かされる「絶対に戦争は嫌だ、何としても避けたい」という気持ちはまだ持ち合わせていなかったようだ。もう少し大人になり、梅原猛や井上ひさしらが「九条の会」を創設した時ですらも、何となく見ていただけだし、戦争は嫌だけども、もし誰かが攻めてきたら?自衛隊は軍隊じゃないのか?などの話を友人と語り合ったりなどしていた。今思えばまさに「戦争を知らない」若者が話しそうなことだ。

 現代はロボットだ、AIだ、ムーンショット計画だのと人間が進歩している、しようとしている、話ばかりだが、正直、戦争しているのを見るだけで、人間は100年、200年前に戻っていると感じる。映画のセリフのまま「部落差別が無くなってもその時は新しい差別が生まれ」ている。映画では「そんなに人間は愚かなのか」と言う問いかけがあり、それに対し「愚かではなく人間は弱いからだ」との答えがあったが、その答えに共感しつつも、なんとも悲しい台詞だった。そのままそれを受け入れたくない気持ちになり、弱く精神的に未熟な人間である私にもできることがあるはずだと信じたくなった。

 この映画は現代の若者にも分かるように優しい目線で作られた作品だと感じたが、島崎藤村の『破戒』の頃の時代や昔の映画を背後にピリピリ感じつつ、本当はもっと生々しいだろうな、泥臭いだろうな、と思いながら観たので少し俯瞰して鑑賞することになった。しかしそれ故にこんなに沁みた結果になった。差別や戦争に対しての自分の立場を揺るぎないものにした。戦争をしたくない理由を語った時「そんなものは二枚舌だ」「理想論だ」と言われ、黙り込んだ過去もあったが、二枚舌になろうが、理想論だろうが、戦争反対と言い続けると決心した。戦争反対、暴力反対。「戦前、とても戦争反対と言える空気ではなかった」と言う話を何度も聞いたことがあるが、そこには戻りたくない。「人を殺すくらいなら殺される方がまだマシだよ」と言ったあの少年の気持ちと生きるつもりである。


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