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GAFA解体で、失われる希望もある

グーグルが、競争を妨げることで、以下の問題が発生していると指摘されています。

・プライバシーやデータの保護など検索サービスの質の低下
・ユーザの選択肢の減少
・ネット広告事業での広告単価の高止まり

グーグルだけでなく、新興技術企業の強大な力が、社会に悪影響を与えだしていることが、次第に問題視されるようになっています。

現代の社会基盤として重要な役割を持つ、グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾン・ドット・コム(GAFA)の4社は、10年後には世界の総経済生産高の30%を握る可能性があると指摘されています。

すでに有している市場支配力は、豊富な資金によって実行された大量の買収に支えられており、過去10年間で数百社が買収されています。これらの買収は、競争上の脅威をやわらげ、企業の支配を維持および拡大することに作用していることが危惧されています。

そこで、米国では独占禁止法の執行を補完するための新たな提案が行われました。

・近い分野の事業を構造的に分割する
・企業買収の敷居を高める
・顧客に対して優位的な立場に基づく交渉力の乱用を禁じる
・サービスを利用する個人および企業を適正な手続きで保護するよう求める

これまで、米国の緩やかな規制のもとで著しい成長を遂げてきたニューエコノミーは、転換点を迎えています。

歴史は繰り返す

こういった規制の動きは、過去を振り返れば、特別なものではありません。

世界最大の通信企業のAT&Tやベライゾンは、もともとは1877年にグラハム・ベル氏が起業したベル電話会社で、民間企業でした。しかし、社会基盤を担う強大な企業は競争を妨げるとして、政府の統制下に置かれ、分割されました。

生活に必須の社会基盤が、少数企業に独占され、競争が消滅することで進化を止めることは、社会の全体最適の観点では合理性に欠くため、政府が調整を行うのは自然の流れです。

検索やSNS、オンラインショッピングは現代生活に深く浸透し、そのサービスを提供している企業は社会基盤を担っていると言えます。資本主義は、適切な競争によって支えられてきました。このまま、GAFAなどの少数企業による独占状態が続くことが予想されるため、規制の議論が始まっています。

アマゾンCEOは、人類を救おうとしている

私は、GAFAを一括りに語るべきではないと思っています。各社がそれぞれ担っている領域は異なりますし、競争や進歩に対する考え方も、一様ではありません。

一例として、アマゾンを取り上げて考えてみます。はたして、アマゾンのサービスは独占環境にあぐらをかいて、進歩を止めているのでしょうか。

米誌「アトランティック」の記者が、5ヵ月にわたってアマゾンの現役幹部や競合他社の従業員などに徹底取材した上で分析を行い、アマゾンの現状と今後の方向性を記しています。

驚異的なアマゾンの現状:
・米国のオンラインショッピングの約40%のシェアを握っている
・アマゾンで商品検索される回数はグーグル検索よりも多い
・広告事業の価値だけでIBM全体の時価総額と同等になっている
・アマゾンウェブサービスはクラウドコンピューティングの半分を担う
・米国の動画配信市場の3分の1を制している
・150人の経済学博士が所属し、米国のどの大学よりも経済学者を擁する
・CEOのジェフ・ベゾス氏は「ワシントン・ポスト」のオーナーでもある
発表されている計画:
・音声アシスタント「アレクサ」が服薬管理や血糖値の測定を行う
・オハイオ州シンシナティの郊外に約28万㎡の貨物用空港を建設する
・傘下のホールフーズとは別に新しい食料品チェーン店の展開を始める
・メジャーリーグベースボールの試合のストリーミング配信を始める
・3000基の人工衛星を打ち上げ、世界に高速インターネット接続を提供する
・住宅購入者と不動産会社をマッチングし新居にアマゾン機器一式を組込む

アマゾンは、資本主義の常識を覆している側面があります。経済学者フリードリヒ・ハイエク氏は、計画経済を徹底的に批判しました。市場そのものが奇跡であり、社会内に点在している知識を自然発生的かつ効率的に集約できるため、どんなに優れた官僚組織も勝てないと主張しました。

しかし、一つの組織に過ぎないアマゾンは、常時6億を超える商品を売りに出し、抱える販売業者の数は300万を超え、利用者の注文履歴をすべて把握し、消費者のニーズをデータ化し、今後の予測をも可能としています。一国を超える規模の経済を、効率的に動かしており、ここでは、ハイエク氏の主張も色褪せて見えます。

そんなアマゾンのCEO、ジェフ・ベゾス氏が最も恐れているのは「人類の進歩が止まること」だと指摘されています。今後数十年のうちに、エネルギー不足から世界経済が停滞するリスクへの対応を本気で目指し、宇宙事業に注力しています。

「地球を救うためにも、私たちは宇宙に行く必要があるのです。地球という物理的な制約から解き放たれてコロニーで暮らすようになれば、人類は未曾有の繁栄を享受するようになります。マウイ島での最高の一日が一年中楽しめます。雨もなく、嵐もない。地震もありません。太陽系内に人類が1兆人暮らせるようになれば、1000人のモーツァルトや1000人のアインシュタインが生まれます。驚異的な文明が築かれるでしょう。」

いつの日か、自分が思い描くユートピアを実現させようとしているのです。

アマゾンの新たな事業領域への容赦のない進撃や、仕入れ先に対する厳しい要求は、批判の対象となってきました。

しかし、強大な市場占有に基づいた優位な立場を活かし、顧客に対して劣悪なサービスを提供しているわけではありません。むしろ、世界最高水準のサービスを提供し、米国では自国の軍隊よりも一般消費者から信頼を獲得しています。

人類をユートピアに導くことを目指し、ハイエクの主張を覆す能力を持ち、常に進歩を追求している企業を、国家が解体し弱体化をさせることが、我々の未来にとって、果たして良いことなのかには疑問が残ります。

アマゾンを解体すべきかどうかは、人類の未来にとってどちらが有益なのか、これまでの常識にとらわれずに判断をするべきです。

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