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#6 アメリカにおける「グラフィックデザイン・独学」 その2

前回のデザイナー観察日記#5にて、デザイナー夫にインタビューを試みましたが、「デザイナー夫さんの生の声をまた聞かせてください」というコメントをいただきましたので、「グラフィックデザイン・独学」というテーマでインタビュー第2弾を企画し、さらに深く掘り下げてイロイロと聞いてみたいと思います。普段は私の (興味・愛情・そして)  観察対象である【デザイナー夫】に、今日もマイクを向けて直撃してみましょう!

「グラフィックデザイン・独学」 その1 振り返り

前回の記事で私【デザイナーの妻】は、英語で "Graphic Design"・"Self taught (独学)" を検索し、最も読まれている上位3記事を読み尽くしました。そして「独学でグラフィックデザイナーになるためにすべきこと」として3記事に挙げられている共通の項目を集計し、その結果についてデザイナー夫にインタビューしてみました。

デザイナー夫曰く、挙げられている項目にさらに補足するとしたら、『デザイナーとしての基礎体力をつけるために、「思考力」と「観察力」を身につける』と良いとのこと。そして、例えばデッサンの練習が良い方法だということ。これについては、この記事の後半で詳しく聞いてみたいと思います。

またリサーチを通して、アメリカにおいては、グラフィックデザインにかかわらず多くの職業のために学びの機会が多く開かれていることにも気づきました。それは、DIY文化の影響もあり、自分で何かを学びたいと思う人には、公平に「独学」のためのリソースが提供されているのではないかというデザイナー夫の意見でした。

今回のインタビューでは、まずグラフィックデザインという職業や「独学」についてよくある質問に、【デザイナー夫】に、現役グラフィックデザイナーとして答えてもらいましょう。後半は【デザイナー夫】自身がグラフィックデザイナーになった経緯を聞いてみたいと思います。それではスタート!デザ夫さん(ついにニックネーム!)こんにちは〜!

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そもそも、グラフィックデザイナーとはどんなお仕事?適性や才能について教えて!

【デザイナーの妻】:初歩的な質問だけど…そもそもグラフィックデザインとは、[デザイン]という枠の中でどのような分野のお仕事を指すの?

【デザ夫さん】:グラフィックデザインというのは、視覚的に意味を作ったり伝えたりするお仕事。ロゴのデザインや、レイアウトのデザインなどが最も一般的なグラフィックデザインのお仕事かな。グラフィックデザインというと「印刷」関連のデザインを指すと思われがちだけど、ウェブのデザインもグラフィックデザインの一部だと思っています。

【デザイナーの妻】:なるほど。たくさんあるのね👀じゃぁ、どのような働き方があるのかしら?(一般的な知見でも自身の体験からでも。)

【デザ夫さん】:広告代理店のような大きな企業や、ブランディング・エージェンシーなど専門性の高い中規模のデザイン事務所、さらにはフリーランスで個人としても働くことができます。加えてオンラインでサービスを提供している事業会社や、プロダクトを作っているメーカーなどで、インハウスのデザイナーとして仕事をするというオプションもあります。ちなみに僕は美大を卒業した後、ペンタグラムという中規模のデザイン事務所でデザイナーとして働き始めました。その後、さらに小さなデザイン事務所で、アートディレクターやクリエイティブディレクターをしていました。

【デザイナーの妻】:そうそう。ペンタグラムの話は聞いたことある。なるほど、色々な働き方があるんだね。さて、デザイナーになるというと、学校の美術の授業が得意だったかどうか話したりするけれど…ズバリ、グラフィックデザイナーは才能がないとなれない職業なの?

【デザ夫さん】:まず「才能」とは何か、ということを考えてみないといけないよね。「才能」というと、何か生まれ持った特別な感覚や意識で、努力では得ることのできない能力、というイメージがあるかもしれません。

【デザイナーの妻】:ある。私まさにそう思ってるかも。違うのかな👀

【デザ夫さん】:でも、時代性をつかむ感覚(パターン認識)にしても、美的な感覚(バランス感覚やリズム感覚)にしても、訓練で伸ばすことができる。例えば、文化や価値観に関する知識が増えればそれだけ意識が高まり、デザイナーに不可欠な観察力が強化されてゆきます。さらに、そうした才能は、あるなしの問題ではなく、どれぐらい研ぎ澄まされているかという、度合いのある能力です。

だから、「才能がないから自分には無理だ」と思うのではなく、「自分の持っている能力をどうやったら伸ばせるのか」というマインドにシフトすると良いかもしれませんね。実際、才能のない人はいません。だれでも、何かしらの優れた能力を持っているものです。

逆に「才能がなくてもデザイナーになれる」といった謳い文句には注意したほうが良いように思います。もちろん「だれも持っていないような特殊な能力は必要ない」という意味では正しいと思いますが、逆に可能性を閉ざしてしまっているようにも感じます。

僕は、時代性や美意識といった能力は、文化を扱うデザイナーにとっては不可欠だと思っています。どんな職業でもそうだと思いますが、ある程度の才能がなければ、良い仕事はできないでしょう。

【デザイナーの妻】:そうだよね。本当だね。どんな職業でも「自分の持っている能力をどうやったら伸ばせるのか」考えて、どれだけ研いでいくかによって可能性は変わるよね。ひと言で「才能がある・ない」と判断して職業を選ぶ基準にしてはいけないですね。これは深い。

じゃぁ、グラフィックデザイナーに向いている人ってどんな人か、「適性」はあると思う?

【デザ夫さん】:前の話とも少しつながるけど、才能は伸ばすことができるし、だれでもグラフィックデザイナーになれます。それは努力の問題であって、適正の問題ではない正直なところ、デザイナーとして働いている人も、自分がデザインに向いているとはあまり思っていないのではないかと思います。正直、僕も自分のデザインを見て「なんて自分は下手なんだろう、もっとうまくなりたい」と思いながらやっています。

しかし、あえて「適正」のようなものがあるとしたら、デザインが「好きか」どうかということはあるかもしれません。デザインに関心があったり、綺麗なものを見てうっとりすることがあるかどうか。(ただ、こうした興味や関心も伸ばすことができるんですけどね。)

【デザイナーの妻】:えぇ👀自分のデザインを見て、そんな風に感じることがあるのか。ちょっと意外です。でもそういう気持ちになればこそ、美意識や関心を伸ばす努力のモチベーションになるのかもね。
では次のカテゴリーに移りましょう。

グラフィックデザイナーになる: 「独学」について

【デザイナーの妻】:これまたすごく大きな質問だけど…これもズバリ!独学でグラフィックデザイナーになることは可能ですか?

【デザ夫さん】:可能です。というか、大抵の職業には、独学でなれるのではないでしょうか。営業の人も独学で営業を学んだ人が多いだろうし、経営者の多くはMBAを持っているわけではないですよね。もちろん、医師免許をとるとか、飛行機のパイロットになるとか、という場合は通学が要求されますが、デザイナーに通学が求められる資格は必要ありません。

【デザイナーの妻】:確かに。能力は訓練で伸ばすことができる、という先ほどの話と合致する。最初に紹介した通り、そのための実践編として前回のインタビューによると『グラフィックデザイナーとしての基礎体力をつけるには、「思考力」と「観察力」を身につけられると良い。例えばデッサンの練習は、とても役に立つ』ということでしたが、「思考力」と「観察力」が大切なのはなぜ?

【デザ夫さん】:デザインとは、制作物(結果)を指す名詞だけでなく、プロセス全体を指す動詞です。最終的に形になるものは、デザイナーが必死に考え抜いた思考の結果です。どれだけ深い思考ができるかが、作品の良し悪しを決めるわけですね。

美味しいものを知らない人が、良いシェフになることはできないように、物事の本当の姿や本質を見ることのできない人は、良いデザインを作ることはできないでしょう。確かな美意識に基づいた審美眼を持っていて初めて、素晴らしいものを作れるのだと思います。

【デザイナーの妻】:その通りです…。デッサンの練習は、まさにその「観察力」を養うことになるか。なるほどです。深いなぁ。

では、独学の反対側にある選択肢、学校について質問。学校に通って学ぶメリットは何でしょう?

【デザ夫さん】:学校に通うメリットはたくさんあります。まず(1)体系的なデザインを計画的に学ぶことができる。(2)やる気を引き出す仕組みがある。(3)切磋琢磨できるクラスメートがいる。(4)良いところを見つけ伸ばしてくれる先生がいる。などなど、本当にたくさんです。

【デザイナーの妻】:学校に通うにしても独学にしても、いずれにしても挑戦となること、つまり乗り越えなければいけない共通の壁みたいなものは?

【デザ夫さん】:そうですね。自分の能力のなさを痛感し、良いデザインを作るための途方もない道のりを前にして、絶望せずに、一歩一歩前に進もうと思えるかどうか、ということかな。逆に言うと、それぐらいデザインが好きかどうか、もしくは、そこまでしてでもデザインをする理由があるかどうか、ということですね。

【デザイナーの妻】:ほー。大変なチャレンジと向き合わないといけないのですね。デザ夫さんから「あきらめたら試合終了」の言葉が出る時は、そういう絶望との闘いの真っ最中かもしれないってことだね…。覚えておこう。

それでは、少し前の話に戻って、グラフィックデザイナーになるために必要なスキル、もしくは役に立つ資格ってあるのかな?と思うのですが。

【デザ夫さん】:英語が話せると便利ですね。グラフィックデザインは一つの言語のようなもの。視覚的なコミュニケーションの文法やボキャブラリーを学ぶことで、デザインのリテラシーが高まってゆくという意味で、グラフィックデザインは一つの言語に似ています。そうい意味では、複数の言語を話せる人にはアドバンテージがあると思います。2つ目の言語を学ぶより、3つ目の言語のほうが簡単に学べると言いますが、言語表現にみられる型のようなものを体で知っている人は強いですね。

【デザイナーの妻】:英語か〜!これもちょっと意外なお答えでありました。でも誰でも第2言語として英語を学ぶ機会はあったから、言語の習得プロセスを考えると良いのかもね。実際、デザ夫さん自身は高校生の途中からアメリカに引っ越し、英語の環境に放り込まれたことで、たくさんのコミュニケーションや文化体験から学んできたよね。(そうせざるを得なかったよね。)ではこのまま、デザ夫さん自身についての質問にいってみよう〜👀

【デザイナー夫】がグラフィックデザイナーになった経緯。独学でしたか?

【デザイナーの妻】:いよいよデザ夫さん自身についての質問です。まずは、本日のテーマである「独学」ですが…デザ夫さんは独学で学びましたか?それとも?

【デザ夫さん】:最初の数年は学校で学びました。工業高校で工業デザインを2年ほど学び、そのあと美大で4年間学びました。しかし、今振り返ると、仕事を始めた頃の自分は本当に何にもわかっていなかった。。。

大学で授業を教えるようになって、必要に迫られてデザインを深く学ぶようになりました。

【デザイナーの妻】:ふむふむ。大学で教えているのは通算10年ほど、ということで、駆け出しのヒヨっ子から現在まで、仕事そのものや教育を通して自分で学ぶ期間の方が長いってことね。じゃぁ…記憶をもう少し遡って、グラフィックデザインという職業を志すようになったきっかけは何だった?

【デザ夫さん】:幼稚園で自分の描いた絵が親に褒められたこと、ですね。後発の弟妹に親の愛情を全部持っていかれていた自分にとっては、起死回生のチャンスが「絵」にあったわけです。それ以来、絵を描くことを仕事にするという目標は一度もブレたことはありません。

しかし、それ以外にも素敵な出会いがたくさんありました。小学校の頃の親友がとにかく絵がうまかったのですが、ご両親がデザイナーでした。また、家の近くの高校にデザイン科があったというのも巡り合わせだと思います。

【デザイナーの妻】:え…幼稚園での出来事!それは興味深い。(ちょっとチビ・デザ夫くんを想像してみる👀)でもそれから一度もブレていないということは、本当にそれがスタートになったってことね。実際「グラフィクデザイナー」としていちばん最初にもらった仕事はどんなプロジェクトだったか覚えてる?

【デザ夫さん】:なんだったかな。最初にお金をもらったのは、小学校で描いた絵に賞金(食事券)がついてきたときですね。最初にロゴのデザインでお金をもらったのは、大学2年生の頃です。

【デザイナーの妻】:賞金(食事券)の記憶とは、貴い。かわいいじゃないか、チビ・デザ夫くん。最初の仕事は大学生でロゴ制作とは…すごいね。

現在グラフィックデザイナー人生は21年になるけど、デザイナーとして「やりがい」を感じるのはどんな時?反対に「チャレンジ=つまり挑戦」となることは何?

【デザ夫さん】:お客さんが喜んでくださる、というのはもちろんですが、その上で、自分でも思ってもいなかったような、良いデザインができたとき、ですかね。1年に1〜2回あります。あとは、教えている学生たちがどんどん成長していくのを見るのは、嬉しいかぎりですね。

逆に難しいのは、仕事をしていく上でのデザイン以外の要素、ですね。一人(フリーランス)になってだいぶ煩わしいことも減りましたが、それでも、デザインをビジネスとして成立させてゆくことは、僕にとってなかなか難しい。

【デザイナーの妻】:そうか。良いデザインができたと感じるのは1年に1〜2回か。やりがいもあり、チャレンジもあり、だね。でも学生さんたちの成長を見守り、チアリーディングしている様子は、いつも大変ながらも楽しそうだよね。キラッキラしてる。

ところで、私は「デザイナーって休みの日はどのように過ごしているの?」と聞かれたことがあるんだけど、本人の答えとしてはどう?仕事モードを完全にオフにする?最近忙しそうだけど、休みが取れたらどう過ごしたい?

【デザ夫さん】:休日もデザインのことを考えています。デザインのことを考えること自体は、決して苦になりません。でも、まとまった休日が取れるのなら、ヨーロッパの海辺の田舎町で、ゆっくり本を読んだり、ワインを飲んだりしたいなぁ。

【デザイナーの妻】:だよねー。(予想通りの答え。)私のプロフィールにも書いたけど、デザ夫さんの頭の中は常にデザインのことでいっぱい!だよね。ゆっくり休息できる日が待ち遠しいですな👀

長くなったけど…最後に、今後のデザイン業について。これからの時代、グラフィクデザイナーの需要は大きいと思いますか?これからグラフィックデザイナーになりたいと思っている方のために、これから見据えておくと良いビジョンがあれば教えてください。

【デザ夫さん】:デザイナーの需要は確実に上がってゆくでしょう。ただ「デザイン」の定義は時代とともにアップデートされてゆくし、それに求められる技術もどんどん上がって行くように思います。

【デザイナーの妻】:需要は大きくあるとのこと。それを聞けてよかった。おしゃべりしてたら長いインタビューになっちゃったけど、イロイロ発見がありました。どうもありがとう!

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「グラフィックデザイン・独学」というテーマで2週にわたってリサーチ&インタビューしてきましたが、学びの機会がたくさん開かれていることを知って驚くとともに、デザインという仕事の深さを感じました。実際に今、独学でデザインを学んでいる方が楽しく勉強を続けていかれることを、【デザイナーの妻】も陰ながら応援しております!

読んでくださってありがとうございました!



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