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青春時代はラジオと共に

私が今Podcastやラジオが好きなのは、昔からラジオが身近にあったからだと思う。そして、密かな恋の思い出もラジオと共にあった。

私がまだ実家にいた頃。中学生から高校生、浪人期の約7年間、我が家の朝はラジオから始まった。朝にテレビはつけず、NHK FM82.5を聴くのが日課になっていた。朝7時の時報は朝ご飯の合図。馴染みのアナウンサーの声からニュースを聞き、キャスターが天気予報を報じ始めたらそろそろ歯磨きをする頃だ。

平日朝7時から30分はニュース、7時半以降はクラッシックの番組が始まる。クラッシックを聞いている余裕などなく、毎日遅刻遅刻!と言ってはドタバタと学校へ出かける日々だった。

土日もニュースは変わらず放送され、7時半以降は平日、土、日で番組が変わる。音楽番組であることは変わらなかった。

高校生だった頃、土曜か日曜の7時半から始まる吹奏楽の番組を部活前に聞いていた。私が吹奏楽部だったこともあり、有名曲や知っている曲、コンクールの課題曲が流れたりするので楽しみに聞いていたのだ。

ある時、ある学生からのお便りが読み上げられた。匿名のメッセージとリクエスト曲を聞いた時、ピンときた。あ、彼だ、と。

同じ吹部でサックスを吹いていた彼がメッセージを送ったに違いないと気がついた。サックスを吹いていること、私たちがコンクールで演奏する自由曲のリクエスト。合致する点が多すぎる。彼じゃなかったら一体誰なんだ。ドキドキしながら、耳にタコができるほど聞いた私たちの自由曲を新鮮な気持ちで聴いていた。素敵だった。

いつもは憂鬱な部活前も、この日に限っては違っていた。普段知らない彼の一面を私だけが知っている優越感に舞い上がった。誰も知らない、私と彼だけの秘密ができたから。

その日、部活に行って意気揚々として彼にきいた。「今日ね、ラジオ聞いたよ。あれって、〇〇が送ったやつでしょ」

普段会話をすることもない私が急に話しかけたからか、それともラジオを聞いたと言ったからなのか、リアクションの少ない彼が綺麗な目を丸くして「そうだよ、聴いたんだ」と言った。

言いたいことはたくさんあったけど、「やっぱり」とだけ返事をして会話は終わった。私の心の中は込み上げる感情を抑えるのに必死だった。

彼がラジオを聞いていて、わざわざお便りを送ったこと。そしてそれをたまたま聞いていた私。なんていう奇跡なのだろう。誰にも邪魔されない彼との思い出を共有していることにニヤけてしまいそうだった。

お分かりの通り、当時、私は密かに彼に恋をしていた。

整った顔と女子よりも小顔で綺麗な肌。高身長、綺麗で長い指。賢くて、サックスを吹いて、音楽センスもある。だけど、自ら女子と連むことはないし、興味のなさそうな態度。(そもそも恋愛とかに興味がなさそうだった)

これだけの条件が揃えば、女子人気が高いのもおわかりいただけるだろう。一般的なモテる男子というより、隠れファンが多いタイプの男子。

一方で、拗らせていた私は素直に好意を伝えることも、周りにその好意がバレてしまうのも嫌だったので、心の中で恋を実らせていた。もちろん、今思うと周囲にバレていたとは思うけども、誰にも言ったことはなかった。ただひたすら彼のことを目で追って、どうでも良いことで興味を惹こうとしていた。

ある時、彼と二人で話すことがあった。全く大したことは話していないけれど、彼の目を見つめて話している時間はなぜかゆっくり時間が流れていた気がした。綺麗な目と綺麗な肌に見惚れていた。

なんのアクションを起こすこともなく、LINEを交換することもなく、同じ部活で過ごす時間はあっけなく終わった。そのまま卒業した。

彼は現役で京大に行ったらしい。私は1年の浪人期を経て、同志社に受かった。

今、同じ京都にいるはずだけど、卒業以来会っていない。

もう会うこともないだろう。

会ったところで、彼が私のことを覚えているかは分からないし、そもそも話すことがない。だからこそ、素敵な昔の思い出はそのままにしておきたい。

ラジオの話からだいぶ脱線してしまった。

高校時代、家に帰ってきてからもラジオを聞いて過ごしていた。だから、私の青春は朝から夜までラジオと共にあったと言っても良いだろう。

その中で淡い恋も含まれていたというわけ。

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