見出し画像

印象派的身体

 目を開けば開くほど、泣いてはいけないと思えば思うほど視界がぼやけ、見たいものも見たくないものも全てが霞んでいき、光と影を残して実像と実像の境目がいっしょくたんになってしまった。空に向かって伸びるあなたの人差し指は空に飲み込まれ、あの時胸がヒリつくほど感じた怒りも諦念も寂しさも、あたかもそこに存在しなかったかのように吸収され、あなたはあなたのままだ。光と影以外のものが全て、付和雷同的にぬるっと同じ色で佇み続ける。
つけた傷もついた傷も見えなくなり、眼鏡を外した時の視界が広がる。なかったことにするつもり?そんなの死んでも許さない。まだ愛しいと思えているあなたの首を、そっと絞めたくなる。傷ついた私を抱きしめられるのはあなたではなく、強くなった私なのだろう。

 白のパラソルでありながら、青や薄紫、黄、黄緑、たくさんの色が織りなされている。黄色の線が強くなれば黄色の日傘になるし、薄紫の線が濃くなれば薄紫色の日傘になる。心の傷が深くなれば真紅になるし、あなたへの嫌悪が増えればそれは、もうそれは、ただの人間がそこにいる事実しか残らなくなる。あなたの実像を何色でぼかすのか、決めるのはあなた自身ではなく私だ。色は調和しなければならない。この吐き気は、あなたへの憎悪だろうか。愛と憎しみを共存させるための傷を、私は、背負い続ける覚悟があるのだろうか。あなたへの憎しみは、あなたへの愛の蜃気楼に姿を眩まし続けるのだろうか。満たされる時に綴る言葉なんて、屑だ。人間は病める時にこそ、制作できるのだろう。言葉の屑を並べてひとつの哲学が完成するならば、心の額縁にそれを飾りたいと思う。きっと私が創った作品によって、私が創られる瞬間が来る。ベンヤミンも西田幾多郎も、きっと目をまるくする。
今日も私はモネの絵のように、ぼやけながらも繊細で脆い心を持ち続ける。海に映る月のように、最後に残る感情は何だろうか。私は君を映す海であり続けるのだろうか。

この記事が参加している募集

#ほろ酔い文学

6,042件

#文学フリマ

11,687件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?