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私達のラブソングを聴いてくれ #2000字のドラマ

同じ軽音サークルの、同期男子が死んだ。

お調子者で、いつもサークルの中心にいて、つまり私とは対照的なタイプ。
飲み会で隣の席になれば、少し世間話をする程度の仲の男の子。

だから、なぜ死んだタケルが私に取り憑くのか、全くもって意味が分からない。

この世に未練があって成仏できないみたいでさ。同じサークルのよしみだし、キョウコ、協力してよ」

「そりゃ、未練は沢山有るだろうけどさ…」

「一つでいい。カナに告白できたら、俺はもう即成仏するから

私に頼まれても困る。
そもそも、私はカナとも、特別仲が良いわけじゃないのに。

最初は、適当にあしらってれば諦めるかな、とか思っていたけど、どうやらタケルは本気のようで、1週間どこに行くにも付きまとわれて、いい加減嫌気がさした。

遮蔽物もすり抜けてしまうし、他の人からは姿が見えないなんて、幽霊という存在はたいへん卑怯である。

「仕方ないから協力するけどさあ、具体的には何すれば良いの? 実はタケルはカナのこと好きだったんだよー、とか本人に伝えれば良いの?」

投げやりな私の態度にもめげず、彼が言うことには。

「ラブソングを作ったから、学祭で、俺の代わりにカナに歌ってほしいんだよ」

「…それ、私が歌っても意味なくない?」

「意味はある! 聴かせたいんだ、俺の一世一代のラブソングを!」

「いや、ラブソングで告白って一番寒いやつだって。ヤバいよそれ、めっちゃイタいよ」

「交通事故の痛みに比べればなんてことないね!」

それを言われたら何も返せないけど。
恥ずかしい思いをするのは私なんだが?

「本当にそれ聴かせたら成仏するのね? あと、これはタケルから託されたもので、私が作ったんじゃないって言うからね?」

「もちろん! いやマジで有難い、持つべきものは優しい同期だな」

大して仲が良かった訳でもない、サークル同期の頼み。
正直気が進まないけど、地縛霊になられても困るし…ということで、私達の告白大作戦は幕を開けたのだった。

私はしがないベース弾きなので、ギターもボーカルも専門外だ。
仕方ないので、部室で埃を被っていたギターの弦を張り替え、コードを押さえる練習から始める。

「そこ違う」「ここは、この押さえ方のが綺麗な響きになるな」

小姑みたいにダメ出ししてくるタケルに、思わず言い返しそうになって慌てて口をつぐむ。
この声も私にしか届いてないなんて、本当にずるい。
このままじゃ、ノイローゼになってしまいそう。

歌は恥ずかしいので、カラオケでこっそり練習した。声が出てない、とか言って、発声の基礎練から始められた時は、流石にキレて喧嘩になった。

          ✳︎

一緒にいるようになって分かったこと。

「テストなんて良いからギター弾こうよ」

タケルは結構自己中で、

「キョウコ、才能あるよ! もっと練習して、最高の演奏をカナに届けようぜ!」

思ったよりずっと音楽馬鹿で、

「なんでベースの私なの。ギタボの子に取り憑けば良かったじゃん」

「キョウコの声って、深みのある落ち着いた良い声してんじゃん? 歌わないの勿体ないなってずっと思ってたんだよ。後、手だね。キョウコ、女子にしては手大きいし、指長くて綺麗じゃん。ギターをかき鳴らすとこ見てみたくてさ」

…ほんと、悪気ない音楽馬鹿なのだ、こいつは。

           ✳︎

そうこうしている内に、文化祭がやってきて。

「えっと…この歌はタケルから託されたもので…カナに捧げます」

舞台の裾では、ハラハラとタケルが見守っており。
客席の真ん中にいるのは、カナ。

見てろよ、カナ。
これがタケルの…タケルwith私の、渾身のラブソングだ。

緊張で、歌っている最中のことはよく覚えていないけれど、舞台から見えるカナの潤んだ瞳が美しくて、タケル見てるか?と思ったことだけは覚えてる。

「カナ…答えを、天国のあいつに聞かせてもらっても良いかな」

演奏が終わり、息を整えながら私は言う。

カナは少しもじもじとした後、

「タケルくん、ありがとー! 気持ち嬉しい!」

と舞台に向かって叫んでくれた。
更に続けて、

「でも私、舞台上のキョウコちゃんがかっこよすぎたから、キョウコちゃんを好きになっちゃったかもー!」

あんまりなオチに周りが笑って、カナもホッとしたように笑って、私もつられて笑った。

そうして、私達の一世一代の告白大作戦は幕を閉じたのだった。

閉じる………はずだった。

「キョウコに負けるのは納得いかんのだけど!?」

「だからそれは、あの場を収める冗談だって…」

「納得できないから、成仏できないんだが!?」

「はいはい」

「こうなったら…俺が曲を作るから、メジャーデビューまで駆け上ろうぜ!」

「なんでそうなるのよ。…まぁ、しばらくは付き合ってあげても良いけどさ」

例えばカナみたいな女の子らしさとは無縁な低い声、大きい手。

私のコンプレックスを輝かせてくれた愛すべき音楽馬鹿と一緒なら、もう少し続けてみても良いかもしれない。

<了>

#2000字のドラマ #若者の日常 #創作 #小説 #短編小説 #SS


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