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#24.妻は施設に、夫は家に

老老介護(高齢者同士の介護)、認認介護(認知症同士の介護)という言葉が囁かれて数年。今、在宅の現場はこういった世帯で溢れている。

私は理学療法士として、在宅でリハビリに関わっているが、どうやってこの夫婦は過ごしているのだろうと疑問に思う家庭もある。

妻は脊柱菅狭窄症。腰痛がひどく、数分立ち仕事をするだけで立っていることもままならない。もちろん調理もほとんどできず、唯一作れるものは味噌汁だけ。認知症もあり、家事をやったのかは覚えていない。時々目の前のゴミを拾ってゴミ箱に捨てるのを見かけるが、他の時間はほとんど同じ場所に座ってテレビを見ている。

夫はパーキンソン病。うまく歩けずに転倒を繰り返している。重度の難聴で会話もほとんど成り立つことはない。認知症で今日が何日かもわからない。買い物に出ては、転倒を繰り返し警察に保護されることもしばしば。

団地の3階に住んでいたため、妻はここ数年外には出ていない。階段を降りる力さえ残っていない。
夫が近くのコンビニで買い物を行うが、家に何が残ってるかわからないため、賞味期限切れの食パンが山程積まれている。

そんなこんなでも、買い物や週に2回の調理補助、掃除などヘルパーに依頼することでなんとか生活できていた。
腐った味噌汁を飲んでしまいお腹を壊すこともあった。転倒の傷口によくわからない軟膏を塗りたくり悪化させたこともあった。味噌汁の中に青汁の錠剤をいれ、塊のまま飲んでいたこともあった。とにかく傍から見たらもう限界なんじゃないかと思われる状態だった。

そんな折に妻が転倒。歩くことができなくなりそのまま施設入所となった。このまま二人で施設かと思われたが、お金の問題と夫の強い拒否もあり、夫は家に残ることに。夫は最近まで妻が病院におり、帰ってくると思っていた。しかし、数ヶ月が経ち少しずつ現状を把握してきている。面会に行く度に楽しそうにしている妻をみて、一緒に施設に入りたいと願うようになってきている。しかし、金銭的な問題もありそれが叶うことはない。

おそらくこれからも夫は一人で生きていく。最期のそのときまで

※この物語はフィクションを含みます

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